冬時間? 夏時間?

 十月最後の週末からヨーロッパは冬時間に変わった。

 どうするのかというと、日曜日の午前三時になったところで時計の針を一時間戻して、午前二時にする。最近はほとんどのものがデジタルだから、朝起きると自動的に時間が変わっている。一度切り替わる瞬間を見たくてPCかなんかの前で粘ったことがある。三時が二時に戻った瞬間は面白かったけど (アナログ時計ならもっと面白いはず)、今は感慨もなく、ああもうそんな時期か、と思うぐらいである。


 冬時間への移行で直接的に感じるのは、一時間長く眠れることと、朝起きた時に窓の外が若干明るくなっていること。そして夜眠たくなるのが一時間早まること。でもこれも数日もすると慣れてしまう。


 もともとは第一次大戦の時代に電気の節約のために始まったそうで、定着したのは七十年代のオイルショックの頃。そのあとEU圏内で同じ日付に時間を移行すると決まったのが九十年代の終わり頃だから、制度としてガッチリ固められてからはせいぜい二十年ちょっとだ。


 冬時間への移行はまだいいのだけど、面倒なのは夏時間の方だ。

 こちらはやり方が逆で、三月の最終日曜日の午前二時になったところを一時間進めて、午前三時にする。一時間消える。幻の一時間。睡眠時間が一時間短くなる。幻の睡眠時間。 

 どうもこれが色々と弊害を生むらしい。


 聞いた話だけど、夏時間に移行してから一週間ほどは交通事故が起きやすくなるそうだ (眠いから?)。あと心臓に疾患のある人には危険だとか、就学中の子どものバイオリズムにはよくないとか、色んな説がある。

 他にも農業とか畜産業の人には、一年に二回も時間変更することが厳しいとも聞いたことがある。


 そもそも節電のために始めたはずだけど、最近ではあんまり意味がないんじゃないかっていう話もある。確かにねえ。結局中途半端に暗かったり寒かったりするから、電気もつけるし暖房もつける。この一時間にどれぐらいの意味があるかっていうと、僕もあまりピンとこない。


 で、この時間の移行をやめてしまおうという動きがある。実際EUの議会かなんかで可決したそうだけど……そこから止まっている。今はコロナ関係でそれどころじゃないっていうのもあるけど、「どっちの時間」を取るかで意見が分かれるのだそうだ。こっちの国は冬時間がいい、あっちの国は夏時間がいい。なんだか面倒くさいことになっている。


 個人的には夏時間をやめればいいと (乱暴にも) 僕は思っている。

 だって、夏時間ってやっぱりおかしいもの。

 そもそも始まるのが三月の終わりって、こちとらまだ冬なんですけど。朝は暗いし寒いし。中央暖房のラジエーターは四月中旬まで稼働してるし。だから夏時間って言われても。

 あと日が暮れるのが遅すぎる。五月頃から夏の間は特にそう。夜十時になってやっと暗くなるとかおかしいでしょ。いや、みんなこれがいいんだってのは分かる。だって遅くまで遊び歩けるもの。テラスで酒が飲めるもの。でもただでさえ日照時間が長いのだから、それ以上延ばさなくてもいいじゃないかって思える。結局夜が長くなる分電気だって使うわけだし。スペインに行ったときは、真夜中だというのに親に連れられた子どもたちが盛り場にいっぱいいた。よい子はおねむの時間じゃないのかと心配になる。


 だけどこれはあくまでパリに住んでいる僕の主観であって、同じヨーロッパでも国や地域によって日照時間も違うし、暮らしぶりも違うから一概には言えない。とにかくヨーロッパ内でどちらの時間を取るか一致しないことには何も決まらないだろう。


 そう言えばこの時間変更の日とタイムゾーンをまたいでのフライトが重なってしまった不幸な人がいた。

 イギリス(フランスより一時間遅いのでフランス12時だとイギリスは11時)から戻ってきた日に夏時間が始まってしまったのだ。だから時差一時間足してさらに一時間足して、いや引くのか。いや足すのか、と算数の苦手なその人は混乱していた。翌日の月曜は普通に仕事。体がついていかないと嘆いていた。


 ここから約半年間はとりあえず日本との時差は八時間。三月の終わりにまた時計の針を一時間進めることになるのか。

 ……というか、半年先どころかひと月先のことすら予想できない世の中なのだから、時間の移行問題などまだまだ後回しかな。と、毎日のニュースを見て思ってしまう、今日この頃。


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