ミカエルとガブリエル

統一暦499年8月29日午前1時17分

「あれ?ガブリエルからの通信が途絶えたぞ?」

 ビルの屋上を跳んで渡りながらミカエルが言った。

『おかしいですね……それどころかこちらからガブリエルさんに接続することすらできません。』

 ミカエルとは離れた場所に居る後方支援担当のラファエルが呟いた。人工天使たちはネットワークを介して遠隔した場所でもすぐ近くに居るのと同じ感覚で会話ができる。

「ウリエル、そっちはなんか知らないか?……ウリエル?」

『……あ、すみません。……ガブリエルさんなら、手分けしようって言って私とは逆方向に行っちゃいました……。』

「そっかー。……じゃ、私がガブリエル探してくる。」


統一暦499年8月29日午前1時19分

「だから、私たちは真に仕える先、神が完成するまで彼の任務を遂行し続けるわ。」

 ガブリエルがそう言った直後だった。

「ガブリエルに手を出すな!」

 声とともに、上空から雨の中でも燃え盛る炎剣が飛んできた。誰かに当たりはしなかったものの、当たったらただでは済まなかっただろう。

 ガブリエルが言う。

「あら、遅かったわね。」

「なんか連絡つかなくなってたけどどうした?」

「あー、それね。この子にネットワークの接続権限ブロックされちゃった。」

「え?それってまずくない?」

「まずい……かもしれないわね。このままじゃまともに能力を使えないわ。」

「それってもしかして、私も能力封じられるかもしれないってこと?」

「そうね、理論上は。でも、大統領の捜索を撒くためとか、私たちのネットワークを利用した索敵を制限したりとか……。とにかく、同時に演算してる量が多すぎて今の彼女じゃ私たち全員のアクセスをブロックしようとしても、完全にはできない。むしろ、それぞれのハッキングに対処しきれなくなってこっちは能力を使い放題になるわ。」

「じゃあ……私は安心していいのか?」

「ええ。あなたの能力が封じられるという懸念はしなくて結構よ。」

 ガブリエルはおもむろにミカエルに抱き着いた。

「うわっ、人が見てる前で何する気だ!」

「……何を言ってるの?私が直接接続する権限はブロックされた。でもあなたを介してなら私も能力を使えるでしょう。」

「……、ごめん。」

 ミカエルの背中から純白の大きな翼が出現した。ミカエルはガブリエルを抱きかかえたまま飛び上がる。

 恵吏えりは叫んだ。

「……ッ、待てっ!」

 ミカエルにお姫様抱っこをされたままでガブリエルが言った。

「私たちもこんな一般人に被害が出るようなところでドンパチしたくはないの。そこのおじさまも迷惑してるでしょ。」

 途端に、ほんの少しだけドアを開いて顔を覗かせていた御繰みくるの隣室の住人は驚いてドアを閉めてしまう。

 ガブリエルはちらりと聡兎そうとを見やってから続ける。

「ほんとはウリエルに気づかれないように大ごとにならないうちに終わらせたかったけど。仕方ないわね。ここいら一帯の住民を惨殺したくなかったら、ここまで来なさい。」

 ガブリエルがそう言うと、恵吏の端末に位置情報が転送される。

「大規模に何かやるのは極力避けたいの。数人の人間の記憶操作くらいなら容易いんだけど、」

 それを聞いて紅音あかねの顔がこわばる。

「さすがに数万人の記憶をいじるのは疲れるのよ。」

 その発言が意味するところは、不可能ではということだろう。

 ガブリエルは高らかに宣言した。

「天使と人の子の戦いといきましょう?」

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