シャルル・ド・ゴール、午前四時

夜明け前の空港


市中へ向かう電車の待合は 


まだ閑散としていた



ガムの痕が黒く残ったベンチと


閉まったままのキオスク



無機質な明かりが照らす


がらんと冷たい空間に


たまたま居合わせた他人同士が


黙って始発を待つ



たっぷりと太った黒人の女が


赤ん坊を抱いてベンチに座っている



そばには目つきの悪い男が


ものぐさにうろうろと徘徊している



そこだけ浮いた真っ赤な自動販売機に


背中をもたせかけ


若い男が床に座り込んでいる



汚れたバックパックに足を乗せ


あきらめたような顔で


目を閉じている男がいる



大きなスーツケースを


脇にかためた旅行客が


そんな光景を


神経質そうな目で眺めている



少し離れたところでは


目立たない東洋人がひとり


ぼんやりと床を見つめている



時間の分からなくなった体を


ぐったりとベンチに沈ませて


どこかへ心を置き忘れてきたような


焦点の合わない目をして



誰も口をきかない待合で


紛れこむように気配を消して



こうして自分も


ただの始発待ちの風景の


ひとつになる。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る