元生徒会長ユリウス・フォンティーヌの呟き

1


 俺の名前はユリウス・フォンティーヌ。

セント・レイズ学院の元生徒会長だった。・・・何故、だったかと言うと、俺は卒業を前に学院を退学になってしまったからだ。

退学の理由は・・・生徒会運営費の横領というとんでもなく不名誉な理由であった。


 俺の家は由緒正しい、伯爵家。男4人兄弟の長男で家族一番の期待の星と言われていた俺が・・・とうとう退学になり、実家に呼び戻されてしまうとは・・・!

その挙句、お前はこのフォンティーヌ家の面汚しと父に一喝され、我が家の領地の辺境の地へと追い払われてしまった。


・・くそっ!家督を継ぐ権利も剥奪され、我が家の後を継ぐのは女たらしの我が弟・・・ジレットになってしまった。

という訳で、今俺は数人の使用人と別荘として使われていた小さな館に半ば幽閉状態でこの辺境のド田舎へと追いやられてしまったのである。

せめてもの救いは・・・ここはド田舎だけども、美しい海と山に囲まれた静かな町だったので、セント・レイズ学院で犯した俺の罪を村人たちには知られていないという事ぐらいだろうか・・・・。


 毎日特にする事も無く、ブラブラと田舎の道を散歩するのが日課となっていた。

それにしても・・・この田舎町は猫の数が多すぎる。

駄目だ。猫を見ると・・・どうしても彼女を思い出してしまう。

そう、俺の人生を狂わせたジェシカ・リッジウェイを・・・・。


 俺がこんな事になってしまったのは全てあの女・・ジェシカ・リッジウェイのせいだ。彼女が魅力的過ぎたから・・・恥ずかしがり屋過ぎたから・・俺は生徒会運営費に手を付け・・・猫グッズを買いあさり、生徒会長の特権を乱用して、聖剣士であるマシュー・クラウドとかいう男にジェシカの護衛を頼んだというのに・・・。

ジェシカは俺に待った恩義を感じている様子は無かった。全く・・・素直じゃ無いんだからな・・。あの照れ屋め。

しかし、次の瞬間―

「ジェシカ・・・?」

俺は名前を呟き、その時疑問に思った。



ジェシカって・・・・誰だ・・・?




2


「ユリウス様・・・・。いつになったらこの天気が回復するのでしょうね・・・。もうかれこれ2週間にはなりますよ・・・。」


子供の頃から俺の世話をしてくれていた爺やが不安そうに窓の外を眺めながら言った。


「ああ・・確かに気が滅入って来る空だな・・・。折角のスイーツも味気なく感じてしまう。」


アッサムティーを飲みながら、ミルクレープを口にしていた俺はフォークを置いて窓の外を眺めて言った。


「実はな・・・俺の忠実な僕であるグレイとルークという学生に手紙を出したのだ。一体今何が起こっているのか、お前達は分かるかと・・・。そしたら彼等の手紙の返事によると、ソフィーと言う準男爵の女がある日、聖女宣言をしたらしい。するとその途端にセント・レイズ諸島は黒雲に覆われ、雷鳴が轟いたという・・。恐らく俺の勘ではそのソフィーという女は・・怖ろしい魔女なのかもしれない。」


「ユリウス様・・・。このような状態に置かれましても、未だにあの学院の事を思っていられるのですね・・・?爺は・・・爺は感激ですっ!」


「有難う、爺や。俺がまだあの学院にいたら、そのような魔女を学院から追い払ってやれたのに・・・残念だ。」


そして俺は再び、ミルクレープを口に入れた。

うん・・・旨い。あの女にも・・爺やの手作りミルクレープを食べさせてやりたい。


え?あの女?・・・・どの女の事だ?




3


・・・おかしい、あれからグレイとルークからの手紙が途絶えてしまった。

あいつ等一体何をしているんだ?こちらは1日2回手紙を書いてお前達に送っているというのに・・もう既にお前達の手紙だけで24通も書いているというのに、一向に返事が反ってこない。

ここは辺境の土地・・・セント・レイズシティからはあまりに離れすぎて郵便の配達すら行われていないから、わざわざ高額なマジックレターを購入して手紙を出しているというのに・・・・あいつらかうんともすんとも言って来ない。

いい加減にそろそろ返事をよこさなければマジックレターだけでこの屋敷の財産を食いつぶしてしまいそうだ。

現に今だって爺やが泣きながら、これ以上そのマジックレターを買うのをやめてくれと懇願しているのに。

お前達が俺に返事を出さないからこんな事になっていると言う事が・・あいつ等には分かっていないのだろう?

噂によると、ジェシカと言う女子学生が『ワールズエンド』の門を開けたせいで、魔物達が魔界から現れ、今学院では大変な事態が起こっている・・・らしいという噂を聞いたが・・・どうせ嘘に決まっているだろう。

何せ、天気が悪い事を除けばここは至って平和な場所なのだから・・・・。


フワアアアア・・・。

いかん、暇すぎて大欠伸が出てしまった。どれ・・・少し昼寝でもするか・・・・。


「・・・・。」


「ユリウス様っ!ユリウス様っ!起きてくださいっ!大変ですよっ!」


目を覚ませば、爺やが激しく俺を揺さぶっている。


「何だ・・・爺や・・・。騒がしいな・・・。」

目をこすりながら爺やを見ると、彼は興奮しながら言った。


「た、大変ですよっ!窓の外を見てくださいっ!」


「窓の外・・・一体何があると言うんだ・・?」


言われて、寝ぼけ眼の目をこすりながら俺は窓の外を眺めた。

するとそこには約一月ぶりの青空が広がっていたのだ。しかもそれだけではない。

空にはくっきりとした虹が現れている。


「ジェシカ・・・!お前も・・・この虹を見ているか?」


俺は久しぶりにジェシカの名前を口にしていた—。





4

 

 大地に青空が戻って1か月程経過した時の事・・・。


「兄上、やはりここはレジャーで遊ぶにはもってこいの場所ですね?」


次男のジレットが本宅から連れてきた使用人達と海から戻って来た。くそっ!何て嫌みな言い方をするんだ!次男のくせに・・・生意気なっ!


「ああ、そうか。それは良かったな?何ならずっとお前がここに残ってもいいんだぞ?代わりに俺が本宅へ戻ってやるから。」


おやつのマカロンを口にしながら俺が言うと、ジレットが鼻で笑った。


「兄上・・・何をおっしゃってるんですか?もうとっくにあの家には兄上の居場所はありませんよ?部屋だって無くなっています。ああ。そうだ、父からの伝言を頼まれていたのを思い出しましたよ。」


ジレットはニヤリと笑うと言った。


「もっとこの町を発展させる事が出来たら・・・本宅に戻してやっても良いと話していましたよ?」


「何?!それは・・・本当かっ?!」


残りのマカロンを口に詰め込むとジレットに尋ねた。


「ええ。そうですよ。もっと観光業とかを・・・発展させれば観光客も沢山訪れるでしょう。それにしても・・・海で出会ったあの女性・・・すごく素敵だったな・・・。栗毛色のフワフワとなびく長い髪に、紫色の大きな瞳・・・とんでもない美女だった・・。」


突如、ジレットは眼を閉じるとうっとりとした顔つきで呟く。


うん?今の外見・・・何故かジェシカと被った。


「おい、ジレット。そんなに見事な美女だったのか?」


「おや?兄上も興味があるのですか?」


「あ・・ああ。多少はな・・・。」


「いいでしょう、お話してあげますよ。海での話です。とても美しい女性が港に立っていたんですよ。あまりの美しさについ、私は声を掛けてしまいました。しかし、その矢先に2人の男性が現れたんですよ。おい!ジェシカに馴れ馴れしく声を掛けるなって・・・。」


「何?お前・・・今、何て言った?その女の名前・・もう一度言え!」


気付けば、俺はジレットの襟首を掴んでいた。


「あ、兄上・・・く・苦しい・・・。ジェ・・ジェシカと呼ばれていました・・。もう・・は、離してください・・・。」


「本当だな?男2人にジェシカと呼ばれていたんだなっ?!」


「そ、そうですってばっ!」


次の瞬間、俺は屋敷を飛び出していた。ジェシカ・・・!男2人に囲まれてと言っていたな?ひょっとするとそれはマリウスとアラン王子の事だろうか?俺のジェシカが今この港にいるのかっ?!


「ジェシカッ!!やっぱり俺とお前は赤い糸で結ばれていたんだなっ!」


気付けば俺は大声でジェシカの名前を叫びながら港へ走っていた。


・・・後から気付いたのだが・・あの時、転移魔法を使っていれば・・・ジェシカに会えたかもしれないのに・・・。



ハーハー息を切らせながら俺は港に到着した。


ジェシカは・・・どこだ?!


辺りをキョロキョロ見渡すも船乗りがまばらにいるだけだ。


「おい!そこのお前・・・観光船・・観光船を見なかったか?!」


近くにいた船乗りの男を見つけて、俺は問い詰めた。


「ああ・・確かに観光船は来ていたが・・・30分ほど前に出向したぜ?たった3人だけの観光客を乗せて・・・。」


「3人?彼等の外見を教えてくれ。」


「ああ、男2人に女の組み合わせだったな・・・。しかし、あれ程の美人生れて初めて見たよ。長い髪の毛が良く似合う女だったな・・・。2人の男から『ジェシカ』って呼ばれていたが・・・・あの3人は恐らく三角関係で間違い無いだろうな?」


船乗りはパイプをふかしながら俺に言った。



「な・・・何だって・・・?!」


くそっ・・・!!何て事だ!

俺が・・・あの時、転移魔法を唱えていれば・・・ジェシカに会えたのにっ!


「ふ・・・でも、まあいいさ。俺とジェシカは赤い糸で結ばれているんだ。きっと絶対にどこかでまたお前に会えるに決まってる。」


俺は海を見つめると心の中で呟いた。


だから・・・ジェシカ。


また会うその日まで・・・少しのお別れだ—。



<終>




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