第37話 焚火

焚火は人の心を癒してくれる。


常に移ろうその姿に、じっとみていても飽きることがない。


でも、私はそこに人の顔がみえてしまう。


その顔は一瞬のこともあるし、しばらくその姿を少しずつ


変えながら、じっとこちらを見ていることもある。


そのとき、恨めしそうにこちらを眺める顔に、


話しかけてはいけない。


だってその顔は、何かを伝えたくてそうしているのだから。


話しかけたら、それを伝えようと取り憑かれる。


だから、見て見ぬふりを決めこむか、目を逸らした方がいい。


それをしなかった私は、今も幽霊からの囁きを聞く。


焚火は、人が死んでからも癒すものだ。


火葬だって焼くのだから。


私は焚火で癒されない。移ろうその炎が、人の顔にみえる。


だから私は焚火をする。だって私は寂しがりだから。

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