春空
気がつくと窓の外を眺めている。
細長い窓枠にトリミングされた空は、うっすらと霞んだ柔らかな水色。贅沢なほどの陽の光が葉っぱを鮮やかに透かす。
長方形に切り取られた太陽が部屋の中に差し込み、冷たい床の上に陽だまりを投げかける。
窓の中へ閉じ込められている間に、春は勝手に遊びに来るようになった。かならず太陽を連れてやってくる。太陽は気が向いた分だけ僕たちを照らしてくれる。このところはご機嫌がいいのか、毎日来てくれる。
長すぎる冬の空に、僕は慣れきってしまっていた。
白く濁った重たい雲が垂れこめる冬空は、まるであきらめと憂鬱が混ざった僕の心の色だった。雲と同じ色に染まった心は、黙って寒さをやり過ごすことしかできなかった。
ひとの気も知らずに冬は素知らぬ顔で、何も言わずに去っていく。入れ替わるようにやって来た春に気づかずいつまでも同じ季節のままでいたのは、僕の心だけだ。
四角い陽だまりの中には、風にそよぐ葉の影が揺れる。あんまり無邪気に照らすものだから、ついその光の中に身をさらしたくなる。
ガラス越しに伝わるぬくもりは、思っていたよりもずっとあたたかだった。太陽がこんなに眩しかったことを、忘れていた。
僕の心にも、少しずつ春が来ればいい。
今はただ、何も考えず、こうして日向ぼっこをしていたい。
外の風はまだ冷たい。気温が上がるのは、しばらく待たなければいけない。
ガラス越しでいいから、また明日も春に会いたい。そしてあたたかな陽だまりに包まれたい。冬の間にかたくなになってしまった胸のうちを、その光で柔らかく溶かしてほしい。
僕の心も、ゆっくりと、春の空に模様がえしよう。
(2020年3月)
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