第13話 リンド国の聖堂にてー聖職者の内輪の話ー 


 セバス

「大人の頭脳と大人を超える力と年齢相応の心をもった子供の扱いは むつかしいなぁ

あれが我が子であれば 子供の成長を楽しみながらじっと見守り育て上げる喜びにつながるであろうに。」

 大司教

「わしには あの娘は排除すべき存在にしか見えぬな。あれは存在するだけで波風が立つ」


 セバス

「しかしながら 先ほども これまでも あの娘の語る理想に心を動かされていたのでは?」


 大司教

「だからこそじゃ。あの娘の語る言葉の一つ一つが大人の心を揺り動かす

 それは 善良で思いやりに満ち さらに人の心の奥深くまでっ見通す洞察力と

 相手を傷つけまいとする思慮に満ちておればこそ。

 だが あの子の心に育つ理想の世界から零れ落ちる言葉ほど 人の心を惑わすものはないぞ。なにしろ 人の打算や欲を頭から否定しておるからな。

妥協を知らぬ子供の純粋さほど 社会を乱すものはない!」


 セバス

「しかし彼女は 法に反することは何一つしておりませぬよ 言ったことすらない」


 大司教

「だから余計にたちが悪い。さばいて葬り去ることすらできぬ。

 しかもなまじ力があるから 力で押しつぶすことすらできぬ」


セバス

「社会的には己の立場を守り通しているように見える彼女ですが 内面はすでにズタボロでずいぶん弱いですよ」


大司教

 「そうか まずいな。力のある者は壊れ始めると周囲への破壊力が増すからな」


セバス

「なんでそう とことん排除思想なのですか。相手はまだ子供ですよ!」


大司教

「育ち切る見込みのない子は さっさと叩き潰すのが世の為、人の為じゃ」


セバス

 「そんな世を維持するために 私は生きたくありませんね」


大司教

「冷酷無比と言われたお前が あの娘に会ったときからそのような優し気な男に変貌し始めたことから見ても あの娘の危険性は証明された」


セバス

「そういうあなたは 若者の理想をおおらかに見守る司教様であったはずが

なんですか 今日の発言の数々は!」


大司教

 「若者の成長を見守るわしの許容範囲を超えておるのじゃよ あの娘は!!」


セバス

 「己の許容範囲を超える存在に出会ったとき 全力でそれを潰しにかかる・排除すしようと躍起になるのを 狭量という ってお説教を垂れていたお方の、このことば

 嘆かわしい」よよと泣き崩れて見せる


大司教

「それでも 手を出さずに 脅しをかけただけのわしの努力を認めて欲しいものじゃ」


セバス

「今、手を下さなかったのは 屋根の上でドラゴンが殺気を放っていたからじゃありませんか。

 それに しっかりと戦線布告をしてましたよね、さきほどは」


大司教

「ふむ 正直者のわし」と胸を張る

(さすがにセバスの前で これまで積み上げてきたわしへの信頼をぶち壊すまねはできぬからな。これでもずいぶん 我慢しておるのだ、あの娘に対して。

 手札として使えぬ実力者など早期排除が鉄則じゃというのに!)


セバス

 「私は あの娘の保護者として今後もあの娘の盾となる心に変わりはありませんから。今の私が教会組織にとどまっているのも 今の地位を保つためにあなた様に協力するのも あくまでも今のあの子を守り これからのあの子の成長を促すためです。

そのことをお忘れなきように」


大司教

 「変われば変わるものよう。所詮若いときに理想を語る者は 老いては情に流されるということか。つまらぬの!」


セバス

 「失礼な!若きときは、理想を実現せんと野心に燃え、野心と理想を共に満足させてくれそうな存在に出会えば その者に情熱を注ぐ。そういう男です、私は。」


大司教

「ならばこれからもわしに力をかせ! お前の理想と野心を満足させてやれる男ぞ、わしは」


セバス

 「ならば 私からの信頼を失わぬ振る舞いを」 

(まったく ここまで独占欲の強い男だったとは。子ども相手にその才に嫉妬するとは存外器の小さい男であったな。失望とはさみしさを伴うものであると初めて知ったよ)


セバスは一礼して退出した。


大司教

 (親運の悪い子に 他人がどれほど心を傾けても、その子の心の穴を埋めることも傷跡を消すこともできぬということを悟らぬ奴は やっかいじゃな。

 セバスがどこまでそのことに気付いているのやら。

 報われぬ愛に気付いた人間もまた もろくなる。将来有望な中堅どころが、そうやって身を持ち崩すのをわしは見たくないのじゃ。

 有望そうな若造を中堅まで育てた労力がむだになるからのう。

  せこいと言うな。わしは己の力の限界を踏まえて 考え行動しておるのだから!)

 


 


   

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