デザートの時間です

 自称パティシエなんて言ってもすごく菓子作りが得意というわけではない。ただコロナで自宅にこもっている間にすっかりハマったのは事実だ。

 もともとは在宅勤務でストレスの溜まっている同居人に甘いものを与えるのが主旨だったのだが、そのうち作ること自体が面白くなってしまった。今や台所が自分のスペースとも言えるので、そこにいる時間が増えるごとにレパートリーも増える。


 何が面白いのかというと、論理的で数学的なところだ。目分量ができないし、途中で味見もできない。作る段階でどんなに努力しても結果がすべて、オーブンの中で潰れても言い訳無用、というシビアさがいい。だけど決められた数字に従ってちゃんと手順を踏まえて作れば、材料が勝手に化学反応を起こしてくれる。このはっきりしたところが気持ちいい。

 それに作業中は黙々とそこへ熱中できる。頭の中がアナログで余計なことを考えがちな人間には、こういう数学的な作業に没頭することが効果的な気分転換になるみたいだ。

 

 料理サイトは必須アイテムだが、僕は日本のサイトとフランスのそれとを使い分けている。

 あっさり甘さ控えめなら日本のサイト。こってり甘いものならフランスのサイト。

 例えば夏の猛暑の頃によくパンナコッタを作っていたのだが、日本のレシピだと淡白すぎて牛乳プリンみたいになってしまう。なのでフランスのレシピで脂肪分多めのクリームを使い、ゼラチンを入れすぎないように気をつけると、本場イタリアに近い(当社比)こってりとトロみのあるパンナコッタができた。

 でもそれだけでは飽き足らず、日本のサイトを参考にして抹茶を入れたり、あずきを底に敷いて二層構造にしたりとアレンジしてみる。日本のサイトは何でも和風にしてしまうマジックレシピの宝庫だ。


 最近ハマったのはシューを焼くことである。

 これは難しそうで手が出ないと思っていたのだが、どうしてもプロフィットロールを作りたくなって覚えた。プロフィットロールとは、シューの中にバニラアイスを詰め込んで、上から熱いチョコレートソースをかけたものである。レストランに行けばだいたいデザートメニューに載っている。


 実を言うと、僕は甘いものが得意な方ではない。作るのは好きなのだけど、作業を経てオーブンから甘い匂いが漂ってくる頃にはすでにお腹がいっぱいになってしまっている。だから味見だけしてあとはほとんど来客や同居人の腹に収まる。(そういう意味では需要と供給のバランスはいいと思う。)

 そんな自分でも食べたいと思える数少ないデザートがプロフィットロールである。だからクリスマスには独断でこれを作った。

  

 大きめに焼いたシューの頭を切って、中にバニラアイスを盛高く詰めたら頭で帽子のようにふたをする。チョコレートソースは製菓用のブラックチョコレートをクリームと牛乳でのばしてアツアツにする。これを頭からたっぷりかけるとチョコレートがつやつやしてとてもきれいにできる。ザックリと硬めに焼いたシューに冷たいアイスと温かいソースが混ざるのが至極である。


 シュー生地は他の菓子よりも正確さと手早さが必要なのでド真剣になって作るのだが、オーブンの中でぷっくり膨らんでコロコロと可愛らしく出来上がったのを見ると充実感で満たされる。


 最近はカスタードの作り方も覚えたので、日本のコンビニに売っているような二色クリームのシューも作った。フランスの液状クリームは脂肪分が足りず、いわゆる生クリームにならないので、マスカルポーネを半分混ぜて泡立てる。するとしっかりとツノが立つ濃厚なシャンティができる。


 こういうことを研究し始めると面白くなってアレンジもエスカレートする。洋風はいいから今度は抹茶を混ぜようか、などと考えるのも楽しい。

 シューの種はエクレアにもなるしパリブレストにもなるという優れものなので、多分まだまだこのブームは終わらないだろう。僕が飽きるまで。

 出来上がりを見てニヤニヤしている図は完全に自己満足の極みなのだけど、やっぱり食べてくれる人がいてこそ作り甲斐もある。皿に残ったクリームを指ですくってもらえるときが自称パティシエの一番幸せな時間なのだ。



 というわけで、これからも菓子作りに励みます、もとい、色々と書いていきたいと思います。

 来年が皆様にとって穏やかな年になりますように。

 どうかよい新年をお迎えくださいませ。

 


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