第7話 悲しい答え

 気が付いたら夜で、部屋の外は真っ暗だった。


「……あ、寝てた?」


 なんて独り言を呟きながら、電気を点けて、暫く呆としてみる。


『陽葵は女をスゲエ大事にしている。や、崇高に扱っていると言ってもいいくらいか』


 突然思い出したように浮かんできたのは、零時の言葉。


 私は衝動的に、陽葵に貰った絵を机の引き出しから取り出した。


 ずっと額縁にでも入れて壁に飾ろうかと考えていた絵。


「……気まずい」


 ため息交じりに絵を眺める。


 何度も見ても、その絵の女性は綺麗なまま温かみのある笑顔を浮かべていて、何だか神秘的にさえ感じる。零時が言っていた言葉も頷けた。


 彼もこの女性を知っているって言っていたけれど、会ったことがあるのか。


 何だか、知りたかったはずなのに、今では知らなければ良かったと思っている勝手な自分がいた。


 正直に言ってしまうと、二人といれるのは自分だけだと己惚れていた部分があったからだ。


『もし本当に女の正体を知りたいと思うなら、これは本人に聞くべきだな。だが―—覚悟しろよ』


 まさかあんな言葉を告げられるとは思わなかった。


 覚悟って何だろう。そんなことを考えたとき、計ったように携帯が鳴った。


 相手は見なくても分った。


「もしもし……?」


<<咲?>> 


 明るく問いかけてくる声。あの髪の色と一緒。


「何? ……どうしたの?」


<<ん? 無事に家着いたかと思って確認>>


「ああ……ありがとう。ちゃんと帰れたよ」


 時計を見たらまだ家に帰ってから一時間も経っていなかった。


 この短時間の間に私は寝ちゃったのかと思うと苦笑する。


<<零時も心配してたしよ>>


「本当? ……お礼言っといてくれる?」


 あの後から零時と会うのは少し気まずく感じていた。


 陽葵に頼むとあっさり了承してくれた。


<<任せとけ! 零時も咲のこと気に入ってるみたいだからな、また三人で集まろうぜ>>


「う、うん。嬉しい」


<<言っとくけど、あいつが俺の周りに居る女と仲良くしてるのなかなか無いぜ?>>


「え……本当に?」


 驚く私に陽葵は、俺が言うから間違いねえとやけに自信満々で言い切る。


 私はあの絵の女性を思い浮かべた。


 とても綺麗な、笑顔で描かれた女性。正面で描かれているその絵は、きっと近くで、話なんかをしながら描いたのかと思っていた。


『俺はその絵の女を知っている』


 陽葵と親しい女性イコール零時も認めた女性だと勘違いをしていたのかも?


<<咲、今度さ>>


「ねえ陽葵」


 勢いで陽葵の言おうとしたことを遮ってしまった。


「ごめん陽葵……っ」


 謝る私に、陽葵は電話の向こうで笑う。


<<いいって。後で言うし、先に言ってくれ>>


 私は譲られたことで腹を決めようと思った。


 携帯を持つ手に自然と力がこもる。


「……陽葵、質問なんだけど……初めて会った日にくれた絵の女性って……誰なの?」


 零時の時同様、沈黙が流れるのを恐れていたけれど、彼の答えはあっさりだった。


「―—俺の好きな人だよ」


 私の心には信じられないくらい、大きな衝撃と共に、酷く抉られたような痛みが駆け巡った。


『覚悟しろよ』あの時の零時の言葉が、警告を意味していたことを今ようやく理解した。


 気が付いた時には遅いね。―—……私は、陽葵が好きだった。

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