第97話
そして、いつもと変わらぬ日々を過ごしているとあっという間に時は過ぎていき、アルマスとアベルの同盟についての会談の日までついに残り四日となった。
今日はノノの包丁を購入するためにライネルへと赴いていた。相も変わらずカミルとヴェルが共にいるため、街の住人達は忽然と姿を消し物陰や家の中に隠れている。
「やっぱりまだ二人は怖がられてるみたいだな。」
「静かだから良いのじゃ。」
「ね~?ガヤガヤ騒がれるよりマシよ。」
どうやら二人は最近考えを少し改めたようだ。以前は少しマイナスのイメージだったが……静かでいいとプラスの方に考えている。
「まぁ、そんなことは良い。今日はノノの包丁を買うのじゃろ?」
「あぁ、買うか……もしくは新しく打ってもらうかだな。」
最低でも牛刀と出刃包丁……後はペティナイフは買い揃えたい。ひとまず最初はこの三本さえあればなんとかなる。で、包丁の扱いに慣れてきたらまた用途別の物を買ってあげよう。
「新たに打つ……か。ならば鍛冶屋に赴くのが一番手っ取り早そうじゃな。」
「場所はわかるのか?」
「わからずとも聞けばよかろう?ちょうどあそこにライネル商会の店があるしの。」
「なるほどな。それは名案だ。」
顔を知られているあの店の主人ならきっと快く教えてくれることだろう。……まぁまずこの面子を前に断ることはできないだろうしな。
「さ、そうと決まればさっさと行くのじゃ~。」
そして私達は何度か世話になっているライネル商会にお邪魔して、ある鍛冶屋の情報を手に入れることができた。鍛冶屋のことを聞くついでに今日の分の食材や調味料を買い足し、店を後にする。
店を出て大通りに出ると、カミルが満足そうな笑みを浮かべながら言った。
「妾の計画通りなのじゃ~。」
「まったくだな。今日の料理に使う食材とかも買えたし、一石二鳥だ。」
「ねぇミノル、今日のご飯は何を作るのかしら?私とっても気になるわ。」
「私もお菓子何作るのか気になる。」
さっき食材等を購入しているのを見ていたヴェルとマームが私に問いかけてきた。
「それは帰ってからのお楽しみだ。」
多分料理名を言ってもわからないだろうし……こういう風に言っておけば一番差し支えがない。それと、本音を言うと実はまだ何を作るかは決まっていない。頭の中に大量に料理のレシピが入っていると、その中から何を作るか悩むものだ。ま……それについては追々歩きながらじっくり考えるとしよう。
「今日もノノはお師様のお手伝いをさせてもらえますか?」
今日のメニューのことを考えながら歩いていると、ふとノノが私の顔を覗き込みながら問いかけてきた。
「あぁ、もし帰ってノノが疲れてなかったらお願いするよ。」
「ホントですか!?えへへ……嬉しいです。」
そう答えると、ノノは嬉しそうに笑みを浮かべた。屈託のない笑顔とはこういう表情のことを言うのだろう。日本にいたときはまず見ることはなかったな。
そして気が付けば自然と右手がノノの頭に伸びていた。そんな私を見たカミルが口を開く。
「ミノルは本当に頭を撫でるのが好きじゃな。ここのところ毎日撫でておるのではないかの?」
「返す言葉がないな。……何て言うんだろうな。こう、勝手に手が伸びるんだよ。」
苦笑いを浮かべながらカミルの問いかけに答えるが、答えている間も私の手は勝手にノノの頭を撫で続けていた。
信じてもらえないかもしれないが……本当に無意識なんだ。意識すれば手を止めることはできるんだが、裏を返せば意識しないとこのようになってしまう。
だが、流石にこれ以上撫で続けるのはノノに悪いな。そろそろ辞めないと……。
私はノノの頭から手を離し、次に手が伸びるのを防止するためにポケットに右手を突っ込んだ。
「ノノ、もし撫でられるのが嫌だったらすぐに言うんだぞ?」
「嫌じゃないです!!むしろ大好きですっ!!」
「お、おぅ……そ、そうか……ならいいんだが。」
鼻息を少し荒くしながらノノは少し強い口調で言った。その勢いに思わず私は少し気圧されてしまった。
「そんなに良いものなのかの~?頭を撫でられるというのは……。」
ノノの反応を見て首をかしげながらカミルはポツリと溢した。そしてその言葉にヴェルがピクンと反応する。
「あら~?じゃあ私が撫でてあげよっか~?い~~~っぱい!!撫で撫でしてあげるわよ?」
両手をワキワキとさせながらヴェルはカミルににじり寄る……。
「むっ!?い、いや……やはり遠慮しておくのじゃ!!」
にじり寄ってくるヴェルに、少し後退りしながらカミルは言う。
「遠慮する必要なんてないのよ~?うふふっ♪」
「そ、それ以上近付くと燃やすのじゃ!!」
逃げ場を失くしたカミルは最終手段と言わんばかりに、自分の周りに炎を漂わせる。それに負けじとヴェルは自分の周りに風を巻き起こし炎を掻き消そうとする。そして徐々に二人の力は周りに影響をもたらし始めた。
このままほっといたらこの街に被害が出てしまうかもしれない。その前に止めないと……。私は二人を止めるために、二人がもっとも恐れているであろう言葉をポツリと口にした。
「……
「「っ!?」」
二人のトラウマを呼び起こす言葉を口にした瞬間、ピタリと辺りを漂っていた炎は消え、風も止んだ。そして顔中から大量の冷や汗を流しながら二人がこちらに視線を向けてきた。
そんな二人に私はニコリと微笑みながら問いかける。
「意味……わかるよな?」
「も、もちろんじゃ!!の、のぉ?ヴェル?」
「えぇ!!もちろん……。」
「なら良し。さ、早く鍛冶屋に行こう。」
なんとかその場を丸く納め、私達は再び鍛冶屋へと向けて歩きだした。
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