episode2

第20話 N-1

-翌日-


 週が明けてまた一週間が始まった。


「疾風チェスオセロの最新見たし?」


「見てねー、あれ半年くらいチェスオセロしてなくね?」


「じゃあ何やってん?」


「なんかハジメが病院通いしてるわー」


「意味わかんね! んでそうなったかも気になんね!」


「前回の対戦相手が急にホモとかカミングアウトしたじゃん?」


「マジかよそんなん病院行くわウケル」


「いかねーし病院お見舞いだし?」


「出てきた看護師チェスオセロ事情超詳しいし?」


「看護師は何でも詳しいとか常識だっての!」


「「きゃはははははは!」」


 茉莉とハナは昼食の弁当を食べていた。今日も後ろの席のクラス5ギャルが騒がしい。真夜も伽夜もまた髪型が変わってしまっている。席に着く前は相変わらずどちらか分からない。にわかに前日、共に試合をした仲間とは思えなかった。


「今日もちゃんと練習来てくれるのかな?」


「ん、来るでしょ。あの子らにとって生徒指導免除のメリットは大きい」


 指導してもどうせ聞かないので、最近は説教ではなく、無言で30分以上、生徒指導室に拘束されるという手法に出られているらしい。かなり苦痛であるようだ。


「今日は反省会するの? 内容は?」


「多分チーム方針を決める。みんな考えが違う」



 放課後、茉莉、ハナ共に部室に行く。3ギャルが揃っていた。静かだと思いきや、着替えもせず、集中して全力で携帯端末に向かっていた。校内では校則で使えないが、個室であることを逆手に取って早速抜け駆けしていた。


 茉莉らは後で来たはずなのに着替えを追い抜き、先に体育館へ上がる。5分ほどして全員揃った。


 ハナがホワイトボードを持ってくる。やはり反省会をやるようだ。茉莉が前に出た。


「えーと、昨日の試合内容で気になったとこ、あるかな? 私は当然ディフェンス……」


「部員だろー5人はないわー」ユ


「それ試合内容じゃないしー」マ


「なしなーし。楽しければオッケー、はい反省おしまい異存なーし!」カ


「私が出なきゃもっと高度な戦術を出せる」


「ハナ置物だもんなー」


「……」


 ディフェンス、部員、戦術の3単語だけボードに書かれた。


 ――え、これだけ? そんなはずないよね?


「でも、交代要員は絶対いるよ。みんな、部員のアテはないかな?」


「シーン」


「ま、2年になってからでいい。来年に期待」


「それよりさー、ちょっとさー? このチーム何を目指すんだー?」


 伽夜がチーム方針を問いただした。思えば、3人は正規で自分の意志で入部した部員ではない。茉莉は薄々感じていた。この3人は、練習して、上手になって、試合に勝つ。それを求めていないし、目指してもいない。


 ハナに脅されて入部して、次いで生徒指導免除とのメリットと天秤にかけている状態だ。前日の美子先生の助け船がなければ、今日ここに居なかったかもしれない。


「私は、当然試合に勝ちたいかな!」


 やる以上はそうだろう。そこはしっかり茉莉も主張する。


「私は戦術と戦略が披露できればなんでもいい。ただそのために試合数は多いにこしたことはない。つまりトーナメントなら勝利数は必要。相手も強いほうがいい。具体的には、全試合100点取るチームにしたい」


「ごめんハナちゃん、ちょっと後半何言ってるかわからない……」


 ハナはヘッドコーチのような役割を行いたいようだ。実力差があればまれに100点ゲームは出るが全試合と言い放つ。


「ハナはそーだろーなー。でも疲れるんだよなー」ユ


「楽しければよーし。必死こいて勝つのはなーし」カ


「各自自由でいいじゃん。昨日みたいにサイノー無いのがまとわりつくとイライラするしー」マ


 それぞれバラバラの意見が出そろう。茉莉とハナはおおよそ一致しているだろう。

しかし3ギャルは労力を伴う勝利というものに、難色を示している。


 おそらくここでの方針決定が、今後の練習の内容にもかかわってくる。せっかく入部してくれた3人に強制まではしたくない。茉莉は真剣に向き合うべきだと思った。


「私も、やってて楽しくないのはダメだと思う。やっぱり厳しいとか苦しい練習じゃ、ダメかな?」


「練習? あっはははは!」 


「はははは! マツリン、昨日の相手ベンチ見てなかったのかよー」


「?」


 双子に大笑いされる。ひとまず、決を採ろうという流れになる。茉莉とハナは勝つバスケで同じでいいかと問うと、ハナは頷いた。優里、真夜、伽夜は、緩くやる、楽しくやる、自由にやるという意見にまとめた。


 発表


勝つバスケ 2票。

楽緩自由バスケ 3票。


「……」


「じゃ、じゃあ勝ちに拘らず、楽しくやろう! ハナちゃんの戦術にも、なるべく協力してね!」


「って言いたいところだけど、マツリンがキャップだからなー」マ


「うむうむ。古参のマツリーにチャンスを与えよう」ユ


「?」


「……マツリン、この反対意見の3人の中の誰か一人に、1on1で勝ったら、文句なしで勝つバスケやってやるし?」カ


 !


 伽夜からまさかの提案が出された。優里、真夜、伽夜の中の、誰か一人を指名し、1on1で勝てば、全会一致で勝ちを目指すバスケに賛成するという。


 ――そ、そんな。


 茉莉はしり込みする。昨日のバスケの強烈な印象は、おそらく一生涯残るだろう。超強力なオフェンス力を誇る3人。茉莉が1on1で太刀打ちできない特待生の沙織を、圧倒した。それに勝てという。


「勝つバスケ目指してんだから、勝負で決着とか当然じゃん?」カ


「よーし、10分後にやろー! アップ開始ー」マ


「マツリーは誰相手に告白してくれるんだ? あっちで予想しよめー」


 相変わらずマイペースに方針決定し、言うだけ言ってそれぞれ散っていった。茉莉は一瞬思考が停止してしまったが、ホワイトボードを隅に押し戻しつつ、とにかくストレッチを始める。ハナも隣で始めた。


「どうするの?」


 ハナが聞いて来た。


「ど、どうするって、どうしようも……」


「……優里は選ばないほうがいい。勝つビジョンが無い」


 同じ意見の手前、ハナは味方はしてくれてはいるが、アドバイスでどうこうなる状況とも思えず。優里の指名は避けろという。茉莉はまさにその優里を選ぼうとしていた。たしかに前日はトップスコアラーだったが、ディフェンス力は示していない。加えて身長も双子よりは低い。


 その優里相手には勝つことが最も困難という。どういうことだろうかという反応を示す茉莉。


「ジャンパーを防ぐ手がない。あと優里はディフェスはやらないだけで、出来ないわけじゃない」


 真夜と伽夜のオフェンス力も強烈だが、優里の場合は抜かなくても決定力の高いシューティングが今日も当たってくると手が付けられない。加えてギャロップステップのような高度な個人技まで持っている。


「……」


 ボールを使ってアップが終わり、5人が集まる。


「おーし、マツリンのご指名はー?」カ


「うん。伽夜ちゃん、よろしく」


「アタシか」


「ブーハズレー。振られましたわー」マ


「ハナ、何か言っただろー?」ユ


「さあ」


 伽夜は昨日も、必死に勝つバスケに難色を示していた。この提案をしたのも伽夜だ。その伽夜を相手に選ぶのが筋だと思った。

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