第52話 鏡

お化粧をしていると、徐々に自分の顔が変わっていく。


鏡の中で、それまでとはまったくちがう自分がいるのだ。


でも、鏡に映っているのは、本当に自分なのだろうか?


自分に似た、別人なのかもしれない。


鏡は反射する銀の幕を、ガラスに張ってつくられる。


その日も、ふつうに私は鏡をみていた。


しかしふと、よそ見をして、ふたたび鏡をみて驚いた。


自分がそこで、化粧をしていたからだ。


今の私は、まだ化粧道具を手にしていないのに……。


鏡の中の自分は、自分が先走ってしまったことに驚き、


申し訳なさそうに言った。


「ゲシュタルト崩壊を起こしちゃった」


ゲシュタルト崩壊は、自分の中でおこすもの。


鏡の中の自分が、それをそういうことはないはず……。


私はつぶやく。「ゲシュタルト崩壊を起こしちゃった……」

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