第98話

 そしていよいよ商会で教えてもらった鍛冶屋へとやって来たのだが……。


「なぁ、これ閉まってないか?」


 その店の看板には大きな文字で……と書いてあった。


「……閉まっておるな。チッ……あの劣等魔族め、妾達に嘘を教えおったな。」


「いや、流石にそんなことはないと思う。」


 だってわざわざ嘘をつく理由がないからな。


「可能性としてあるとすれば……この店の店主がカミル達のことを怖がっていて、近付かないようにと急遽閉店の看板を出したのか。もしくは本当に今日閉店したか……だな。」


 多分後者の方は可能性としては低いと思うけどな。


 私は店の窓から中を覗いてみた。すると、中には日本ではまず見ることがなかった大きな剣等がの状態で置いてある。棚などにも埃が積もっているようには見えない。


「……ふむ、店の中も商品も手入れが行き届いているように見えるな。」


 店を閉店にするつもりなら店内に商品を陳列させておく理由はない。それにこんな風に手入れをしておく理由もない。だとしたら……ほぼ間違いなく、カミル達を恐れて店を閉めたと考えられるな。

 そう考察していると、突然店の入り口の扉の方でバキッ……と何かがへし折れるような音が聞こえた。


「邪魔するのじゃ~。」


 まさかと思い、戻ってみると……店の扉が破壊されていて、カミルがずかずかと中に入っていた。そして中に入ったカミルはギロリとある方を睨み付け威圧的な口調で言った。


「そこに隠れておる貴様……出てこぬのならば命は無いぞ?」


「ひぅっ!?す、すみませんでしたぁ~!!」


 するとカミルが睨み付けていた棚の後ろから、魔族の女性がすぐに飛び出してきて私達の前にひれ伏した。


「命だけはご勘弁くださいぃ~!!」


「……ふん、次は無いぞ。して、今日は貴様に用事があって来たのじゃ。」


「わ、私に……ですかぁ?」


「うむ。ミノル後の説明は任せたのじゃ。」


「あぁ、わかった。」


 私は彼女の前に立ち、インベントリから三本の包丁を取り出した。


「これと同じものを作って欲しい。」


「……ちょっと拝見しても良いですかぁ?」


「あぁ、構わない。」


 包丁を手渡すと、彼女はじっ……とそれを眺め、刃の部分を触ったりしていた。


「素材は鋼と鉄……でもこっちのはちょっと違いますねぇ……見たことがない金属ですけどミスリルで代用できそうです。あぁ、でも打ち方も独特ですねぇ。」


 ぶつぶつと呟きながら私の包丁を眺める彼女……そして数分の間じっくりと眺めた後、それを私に返してくれた。


「できそうか?」


「できると……思います。」


「そうか、じゃあお願いする。いつぐらいにできそうだ?」


「3日頂ければ満足のいくものが打てると思います。」


 3日……か。案外早いんだな。見たことがない物だろうからもっとかかるかと思っていたが……。


「わかった。じゃあこれは3日の間預けておく。」


「ふえっ!?い、いいんですかぁ?」


「あぁ、代えのはあるからな。問題ない。……後これ、扉を壊して悪かった。修繕に使ってくれ。」


 私は三本の包丁と、一枚の白金貨を彼女に預けた。


「しっ、白金貨なんて多すぎですよぉ~!!こんなに貰えません!!」


「あ~……じゃあ包丁の代金もそれにつけておいてくれ。」


「う~それでも多いぐらいなんですけどぉ~……。」


 なかなか白金貨を受け取らない彼女、そんな様子にイラッときたのかカミルが口を開いた。


「貴様、妾の施しが要らぬと申すか?ん?」


「ひぅ!?あ、ありがたく頂戴させて頂きます!!」


「良し、それじゃ3日後また来る。」


「わかりましたぁ~……。」


 そして包丁の製造の依頼を終えた私達は店を後にする。


「3日後にノノの包丁はできるってさ。」


「ありがとうございますお師様!!」


「これでノノも、も~っと料理ができるようになるといいわね?」


「うむ、期待しておるのじゃ。」


「美味しいお菓子も作れるようになってね?」


 なんだかんだカミル達もノノの成長に期待しているようだ。まぁ、長い目で見ていてほしいな。


「えへへ……頑張ります!!」


 ノノがそう答えた次の瞬間……ノノのお腹からくぅ~~~……っと可愛いらしい悲鳴が聞こえてきた。


「あぅ……。」


 顔を真っ赤にして、ノノは自分のお腹を両手で押さえた。そんな姿に思わずカミル達は笑みをこぼす。


「あらあら、ここから可愛い音が聞こえたわね~。」


「もうそんなに時間が経ったかのぉ~。じゃがその音を聴いた妾も腹が減ってきたのじゃ。」


「ノノ食いしん坊さん。」


「あぅ~……恥ずかしいです。」


「料理人としては合格だぞ?料理人は食べることも修行の一つだからな。」


 リンゴのように真っ赤になった顔を覆い隠しているノノを慰めるように私は言った。


「そんな夢のような修行があって良いのか!?」


「そりゃあな、食べないと味はわかんないし……。何より美味しいものを食べることより勉強になることはない。」


 一見夢のような修行……と思うかもしれないが、案外これがまた難しいんだな。

 ま、ノノは多分基本的に私の作ったものを口にするから問題ないと思うがな。


「っと、さてじゃあ皆もお腹も減ってきたみたいだからそろそろ帰るか。」


 街での用事を済ませた私達は、城へと帰るのだった。

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