第3話 クロとシロ

「な~咲、腹減らね?」


 手を止めた陽葵が私にお腹を摩りながら言った。


 時間を確認すると、丁度お昼の時間帯だった。


「そうだね。じゃあ……帰」


「らねえって。一緒にどっか食いに行こうぜ!」


「え?」


 帰ろうかという私の言葉を遮った陽葵の提案に驚く。


 そんな私に陽葵は拗ねたような顔をして言う。


「だって、まだ会って二時間じゃん。これで帰るって超詰まんねえ~……」


「そうなの……?」


「そうだ! だからさ、行こうぜ?」


「……うん。じゃあ行く!」


 陽葵の言葉を受けて私は決断。


「っしゃ! じゃあ何食いたい?」


 喜ぶ陽葵が私に訊いたとき、何処からか声が聞えた。


「「「クロー!!!」」」


「え、何っ……?」


「あ! あいつら……っ」


 驚いて辺りを見渡す私だったけど、陽葵は一点だけを見据えてそう呟いた。


「……陽葵?」


「咲、ちょっと五月蠅くなるけど許してくれ」


「うん?」


 丁度私が首を傾げたときだった。


「おいクロさんよ、五月蠅いって何だよ?」


「てか、俺らの誘いを断ってこそこそ美少女とデートとかマジあり得ねえ!」


「俺らにも確り紹介しろ! そして俺を美少女にも紹介しろ!!」 


 怒涛の様にそんな風なことを口々に言いながら男子学生たちが陽葵と私も囲った。


「……お前らマジ来んなよ」


 困惑する私の一方では、知り合いなのか、陽葵が顔を顰めている。


「陽葵……この人たちって?」


 思わず訊いてしまうと、黒髪のいかにも元気が有り余っていそうな少年が近寄って来た。


「どーも! 俺らはクロの仲間の北見高のメンバーです!! そして俺は有沢鐵史ありさわてつしです!!」


「谷村咲です……」


 あまりの勢いに陽葵の後ろに隠れると、陽葵が有沢君を睨み付けた。


「おいバカ!! 咲に近寄るな!!」


「咲ちゃん!? 可愛いうえに名前まで可愛い!! そんでクロずりー!!」


「……全く響かねえな」


 陽葵がため息交じりに零すと、隣に立った仲間の青年たちが陽葵の肩に手を回す。


「しゃーねえ、クロ。響かねえってのが、こいつの唯一の長所だって」


「成程な……そうだったか」


「可哀想な奴だろ?」


「シロが世話焼くわけだよな~ついでに俺らも」


「そういや、今日シロはどうした?」


「シロ? あー……なんか俺達にクロの休日を邪魔されたくなさそうだったから、撒いてきちゃった」


「おい!! ……ったく、通りでお前らが好き勝手してるわけだよな」


 なんて会話が側で繰り広げられているのを訊いている私は、どうしても気になったことがあった。


「……あのさ、さっきから……クロとかシロとかって何なの?」


「あ~……」


 陽葵はあからさまに気まずい表情で視線を逸らす。


 聞いちゃいけなかったのかと焦ったところに、仲間の一人が口を開いた。


「クロはこいつ、黒崎陽葵のことで、シロは、今ここには居ないクロの相棒、白川零時のことだよ。どっちも苗字にちなんだ呼び名なんだ。―—あ、今更だけど俺は市原卓三いちはらたくみ。よろしくね」


「どうも……」


 私は説明をしてくれた卓三さんにお辞儀した。


 その時、どっからかまた現れたのは有沢君。


「咲ちゃん、実はクロとシロは北見のツートップだぜ!?」


「ツートップ……?」


「おう!!」


「鐵!!」


 声を弾ませる有沢君とは対照的に、陽葵は酷く焦っていた。

 

 この話はやっぱり聞かない方がいいのかもと思った矢先に、有沢君は言ってしまった。


「北見のリーダーってこと!!」


「……リーダー?」


 私が呟きながら陽葵を見ると、彼は気まずそうに別の方向を向いていた。


「陽葵? ……どうしたの?」


 気になって声を掛けてみたけど、返事が返ってこない。


 動揺する私に、卓三さんが再び説明してくれる。


「リーダーっていうのは、周りが二人の持つカリスマ性ってものを認めて、その年の北見のトップを選ぶ会議で選任された結果だよ。簡単に言うと、あれだね。生徒会長みたいな。……まあ、代表の先生数名の推薦以外は生徒による投票だから、その選ぶ条件にはスペックとか見た目、特に男からしたら強さとかが関係はしてくるけど、誤解しないで。二人は間違っても絶対王政みたいなことやってないし、行事には参加、頭も良いから授業も問題なく受けているからさ」


 私は、この話を聞いたときどうして陽葵が隠そうとしたか分かった気がした。


「陽葵」


 名前を呼んでみると、まだ気まずそうな顔をして振り返る陽葵。


「……なに、咲」


 私はそんな陽葵を見ていられず、自分が思う精一杯の気持ちを言葉にした。


「陽葵が何を不安に思っていたのか分かったよ。……でも、私が見て来た陽葵は絵を描くことに真剣で、初めて会った相手に笑顔を絶やさない素敵な要素を沢山持っている人だから、心配しなくても絶対に怖がったり、離れて行ったりしないよ。出来るなら、陽葵の描く絵をずっと横で見ていたいもん。―—陽葵、私にとって陽葵はもう、なくてはならない人だよ」


 周りが息を呑んで聞きいてるとも知らずに、私はただ真っ直ぐ陽葵をみつめていた。


「……咲」


 陽葵が漸く私を呼んだのは、だんだん散歩しに来たりと人が現れ始めた頃。


 私は「陽葵」と彼の名前を呼び返して笑顔を作った。


 こんなに自分の感情を誰かに見せたのは初めてなような気がした。


 少しして陽葵がまた私を呼んで、今度はゆっくり近付いてくる。


「陽葵?」


 何かと思っていたら、次の瞬間、私は勢いよく陽葵に抱きしめられた。


「咲……ありがとう」


「え、ひな……っ?」


 一体何が起きているのかと、驚きの余り動けないでいると、この光景を見ていた陽葵の友人たちが口々に言い始めた。


「クロさんてば、女の子にいきなり抱き付くなんて現行犯だ~!」


「俺らいつまでこの画を見せられるんですかー?」


「おいてめえクロ!! 咲ちゃんから離れやがれ!! シロ居ないからって好き放題か!!」


 だけど、有沢さんがそういった直後。


「―—呼んだか?」


 そう言う、初めて耳にする男性の声が聞えた。


「「「シロ!!!」」」


 私も確認するため陽葵から離れ、皆と同じ方向へ顔を動かした。


 銀髪にダークグレーの瞳、耳にはゴールドのピアス。指にはどこかで見たような厳つい指輪がはめられた、長身で、見るからにオーラのある青年がそこには居た。


「この人が……白川零時」


 無意識に名前を呼んだら、しっかり聞こえたようで彼はこっちに向かって歩いてきた。


「どうも。あんたが陽葵の……」


「の……?」


「いや、何でも無い。白川零時だ、よろしく」


「……どうも。……谷村咲です」


 言いかけて止められたことが内心すごく気になったけど、訊く勇気が無い私は自己紹介だけで済ませてしまった。


 するとその間に、零時は陽葵の方に顔を向けて彼と話始めてしまった。


「邪魔することになって悪かったな」


「お前は悪くねえよ。けど撒かれたって?」


「ああ。あいつら後でシメとくわ」


「……はあ、どうすっかな。俺らこれから飯行くんだ」


「じゃあ俺がこいつら連れて帰るからよ、二人で行って来い」


「いいのか? 悪いな零時」


「気にすんな。——あ。あんた、陽葵のこと頼むな」


「え、あ、はい」


 完全に油断していた私は、突然こっちを見て来た零時に歯切れの悪い返事をして、二人に笑われてしまった。


 その後少しして、言葉通り、零時が仲間を連れ帰った。


 有沢君は最後までやっぱり騒がし……元気だった。


「咲ちゃん!! 絶対また会おうぜー!!」


 あまりにも声がデカいから、終いには零時に蹴られて崩れていた。


 

 


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