第9話 救世主

 辛い時、駆け込む先なんて、私には無かった。


「いらっしゃいませー」


 営業スマイルに出迎えられて、取り敢えずコンビニの雑誌コーナーでも漁っていたところ、後ろから突然声を掛けられた。


「あれ? 咲ちゃん?」


「わっ……、憂さん!?」


 振り返ったら、ずっと会っていなかった憂さんの姿があった。 


「久しぶりだよね~? まさか、こんなところで会うと思わなかった」


 時刻は夜の二〇時。


 陽葵と零時と出会って以来、一人でこの時間に出かけること自体が無かった。

 

「私も、憂さんに会うと思わなかったです」


「元気だった? 今って夏休みだよね?」


「はい」


「全然会わなくなってから、実憂がお姉ちゃんは~!? て騒いで大変だったよ。それからあたしたちも旅行行ってたから、ずっとどうしているかなって気にはなっていたけど、連絡先知らないし」


「心配してくださってありがとうございます。元気です」


 まさかこんなに気に掛けて貰えているとは思っていなかった私は、憂さんの言葉に感激だった。


「憂さん、今実憂ちゃんは……?」


「実憂は旦那と、旦那の実家に帰省中。ただいま女一人を満喫中です」


 意外な言葉が返ってきたことで私は驚く。


「行かなかったのはどうしてですか?」


「いつも専業主婦で子育ても頑張ってくれているから、たまには一人で、誰の世話も考えずのんびりしたらいいって、行く何日か前に旦那に言って貰ったの」


「わあ……とても素敵な旦那さんですね。流石憂さんが選んだ人」


 憂さんが笑顔で語ってくれた理由に、私も嬉しい気持ちになる。


「咲ちゃん、今から少し時間ある?」


「? はい?」


 何だろうと思いながら頷く私に憂さんは言った。


「良かったら折角だし、家でお茶しない? 勿論帰り送るから」


 女同士で語りたいことあるしなんて付け加える憂さんの提案に、沈んでいた心が弾んだ。


「是非」


 笑顔でもう一度頷くと、私たちはお店を出て、憂さんの車に乗り込んだ。



「どうぞ、あがって」


 憂さんの家は車で少し走ったところにある、落ち着いた雰囲気のマンションだった。


 そういえば、家にお邪魔するのは初めてだった私は、緊張しながら部屋に上らせてもらった。


「お邪魔します……」


「ソファー適当に座って?」


 そう言う憂さんは笑顔でコーヒーとお菓子を用意してくれた。


「ありがとうございます」


「これお勧めの店のケーキなの。嫌いじゃなかったら食べてみて」


 なんでも、野菜を使ったケーキで、甘さ控えめらしい。


 私はサツマイモを使ったケーキを頂いた。


「……美味しい。サツマイモの甘さが生きていて優しい味」


「でしょ? 身体にもいいから、たまに実憂も連れて行くの。旦那は大の野菜嫌いだから絶対に誘っても付いてこないけどね」


 笑いながらそう話す憂さんはほうれん草を使ったケーキだとか。


 ケーキを気に入った私は、この後憂さんにお店の場所を教えてもらった。


「けど本当に咲ちゃんに会えて良かった。私いくらなんでも四日も一人じゃ暇だからさ」


「あ、四日間留守なんですか?」


「うん。私結婚して以来家族中心に生活してるから、一人になった時する事が殆ど無いことに気が付いたのよね」


 コーヒーを飲みながら憂さんからはため息が零れる。


 でも、それは私にも似た感覚が在った。


「……分かります。私、最近友人が出来たんですけど……その人との約束が無かったら本当に、何もやることがなくて……」


「それって、金髪の男の子?」


「え……?」


 何で憂さんが陽葵の事を知っているのか分からなくて驚いていると、ほう杖を付いて意味深な笑みを浮かべる憂さんは言った。


「やっぱり……前にね、実憂がお姉ちゃんが金色の頭のお兄ちゃんと一緒に居た!って言ってたのよ」


「実憂ちゃんが……。そうですね、彼が今言った友人です」


 私が答えると、憂さんはさらに驚く言葉を放った。


「彼とは好きとかじゃないの?」


「え」


「あ、好きなのね!」


「いや、あの……っ」


 楽しそうに笑う憂さんにどうにか言おうとするけど、色んなことが途中思い出されて言葉は出てこなくなった。


 そんな私の気配を察した憂さんは、すぐさま声色を変えて問いかけてくる。


「何かあったの……?」


「……実は、彼には好きな人がいて、告白しても振られることが確実なんです」


 つい憂さんに正直に話すと、当然驚いていた。


「……そうなの。……ね、どう出逢ったのか聞いても良い? 何だか咲ちゃんと金髪少年って結びつかなくて」


「初めて出会ったのは、憂さんたちと別れた後でした。帰ろうとしてたら絵が降って来て……実はそれ、その友人が描いたもので、拾っていた時に彼が現れて、それがキッカケで親しくなりました」


 話しながら、最初に出会った時のことを思い出して、何だか胸が苦しくなった。


 憂さんはそんな私を、切なくも優しい表情で見ていてくれた。


 私はだんだん、憂さんに自分の想いを語るようになった。


「彼は……その人をとても大切にしているのが伝わるほど、綺麗に絵描いていました。あの絵がきっかけで彼と仲良くなれたのに、絵を褒めたらあんなに喜んでくれたのに……私、今じゃあの絵を持っているのが辛くて……正直、彼とももうどんな顔して会えばいいのか分からなくて……っ」


「咲ちゃん……。一つ提案なんけど、今日から家に来ない?」


「--え……?」


 思ってもみなかった言葉に驚く私だったけど、次の憂さんの言葉に考えさせられる。


「咲ちゃんの辛さは同じ女として解るよ。だけど、ずっとこのまま会わないってことは出来ないと思うの。まずは、暫く彼と距離を置いて、その間に今後どうするかを決めたらいいと思うな。折角可愛いお友達の咲ちゃんに恋が芽生えただもん、簡単に諦めて欲しくないし!」


「憂さん……。じゃあ……よろしくお願いします」


 私は憂さんの家にお世話になる事に決めた。


 陽葵には簡単に連絡だけすることにした。


『陽葵へ

 仲のいい先輩の家でお世話になる事になったから、暫く陽葵とは会えません。

 また落ち着いたら連絡します』


 

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