諦観
統一暦499年8月29日午前4時23分
ミカエルとガブリエルによる攻撃で、
「ここって地下何階まであるの?」
揺れで転びそうになりながら恵吏は御繰に聞く。
「確か……12階とか?」
「7階分のポテンシャルエネルギーがすべて運動エネルギーに変化すると、人間は死にます。」
アカリは冷静だった。
「嫌だぁぁぁああ!死にたくないぃぃい!」
統一暦499年8月29日午前4時23分
「ガブリエル、やりすぎるなよ?建物ごと潰しそうだぞ?」
「私がその程度の演算ミスするわけがないでしょ。」
統一暦499年8月29日午前4時25分
何度も転びつつ、三人は廊下の突き当りの大きな扉までたどり着いた。
「ここの奥の通路から別の建物に移動できるはず。」
御繰はそう言って扉をこじ開ける。
扉の向こうの薄暗い通路に三人は逃げ込んだ。
統一暦499年8月29日午前4時38分
「……もうこれ以上やったら建物ごと圧死させてしまうわ。ミカエル、中に入って探すわよ。ラファエル、中は暗いだろうから暗順応強化お願い。」
ガブリエルを抱きかかえたミカエルは今にも崩れ落ちそうな建物の中に入っていった。
統一暦499年8月29日午前5時3分
恵吏たちは長い通路を抜け、ようやく地上に出た。
雨は止んでいた。そして、もうすぐ日の出。ビルの隙間から薄明かりが差し込む。
歩いている間、アカリはずっと考えている様子だった。
「灯。……まだ逃げる?日の出まであと10分くらいあるけど。」
「……それが、最大多数の最大幸福なんですか?」
「……?」
「……私は……。」
統一暦499年8月29日午前5時4分
「捕まえた。」
統一暦499年8月29日午前5時4分
「……?!」
背後からアカリに抱き着いた少女がいた。ガブリエルだ。その後ろからミカエルも歩いてくる。
「追いつかれた……。」
「あなたたち、よくも逃げるなんて真似してくれたわね。見つけるのにもう少しかかったらこの時間で移動可能なエリアをまとめて吹き飛ばすのも真面目に検討してたわ。」
「……ッ、灯……!!」
アカリは呟いた。
「私は、この演算を信じます。」
その直後だった。
「……ッ?!ああああああああ!!」
ガブリエルが頭を抱えて悶え始めた。
「ガブリエル?!大丈夫か!」
ミカエルが駆け寄る。ガブリエルは鼻血を出してのたうち回っていた。
「ラファエル!聞こえるか?!今すぐ来い!」
ガブリエルの手から離れたアカリは悠々と歩いていく。
「さあ、逃げましょう。……御繰さん、あなたはもうついてこなくて結構です。逃げてください。」
「でも……」
「死にたいんですか?」
「……。」
御繰は回れ右をすると走って逃げて行った。
「恵吏さん。あと10分だけ、時間を稼ぎましょう。大統領に位置情報を送りました。もうすぐ部隊がやってくるはずです。そしたら天使たちは手出しができない。」
「でも、そんなことしたら……」
「私は諦めました。これが、最大多数の最大幸福です。諦めるのは私だけで済みます。さあ、」
恵吏は笑うアカリを初めて見たかもしれなかった。
「行きましょう。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます