第12話 誰

・・・・・・・・・・

神社では”修行”を20代の男女限定で行われている。

修行は電子機器が使えない。

神社の敷地内のみで生活するとのこと。

この修行に参加している人は、外との連絡が取れないことが分かった。


しかし行方不明者が全員神社にいれば誰かしら目に入るはずなのにいなかったし、

管理人さんは神社には二人しかいないと前に言っていた。

この矛盾が少し引っかかる。


修行のレベルに合わせて、行うことが違うみたいなことを言っていたが、本当にそうなのだろうか。


食事は本来の日本人の体質を取り戻すプログラム。

米と野菜、果物で3食。


全参加者は20人ほど、丁度行方不明者の人数に近い。

少しではあるが、こちらの情報と一致するものがでてきた。

・・・・・・・・・・


これから修行についての話が始まるそうなので、一旦外に出て時間になるまで外で散歩することにした。


管理人さんはまた今度来る観光客のための準備をしにいった。

着いて行こうとしたがのんびりしてなと言われ、一人で時間を潰すことにした。


下手に神社の周りもうろつくのも微妙なので、一旦家に帰ろうかなと考えていると

巫女さんが階段を下りてきて私に話しかけてきた。


「この間のはもう試しましたか?」


御神酒のことだろうか。


「一度飲んでみましたが、不思議な味でした。」


「一杯だけですか?」


「はい。」


「何度も飲んで、体の内部の邪気を浄化すると幸せが訪れるので気が向いたらまた飲んでみてください。」


「わかりました。ありがとうございます。」


それだけを言い巫女さんは階段を上って神社に帰ってった。

何度も飲むものなのか。

私は1度だけだったからは幸せな夢が見れなかったんだろう。


幸せが酒を飲んでるだけで訪れるのなら、世界中が酒浸りになってしまうな。

まあ幸せと感じるかは気の持ちようだからな。

よく眠りたい日だけ飲もう。


一旦家に帰り、さっき聞いたことを本部に連絡した。

とりあえずその観光客たちはしばらくそこにいるから安心だろう、とのこと。

行方不明者の写真が改めて送られてきた。

もし神社にいたら連絡するためだ。

時間までその人たちの顔を覚えることにした。



食事に誘われた時間に間に合うために家を出る。

一食分浮くのはラッキーだな。

作る手間も省けたし、今日はのんびりできそうだ。


神社につき、社務所にいる巫女さんに話しかける。

先ほど話しかけてきた雰囲気とはまた別の感じがする。

今は仕事モードなのだろうか。あまり話しかけてほしくなさそうだ。


さっきのキッチンに通してもらう。


「さっきぶりです。」


「あ!金武さん、お待ちしてました。」


エプロンを付けて、ご飯を作っている。

人数が多いので見たことのない量を快夜さんは一人で作っていた。


「なにかお手伝いしますよ。」


「ありがとうございます!お椀にお米もりもりで入れてもらってもいいですか?」


「はい。」


テーブルに乗っていた人数分のお椀にお米を盛っていく。


「参加者の方は?」


「ああ、今修行中です。」


「神主さんいなくても大丈夫なんですか?」


「はい、勉強で言うと教科書で自習みたいな感じです。」


「なるほど。」


さすがに内容は教えてくれないか。

10人分あるので管理人さんも後で来るのだろう。


神主が大皿におかず入れ、テーブルに置いていく。


私は等間隔に米を置いていく。


「この取り皿も置いていっていいですか?」


「はい!お願いします。」


取り皿を置いて行くと、扉の向こうから何人もの足音が聞こえてくる。

扉が開くと参加者の皆さんだった。

疲れているのか会話のする気力も出ないみたいで

ぽつぽつと話をするだけだった。


それぞれ神主が指示したものを食卓に準備していく。


結構ハードな修行なんだなと思いつつ、自分も準備していく。

人数が多いのであっという間に準備できた。


それぞれ椅子に座り、いただきますを言って食べ始める。

久しぶりに人と一緒にご飯を食べたな。


出来立ての美味しいご飯を食べながら、みんなの様子を見る。

疲れてる+おなかが空いていたのかすごい勢いで食べていた。

神主はそれを見て満足そうにしながら食べ進める。


しかし一切会話がない。

しかもまだ管理人さんは来ていない。

なんだか不思議な空間で食事している。


扉が開く音がしてそちらを見ると、見たことない男性が入ってきた。


「お疲れ様です。」


ご飯をかきこむ音とともに神主がその男に話しかける。


「おう。」


開いている席に座り手を合わせて食べ始めた。


誰?

これは話しかけてもいいのだろうか?


40代くらいの短髪の男。

ラフな格好で遅れてやってきた。

修行の参加者ではないと思われる。


思い切って話しかけることにした。


「初めまして、最近この村に引っ越してきた金武と申します。」


パッとこちらを見て少し間があったがその男が口を開く。


「ああ、君だったんだね。引っ越してきたの。よろしくね。」


と言いまた食べ始めた。

二言で会話終了してしまった。

いったい誰なんだろうか。


あっという間に食べ終えて、参加者の人は巫女に連れられどっか行ってしまった。


残った自分と神主と謎の男。


謎の男はPCを開き、なにか作業をし始めた。

この人はどういう人なのだろうか。

もやもやしていると神主が話しかけてきた。


「料理どうでした?」


「すごく美味しかったです。ごちそうさまでした。」


「少しお話したいのですがお時間ありますか?」


「はい、大丈夫です。」


「じゃあ行きましょう。」


謎の男の正体は分からないまま別室を移動した。

話は御神酒の件だろうか、心音が大きくなっていく。

神主の後ろをついていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る