幕間2:人物来歴及び評価報告「ビアード=ピアスン」
これは、とある失われた書物に隠されていた情報を復元し、再編集したもの。
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第四龍礁第六楊空艇隊・人物略歴及び評価資料2
ビアード="バルボータ"=ピアスン
現在四十五歳。
聖アトリア歴一一七二年、八月一日生。
現在、第六楊空艇隊の『船長』を務める彼の出身地は『海』だ。
アラウスベリア南方に位置する大陸西方の学術都市・エムデリテで、しがない物品商を営んでいた彼の父母は、商いを繰り返しながら各地を転々としていたが、当時のエムデリテを中心に吹き荒れた不況の煽りを受け、この地での生活を断念。
父は身重の妻を連れ、商機を求めてファスリア皇国へと渡航し、その船旅の途中で、ビアード=ピアスンは産声を上げたのである。
アラウスベリア大陸を巡る
時を同じくして、この航路にはロズタックスと名乗る男を首魁とする大規模な海賊団が出没するようになっていた。
貨物船を襲撃しては、物資の
南エムデリテ社の船がこの一帯を航行する際には、それと識別できる『旗』を掲げるなどの印でロズタックスは略奪の可否を判断していた。
しかし、ある年。ふとした縁から、別会社の輸送船の船長代理として乗り込んだ船は協定の中にはなく、あっさりとロズタックス海賊団によって拿捕され、彼自身も捕虜となってしまったのである。
南エムデリテ社の中にあって、協定の内容を熟知していたピアスンは、この船に『旗』が無い事を知ると愕然とし、パニックを起こした。
その時の焦りは相当なもので、今でも夢に見ることがあるらしく、現在、彼と寝食を共にする楊空艇のクルー達も、時折『旗は何処だぁ!』と寝言で叫んでうなされるピアスンの声に驚き、飛び起きるなどの被害を被っている。
後ろ盾(身代金)の当てもなく、数日後には海の藻屑となると覚悟したピアスン。
生来が荒くれ者で、喧嘩っ
『殴り合えば理解し合える』という、男性と言うか、船乗りの資質か、奇妙な邂逅により、以降、友人関係となった二人は、それから暫く行動を共にすることになる。
孤島に残された古代の海賊の財宝を狙ったり、海に出没する魔物と闘ったり、どこぞの冒険譚の様な生活を二年ほど送ったいう噂がある。
その過程でピアスンは、海賊たちの船に対する知識を吸収していくが、ある日突然、そう言えば妻と子を国に残してきているという事を思い出して、唐突に帰ると言い出した。これには常に豪胆で物事に動じないロズタックスでも、流石に呆れ果てたという。
ピアスンの生還を妻と子は喜んだが、二年に渡る不在……のみならともかく、海賊団に交じって、海賊そのものの冒険に浸かっていたピアスンを、南エムデリテ社が『海賊の手先』と判断したのは当然だろう。
即刻、彼は首を切られ、会社を後にする羽目になったのだった。
しかし、それでも自分は未だ船乗りで、船長であるという誇りと意地を捨てなかった彼は、それがどんな小さな船であっても――例えば小さな川を渡す手漕ぎの船、そして観光地で遊覧を行う観光船――とにかく各地で『船』に乗り、『船長』であることを貫き通した。
いつしか『船乗り中の船乗り』と名を知られる様になったピアスン。
人材を各国から招集していた龍礁管理局が、彼を見出したのは当然の帰結だった。
それまでありとあらゆる船に乗り、その知識を蓄えたピアスンでも、その当時に十数基しか存在していなかった楊空艇を扱った経験はなく、その飛翔する姿に魅せられた彼は、その時初めてプライドを捨てて、末端の船員から従事する事を選んだ。
しかし、経験は物を言う。船だけではなく、様々な『組織』を渡り歩いてきた彼の統率力は、船だけではなく、隊そのものの指揮者としての頭角に現れた。
楊空艇隊の一隊を長らく任され、そして、二年前に新設されたマリウレーダ隊の隊長に就任する事になったのだった。
――その気になればF/IIIクラスの龍族とも同等の戦力を有する、第四龍礁の兵力の一翼を担う楊空艇マリウレーダを指揮する優秀な男。
事が起きれば彼の指揮能力は遺憾なく発揮され、障害となるだろう。
第四龍礁内部での影響力も大きく、調略すれば様々な事柄を円滑に進められるかもしれないが、義と信念に生きるこの男を利するのは、山を動かすよりも困難だ。
しかし、それ故に判り易い男でもある。不測の動向はないものと判断する。
尚、ロズタックスとの冒険譚がどこまで真実か、真偽は不明。
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