クリスマスの食卓
クリスマスが近づくとスーパーの売り場が模様替えされ、年末年始仕様になる。フォアグラとスモークサーモン、あとクリスマス包装のチョコレートが幅を利かせ、ついでになぜかミニカーのセットやバービー人形も増える。
フォアグラやスモークサーモンは前菜のマストアイテムである。普段は前菜など食べたりしないのだが、クリスマスや正月に限っては前菜とメインとデザートというクラシックな献立になる。
昔はフォアグラが苦手だった。独特の臭さがあるし、なんだか脂のかたまりを食べているような気持ち悪さがあった。でもこういう珍味ってある時ふと美味しいと分かるようになるもので、今では年に一度の楽しみである。
安いものもあるが、この類の食べ物はケチってはいけない。ちゃんとしたメーカーのもので最低でも200グラム18ユーロぐらいは出さないといけない。瓶詰が見た目も高級だけど上を見ればキリがないので、僕たちはスーパーで真空パックになっているものを買う。
ナイフでスライスし、トーストした小さくて薄いパンに乗せて食べるのだが、以前によそで食べたときは香辛料入りの少し甘いパン(パン・デピス)が添えられていて美味しかった。
それから玉ねぎのコンフィとイチジクのジャムも必要。これを少し加えることでジャムの甘味がフォアグラの塩気と味を引き立てるようにできている。僕はイチジクのジャムよりも玉ねぎのコンフィをつける方が好きだ。飴色の玉ねぎのきつい匂いと肝臓の脂肪、これが合わさると悪魔的に美味い。
フォアグラは一度開けると酸化して周りが黒くなってしまう。中途半端に余ったら別の時にローストチキンの具に加えると鶏肉に風味が出る。
クリスマスと言えば七面鳥やローストチキンのイメージがあるが、実際どれぐらいの家庭がこれを食べるのだろう。大型の鶏の中に栗を入れて焼くそうだが、僕は食べたことがない。ただ、同居人は先ほどのフォアグラの残ったのと牛のひき肉を混ぜて鶏の腹の中に入れて焼く「鶏のファルシー」というのを作る。鶏肉の中にハンバーグが入っていると思ってもらえたらいい。えっ、と思われそうだけどお互いの肉の味が混ざり合い、ついでにフォアグラ風味もついて美味しいのである。
年末年始の休暇は普通は田舎へ帰るものだが、僕たちのように親戚がいない者はちょっとバカンス難民になる。それでもパリを出たいからフランスの地方に小旅行をしてみたり、泊まりに来てもいいという友人の誘いに甘えたりする。
他人の家のクリスマスや正月の夕飯はどんなものを食べるのかという好奇心もあって結構楽しい。家の中に素晴らしいシェフがいるとそのまま棲みつきたいと思う。
それでもみんなそこまで派手ではなく、いつもよりほんの少しだけ贅沢をしようというぐらいだ。
今年はパリで静かなクリスマスを過ごした。雨のクリスマスだった。
同居人は僕にランプをプレゼントしてくれた。写真立てのような形をしていて、灯すと太陽光と同じバイブレーションの光が出るのだという。日光の少ない季節もこの光を浴びて元気を出しなさいということだ。僕の様子をさりげなく見てたんだろうか。一緒に住んでいる人は侮れない。
200グラムのフォアグラは二日で食べ切ってしまった。メインで作った小ぶりのローストビーフも完食した。大人数で賑やかに過ごすのもいいけど、日常より少しだけいいものを食べて、贈り物をして、久しぶりに映画を観て、そういうクリスマスも悪くなかった。
あとはデザートの時間。だけど甘いものは別腹というので、次回に自称パティシエの独り言をお送りしましょう。
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