赤城司 ―ずっと君を探してた―

 夢の中で見る彼女は泣いている時が多かった。そしてそんな彼女を俺はいつも抱きしめて慰めてあげる。


お願い、どうか泣かないで―。


すると彼女は顔を上げて俺を見つめる。

その顔はいつの間にか素敵な笑顔になっていた。

紫色の大きな瞳には・・恐らく前世の俺の姿が映っている。

そして彼女は俺の名を愛し気に呼ぶ。


「テオ」


と―。 




ジリジリジリジリ・・・・


「あ・・・・。」


目覚まし時計の音で俺は眼を覚ました。まただ・・・またあの夢を・・・。

頭がズキズキと痛む。そして頬に触れると涙の痕が残っている。


「またか・・・。嘘だろう?夢を見て泣くなんて・・・。」


 溜息をつくとベッドから起き上がり、カーテンを開けた。

最近よく同じ夢を見るようになった。夢を見始める様になったきっかけは・・そう、18歳の誕生日を迎えてからだ。


 その日を境に、週に1度はあの夢を見るようになった。夢に出て来る世界は日本では無いと言う事はすぐに分かった。

何故なら夢の中の俺はまるで中世の貴族のような服にマント姿とファンタジー世界に登場してくるような服装をしているからだ。

そして・・・俺の夢に現れる1人の女性・・彼女もまたそれこそ中世映画に登場する貴族の女性のような服を着ていた。


 夢の中の女性は、最初の頃はまるで霧の中に立っているかのようにぼんやりとした姿しか見えていなかったが、繰り返し彼女が夢の世界に現れるようになってくると、徐々にその姿ははっきりしたものになって来た。


 その女性は・・・絶世の美女と言っても過言では無いくらい綺麗な女性だった。

明るい肩先までの茶色の髪は光の当たり具合によっては金色に輝いて見える時もあるし、今にもこぼれそうな大きな紫色の澄んだ瞳はいつも俺の姿が映っている。


 そして夢の世界の俺は彼女をこう呼んでいた。


「ジェシカ」


と・・・。



「司っ!まだ寝てるの?!遅刻するわよっ!」


突然階下から母の呼び声が聞こえて、一気に現実世界へと引き戻された。


「あ!マズイッ!」


今日は大学の学園祭当日だった。その準備があるから早目に大学に行かなければならないんだった!


急いで服に着替えて、階下に降りると母が台所で食事の準備をしていたが、俺を見ると怪訝そうに見つめた。


「どうしたの・・・?司。目・・・真っ赤よ。もしかして・・・泣いてたの?」


「えっ?!」


慌てて洗面所に向かって鏡を見つめて思わず絶句してしまった。夢の中で相当泣いてしまっていたのだろうか?

目が真っ赤になっている。


「うわ・・・何だよ、この顔・・・。」


急いで顔を冷たい水でバシャバシャ洗って鏡を見る。


「う~ん・・・まだ腫れぼったい顔をしてるなあ・・。仕方ない!」


俺は洗面台に置いてあるサングラスに手を伸ばした—。



「あら、司。どうしたの?サングラスなんかして・・・朝ごはんはどうするの?」


「いらない。食べていたら遅刻してしまうから・・・。それじゃ、行ってきますっ!」


玄関を出るとヘルメットを被り、バイクにまたがるとエンジンをかけた—。





「司、遅かったじゃないかっ!それに何だ?サングラスなんかかけて?」


所属するサークルの集合場所へ行くと、同じ学年の修也が声を掛けてきた。


「ああ・・・少し夢見が悪くてな。サングラスは・・少し目が腫れているからだ。」


目元を隠す様に言うと修也が不満げに言った。


「おいおい・・・マジかよ・・。お前・・今日1日サングラスをかけているつもりか?お前の顔目当てにどれだけ女性客が集まると思ってるんだよ。サングラスしてたら女の子が集まらないだろう?」


「おまえなあ・・・本気でそんな事言ってるのか?うちのサークルの出し物が面白ければ、客なんて自然と集まって来るって。」


テーブルの上に次々とノートパソコンを並べながら言った。

俺の所属するサークルはゲームプログラミング同好会だ。自作のゲームを訪れたお客たちにプレイしてもらい、一番人気が高かったゲームを売り出そうかと密かに計画を立てている最中だ。


「それにしても・・・司。お前の作るゲームのヒロインのグラフィックって・・・いつも同じ特徴の女の子ばかりだよな?」


修也がPC画面を見つめながら言った。


「え?どういう意味だ・・?」


準備する手を休めて尋ねると、修也が画面を指さした。


「ほら、これだよ。」


その画面に写り込んでいる女性キャラクターは・・・肩先までの栗毛色の髪、紫の瞳の美少女が映っている。その姿は・・俺が夢の中で会っている「ジェシカ」の姿によく似ていた。


「あ・・・。」


修也に指摘されるまで全く気が付いていなかった。

俺は・・・自分の作りだしたゲームの女性キャラを無意識のうちにジェシカにしていたのだと言う事に―。




午後―


「おい、司。これから学園祭の目玉の美人コンテストが始まるんだよ、見に行こうぜっ!」


学園祭で買った焼きそばを食べていると、突然部室のドアが開かれて修也が入って来た。


「いや・・・俺はいい。見に行くつもりは無いよ。」


再び焼きそばを食べ始めると、突然修也に取り上げられてしまった。


「お・・おい、何するんだよ。」


「駄目だ、絶対に行ってもらうぞっ?!大体お前女子学生達から人気があって、彼女達から告白されて付き合ってるよな?それなのにいつもいつも長続きしない・・・。女に興味が無いのかよ?今日の美人コンテストはな、姉妹校の女子大から集めらた美女達も参加するんだぜ?な・・・一緒に見に行こうよ。」


「修也・・・。」


なんだ、結局1人で見に行くのが嫌なんだな。だけど・・・幾ら美女と言っても・・ジェシカの美貌に叶う女性がいるはずが無い・・・。でも・・まあ付き合ってやるか。



だけど、俺はここで驚愕の出会いを果たす事になる―



「はい!では今年のミス・キャンパスの決勝を通過した2名の女性を紹介させて頂きます―。」


司会の男がステージ上で挨拶を始めたが、その後の会話はまるで俺の耳には入って来なかった。


壇上に上がった2人の女性・・・その内の1人の女性を見て俺は息が止まりそうになった。


小柄で黒髪のセミロングの女性はステージ上に立っていたが、どことなく困ったような表情を浮かべていた。


あの女性は・・・・ジェシカだっ!

何故かは分からないが、瞬間的に俺は悟った。外見は似ても似つかなかったが・・・でも俺には分かった。そうだ・・今までどの女性と付き合っても長続きしなかったのは・・・俺の中にジェシカがいたからだ。だから誰とも本気になれなかったんだ・・。



気付けば・・・俺はいつしか涙を流しながら・・彼女を見つめていた―。



 その後の事は・・・はっきり言ってよく覚えていない。結局彼女は準優勝で、この学園から立ち去って行った。俺は彼女を探そうと思い、名前をコンテストの主催者に尋ねようと思ったが・・・やめた。


 何故なら俺には確信があったからだ。

俺と彼女は絶対に深いつながりがある関係に違いない。何故なら彼女を見た時に・・心を・・・魂を揺さぶられたかのような感覚を覚えたからだ。

そしてそれと同時にジェシカの夢も見なくなった。それは・・・きっと俺が彼女と再会を果たせたからに違いない。



 やがて大学を卒業し・・・就職しても俺と彼女は再会する事は無かった。

だが・・絶対に彼女は俺の前にいつか必ず現れるに違いない・・。



時は流れたある日の事・・・。

自分の所有するシェアハウスの件で不動産屋に足を運んでいた時、偶然にもジェシカの魂を宿す彼女に再会したのだ。

まるで心臓を鷲掴みにされるとはこういう時に表現するのだろう・・・。


 彼女は賃貸マンションを探していたが、中々条件にあう物件が見つからなかったようだ。

気落ちして店を出ようとする彼女・・・。

声を掛けるチャンスは今だっ!



「失礼、お部屋をお探しですか?」


俺は緊張しながら彼女に声を掛けた。そして突然俺に声を掛けられて振り向いた彼女は・・・


とても美しかった。


俺は心の中で彼女に語り掛ける。


ジェシカ・・・会いたかった。ずっと君を探していたよ―と。




<終>








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます