第55話

 「ティオールには後で話をするとして、カチョ? 君は誰だい?」


 にい様がティオールのお名前を呼んだ時に一瞬、ティオールがビクッてなったのを僕、はっきりとバッチリ見ちゃいました。

にい様のお声はそんなに大きくなかったのに、ビックリしちゃったのかな?

んー……。分からないです。

 そしてカショウはピョンッて飛び跳ねて、お背中ピンッ!てしました。

うさぎさんじゃないのに、ピョンッ!て跳ねるのが、なんか面白いです。

 抱っこしてくれてた時もピョンッ!てお空飛んでたので、もしかしたらピョンピョンするのが好きなのかもしれません。

カショウ……。うさぎさんじゃないですよね?

 ……うん。

チラチラっと見て確認しましたが、頭の上にお耳はついてないから、うさぎさんじゃないはずです。

うむうむ。


「お、わ、私はカショウと申します。マティアス様からユールリウス坊っちゃまを、こちらにお連れするようにと……」

「ふーん……。そう、マティアスが、ね……」

「エリーナはどうしましたの?」

「エリーナは、ぴょん太とお勉強でしゅよ!」

「あら? エリーナったら、またマティアスに余計な事を言いましたのね……」


 ふぅっ……。と、仕方のない子ねっていう思いが多分に含まれている溜息と共に、ねえ様が言いました。

 うむうむ。

僕も、ねえ様と同じ気持ちです。

 だって大人なのに、マティアスからのお勉強が沢山ですよ?

もしかしたら、エリーナはちっちゃい時にお勉強をサボってたのかもしれません。

だから今、お勉強をしているのかも……?

 お勉強はサボっちゃダメなのですよ。

良識のある素敵な大人になるには、お勉強は大事ですよってマティアスが言ってました。

 そしてとう様やかあ様のように素敵な人になりたいなら、沢山お勉強もしないとダメとも言ってましたよ。


「マティアスの反応を見て遊んでいるんじゃないかと思う時はあるけど……。まあ、いいや。

 で? ユーリは僕の応援に来てくれたんだよね?」

「まあっ! お兄様。聞き捨てなりませんわ。

 ユーリは私の応援に来てくれましたのよ? 勘違いなさらないでくださいませ」

「ふおっ!?」


 にい様もねえ様も笑顔ですが、何か怖い笑顔です……。


「ああっ……。やっぱり……。

 こうなるとは思ってたんですよ……。分かってたんですよ……。

 本当は、こっそり入って頂いてからお静かに見学して頂いたあと、気付かれないうちにお戻り頂こうと思ってたのに……。

 あの時、扉さえ開かなければ……。何であの扉開いたんだ……。誤作動……? 故障……?」


 何かティオールがブツブツ言ってますよ?

小さいお声なので、僕には何て言ってるのか聞こえません。


「やっべ、やべえっ……! マティアス様に怒られるの確実だ……。

 最初は上手くいってた筈なのに……。坊っちゃまとラブラブしていたのに……。

 一体どこで間違ったっ!?」


 カショウは突然、ウガーッ!て叫んで頭を掻き毟ってます。

おかげで僕、ちょっとビクッ!てなっちゃいましたよ。

 二人がこんな状態だと、にい様とねえ様の怖い笑顔を止めてくれる人がいません。


 うむむ、どうしよう……。

僕、困りました……。

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