おわり
おわり
長らく日本というエリアの文化、経済の中心として発展してきた街、東京。その中心部に現れた直径3キロメートルほどの巨大なクレーターのど真ん中に私は立っていた。
物理的干渉を受けない存在に昇華した私の肉体だけが無傷で残り、全裸で突っ立っている格好だ。
自分の全てと引き換えに朝倉灯という存在の消滅を回避させた恵吏の肉体は爆発のおかげで木っ端微塵に吹き飛び、欠片も残っていないはずだ。
ネットワークに接続していた全てのエンティティは限界を遥かに超えた負荷がかかり、ネットワーク接続済みの全人類は死んだ。まだ接続していない生後数分の乳幼児ならまだ生きているかもしれないが、それも保護する存在が死んだ今その命が尽きるのは時間の問題だろう。また、ネットワークに接続していた機械類も同じく演算基盤の限界を超え、もう動かないだろう。
街の中心部にあるネットワークの信号をまとめて送受信するための巨大なタワーは演算基盤がショートして爆発したのか大破し、中程から折れて周囲のビル群にもたれかかっている。
暗い雲がやってきて、空に遠雷が鳴り響いた。そして、冷たい雨が降る。
クレーターの外に向かって歩く。
雨に濡れて滑りやすくなった地面を歩く。クレーターの斜面で、幾度となく転んだ。全身が泥に塗れた。
クレーターの外縁に辿り着いた。爆風でビル群がなぎ倒され、道路にはガラス片が散乱している。
一つの崩れかかったビルの屋上に向かった。中には幾つもの死体が散乱していた。ある者は頭部が黒く焦げ、ある者は上半身が粉微塵に吹き飛んでいた。
階段は崩れ落ち、回り道をしなければならなかった。
屋上の扉を開く。そこからは自分が立っていたクレーターの全貌を臨むことができた。
ふと、近くの壁に死体がもたれかかっているのを見つける。
その壁に背中を強い力で叩きつけられたらしい彼女は、口から血を吐き、背中は洋服ごと皮膚が弾け飛び、全身が血塗れになっていた。
クレーターの中心部から爆風でここまで吹き飛ばされた彼女は、
「え……り、ちゃん。」
自分の中には、まだ感情というものが残っていた。最愛の人がもたらしてくれたのは、とても残酷なものだった。
目元から、人間的な液体がとめどなく流れ落ちる。
「分からないよ……。私が望む世界とか、幸せになれる世界とか。」
右腕を、天に掲げる。
「終わらせる。全部。」
願った。
こんな苦しみから解放されたい、それだけを、強く、強く願った。
自分の身体から大きな力が溢れていくのを感じた。世界と自分が繋がっていく。
まず、重力が消えた。地上にある全てのものは地球の回転による慣性力に従ってゆっくり浮かび上がっていく。
強い力が消えた。全ての物質が解け、素粒子に還元されていく。
弱い力が消えた。全てのクオークは変化する術を失った。
電磁気力が消えた。世界を照らす光は消失した。
全てが無に帰す。全てがリセットされる。
宇宙も、私も、この物語も。
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