第25話 旅の予定

  食事を済ませ、4人でリビングで寛いでいた。いつからフィールドワークに出るのか、という桜子の問いに、来月末くらいかな、と答えた。

  学期が終わって少しだけゆっくりしたら出かけたいと思っていたから、その予定で手配を進めていた。

  フィールドワークのメインになる中部エジプトとルクソールでの滞在期間にも寄るが、車をチャーターし、飛行機も存分に使うことで、比較的時間に余裕はありそうだった。それも、マアディの家に戻る度にちょっとゆっくりしたい、という楓の希望があったからではある。

「それにしても...楓ちゃんが一緒に行くなんて、びっくりした。」

「でもまあ、そうだよね。私でも付いていくかも。」

大晦日の衝撃から3ヶ月経って、初めて2人に一緒に行くことを伝えたら、2人は初め、私と同じように大きな声を出して驚いたが、その後口々にそう言った。

「私も海行きたいな。全然エジプト旅行してないし、合流していい?...あ、勿論、お邪魔じゃなければ。」

「あ、私も!」

「あぁ、良いんじゃない?また予定わかったら教えてよ。」

「リゾート楽しみ!水着買わなきゃ!」

と、2人は大いに乗り気だった。

  デザートのケーキを食べながら暫くの間止めどなく、新しく来た留学生が奈津の家に集っている話や、私達が引っ越し時に置いて行ったクリスマスに使った巨大なツリーをどうしたものか、奈津の家の近くに、レバノン料理のレストランが出来たから近いうちに行こう等、話に花が咲いた。そして、終電が無くなる時間を見計らい、2人は帰って行った。


  2人を玄関先で見送り、扉を閉めた楓はくるりと私を振り向いて睨んだ。

「な、何...?」

「何で、リゾート合流あんなにアッサリ了承したのよ?」

「え...嫌だった?あの2人なら、楓も楽しいかなって思ったんだけど。今日も、あんなに楽しみにしてたし。」

「レバノン料理行くって、いつ行くのよ?毎日、あんっなに忙しいくせに。」

今まで聞いたことがないような、怒った声だった。


 (...あぁ、そういうことね。)

機嫌が悪い理由がわかって、内心苦笑した。

「ごめんね。」

「何が悪かったか、わかって言ってる?」

「わかってるつもり。...今日ね、楓が料理してるの見てて、反省したの。全然一緒に過ごす時間作ってなかったなって。」

それまで気丈に私を怒っていた楓が俯いた。

「昨日でひと段落したから、来週からは比較的早く帰れる。ごめんね?寂しかったよね?」

「...わかってるなら、許す。」

「涙声になってるじゃん。」

私は彼女の頭をポンポンと撫でた。

「一緒に旅行できるってわかってるし、その為にレイは忙しいって理解はしてるけど、毎日殆ど話せなくて、一緒に時間も取れずにいるのに...レイが普通に出かける話とか、皆と遊ぶ話してて、なんか悔しかったの。」

「本当にごめん、悪かった。」


  私はまだ泣き顔の彼女をダイニングテーブルに座らせると、旅行会社から受け取ったスケジュールや、宿泊するホテルのリストを見せながら、横に座った。

「最初はね、地中海の方に行こうかと思ってるの。季節的にはまだ泳げないから地元民はまだ居なくて、あまり混んでないだろうし...。途中で、サンエルハガルって遺跡に寄ってから、アレキサンドリアを回って...最後は地中海のリゾート地マルサマトルーフ。海の見えるホテル、予約したんだよ。」

「素敵かも。」

彼女の顔に笑顔が戻ってきた。

「地中海から帰ってきたら、楓にはちょっとつまらないかもしれないけど、中部エジプトに行きたいんだ。この辺りはあまりホテルも良いのが無くて申し訳ないんだけどさ。」

彼女は、私が広げたエジプト地図を指差しながら行き先を説明するのを、頷きながら楽しげに聞いていた。

「その後は?」

「まだ決めてないけど、紅海行く?泳げる季節になってると思うしね。シナイ山にも登ろうか。」

「シナイ山って、聖書のモーセの?」

「そう。頂上からの朝日、最高らしいよ。」

「登りたい。」

「じゃあ、そうしようか。」

  予定を話しているだけで、楓が笑顔になっていくのが嬉しかった。ここ暫く見ていなかった笑顔だったから。大切にしよう、と思ったのに、その直後から彼女に寂しい思いをさせた事を後悔した。

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