第39話 U-11
ビーッ
ピリオド終了、最終クォーターとなり、両者出そろう。天百合ボール。
天百合 70-59 海松北
茉莉にPG谷口、ハナにF青島、優里にSG内山、真夜にF中村、レヴィナにFC杉井の布陣。
まずはマンツーマンで天百合の出方を見てくる。茉莉からサインが出た。打合せ通り、”作戦真夜”だ。
バックコートから移る前くらいで茉莉から真夜へパスを投じる。軽く受けた。
F中村が低く構える。この展開を予測し、5分弱ほど休みをもらっていた。
「真夜! 30点取ってみろ!」
!
瞬間、2Fスタンドから声がかかる。鈴木凛理だった。
「うっせーぞリンリ! 黙ってみとけ!」
あらぬ場所から声が発せられる。伽夜だった。退場したはずだがそんなことは守りはしない。啓誠館メンバーのやや横、平気でスタンド上に居てすでに制服に着替え柵にもたれつつストローでジュースをすすっていた。会場がざわつく。
「さ、30点!?」
「うっひゃー、仲悪いんだ」
「びっくりしたー、普通に横にいるし……」
「やっぱ4Q、13番で来るぞ。しかも体力ほぼ満タン、どうなる?」
啓誠館の面々も固唾をのむ。
茉莉が右側に身を寄せる。左ウィングから展開する真夜がスペースを広く使え、かつ他の相手ディフェンダーが妨害しにくいように、この作戦ではアイソレーションぎみになる。
しだいき小刻みになる真夜のハンドリングからクロスオーバーが展開されたと同時に、F中村が反応し、動く。しかし直後にスナッチバックだ。中村が完全に遅れる。3Pが打たれた。
ガツッ
「ありゃ?」
かろうじてはずれ、リバウンドを奪われる。
「バカリンリのせいで外れたわー」
急いで戻る。作戦は2-3ゾーン。海松北はまたハナの位置から攻めると見せかけ、
SG内山に投じる。こちらも3Pが打たれた。
ザンッ
『わああああ!』『ナイッシュー!』
天百合のオフェンスを止め、3Pを返した。この一本は大きい。
海松北が一気に盛り上がる。
天百合 70-62 海松北 再び一桁差。
気を取り直して、天百合のオフェンス、茉莉がボールを持って上がった瞬間、
!
茉莉の目の前に、ディフェンダーが2人現れた。
ハナのマーク青島がヘルプに入った。
「え!? ま、茉莉にダブルチーム!?」
スタンドで見ていた沙織が思わず叫ぶ。
「くっ!」
ディナイこそ厳しくはないが、きっちり囲んできた。
フロントコートへ入る前に真夜へ向けてパスを出す。
キャッチした真夜がそのままジャブステップ入れつつ周囲を見る。
またF中村との1on1だ。F青島はハナのマークへ戻る。
3Pのシュートフェイクを入れた後ドリブルを開始する。
チェンジオブペースで緩めたあと再度突っ込むと、F中村が半歩遅れた。
コースに入りきれない。強くゴール下のショットに行く。FC杉井も飛んだ。
ピッ カウント ファウル海松北14番 ワンスロー
ほとんど2対1だったがものともせず決める。バスケットカウント。ボールを受け取り、そのまま真夜が沈める。
天百合 73-62 海松北
「おーい」
デフェンスへ戻る途中ベンチの美子先生から合図が出る。
「センター3つ目(ファウルが)だってさー。姫で行って退場させるかー?」マ
「うっ 徹底してるね」
FC杉井も1年でレヴィナ相手にはほとんどアドバンテージを取れていなかった。ゴール下を争わせれば、じきにファウルが付いて退場が近くなるだろう。
「……」
しかしハナは相手ベンチをじっと見つめていた。
「うおーい、ハナ、聞いてっかー?」
「ああ、真夜のままでいい」
海松北のオフェンス、F青島へ入れた後、ハナを攻めると見せかけ、
F中村へ入れた。ゾーンの正面で迎えるのは真夜だ。
――エース対決だ!
やられた場所でやり返し、士気の維持を図る狙いだろう。やはり最終クォーターは1年頼みではなく信頼あるエースでくる。
「さーどんな技だー? さっき休憩中思いついたやつかー? っていけね。挑発ダメだったわー」
「ッ!」
F中村の個人技が開始される。レッグスルーの後、抜きに行くと見せかけて中へパスを投じた。カットINしたのはSG内山。一つフェイクを入れ、セミサークル(※1)へ入ろうとしたC杉井を見ていたレヴィナの背後を突いた。ゴール下が決まる。
天百合 73-64 海松北 10点差を挟んでの攻防が続く。
「ナイス優羽!」 「4Q乗ってるよ!」
「うおおいユーリ何入られてんだっつの!」マ
「あーそっち見てたわー」
「ど、どんまい!」
両チーム温度差の激しい声が飛び交う。
攻守交代し、茉莉にボールが入ると、再びダブルチームに来た。
――ま、まただ!
ここは完全にフリーになっているハナにパスを出す。ハナとてガードのポジションにいる。いくらポンコツスキルとはいえ、解せないダブルチームだ。そのハナは受けてすぐ真夜へ入れる。
そしてハナはそのまま振り向き、ベンチの美子先生へ合図を送る。タイムアウトを要求した。
アイソレーション気味になり、またまた真夜とF中村の1on1になる。ジャブステップを入れずに、ゆっくりとボールを突き始めた。
小さなジョルトから突如伸びあがりビハインドザバックを入れる。
左に展開し、中村は付いたが、真夜が斜めにステップバックする。
フェイクからの3Pだ。
ザンッ
ピーッ タイムアウト 天百合
まだ1分そこそこだが、ハナの要求にてTOとなる。両軍引き上げて行く。
天百合 76-64 海松北
-啓誠館スタンド-
「ひええええ、徹底して13番だよー」
「和歌美(都築)がんばー」
「ん、私23番じゃ」 「え、じゃあ私がんば?」
「とにかく3点プレイが多い。ったくとんでもない火力だな」
「でも海松北、苦しいチーム状況で食らいついてるよ」
「天百合5番のDFがアレだから1年(青島)のミドルがよく決まったね。ちょっと運頼みに近い気もするけど」
「そ、それよりなんで茉莉、4番にダブルチームするんでしょう?」
「分からない。ただそれ用のTOに見える。じきに答えがでそうだ」
-海松北ベンチ-
「休め。作戦に変更はない」
こちらは吉田監督が一言だけ呟く。
-天百合ベンチ-
「……。ガードを真夜にやってもらう」
――え?
「ど、どうしたの?」
茉莉への連続ダブルチームを見て、ハナがガードの交代を提言してきた。だが茉莉の現状の役割は真夜へボールを出すだけ。それがダブルチームで難しい状況でも、フリーのハナへ出せばいい。点差もあるこの状況、采配の意図が分からなかった。
「ごめん。他意はない。でもそれが最善なんだ。私も初公式戦、石橋をたたいていきたいと思ってる」
――――相手の監督はキズをつけようとしている。内を瓦解させて最後の逆転の芽を狙ってる。でもそれは今日の私たちの課題じゃない。茉莉にはチームの大将として今日のゲームを終えてもらう。それをこの子らも望んでいる。そう。個性的な私達にはずっと”リーダー”がいなかった。そして、バスケから離れた。必要なんだ。個々の良さを引き出すには必要な、一本の柱が――。
ガードを変えればダブルチームを止めるはずだとハナは言う。
「……」
「んで? オフェンスは?」
「真夜」
「んあ? フィニッシャーは?」
「真夜」
「ちょっ 意味分かんね、ハナマジ意味分かんね」
「ぎゃはははは! 全部真夜って超ウケル」
言うとハナは早々にコートへ行ってしまう。
「ま、待って! ハナちゃん」
!
ハナを呼び止める。全員が茉莉に注目した。
「私が、ガードを続けるよ。このままそれぞれの役割でいこう」
「……」
しばらくじっとハナが茉莉を見つめる。意志は固い。
「なら茉莉、私達はヘルプには行かない。それでもやる?」
「うん……!」
▼
天百合 76-64 海松北
ビーッ
TO終了、海松北のオフェンス。天百合は変わらず2-3のゾーン。とにかく外から打たせ、相手が外した分をオフェンス力で上回る策そのままだ。セーフティリードの維持を試みず、あくまで100点を目指す。
今度はインサイドの杉井にボールを入れ、F青島に出す。しかしハナを突破しきれず、無理にミドルを打つ。外れた。ハナはどれだけフリーで打たせようよも、決して中には行かせはしないというディフェンスをしている。
リバウンド合戦からボールが弾かれアウトオブバンウズ。天百合ボールだ。エンドラインの真夜から茉莉へ入れる。バックコートに待機する2人が茉莉へダブルチーム向かうも、全員上がって行く天百合。
瞬間、吉田監督の視線が鋭くなった。
――――さっきのTO、睨んだ通りだ。やはりこのチームの軸は、あのキャプテンだ。何かボロが出る前に隠すかとおもったがまさか継続とは。何かやりとりがあったのは見ていた。ところが今度はヘルプも無しに逆に全員が上がっちまった。意味が分からねえ。
――――どんなチームにも、エースや大黒柱と呼ばれ、チームの軸となる人物がいる。ウチで言えば中村や内山がそうだ。天百合はその軸が一体誰だか分らなかった。いや、一見最初はあの留学生がそれに見えた。バスケ留学生が居れば、大概チームの中心人物となる。
――――だが違った。間違いなく、あの4番が中心人物だ。最初から気づいてれば、あそこを叩きに行っていた。
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(※1)ゴール下の半円部分。
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