如月舞の物語 ②

「ねえ!ちょっと・・・これ外してよっ!これじゃまるで囚人扱いじゃないのっ!それに・・・貴女一体何者よっ?!何で私をこんな酷い目に遭わすの?!」


手錠と足かせをジャラジャラ言わせながら目の前のフードを被った女に抗議した。すると女はジロリと私を睨み付けると言った。


「いいだろう、私の名前を教えてやろう。私の名前はエルヴィラ。ハルカ様によってこの世界に生み出された魔女さ。」


「ねえ・・・さっきから貴女の言ってるハルカ様って・・・ひょっとして川島遥って人の事を言ってるの?」


「ああ・・・そうだ。お前のせいで・・・ハルカ様はとんでもない目に遭ってしまったんだ。」


とんでもない目・・・?何だかその言葉を聞いた途端、私の背中を冷たいものが伝わった。


「ま・・・まさか・・・?」


 私は自分の小説の中で川島遥の事をどう書いた?確か・・・歩道橋から落下して・・頭を強く打ち・・・目が覚めたら自分の書いた小説の世界の・・悪女として生まれ変わっていたと書いたっけ・・・。ひょ、ひょっとして・・・その話通りに・・?


私の顔色が変わった事に気付いたのかエルヴィラと名乗った魔女は言った。


「ようやく事の重大さに気が付いたようだね・・・。そうさ、お前の書いた小説の通り、ハルカ様は頭を強く打って死にかけている。そして・・・ジェシカ・リッジウェイは死んだ。お前は・・・なんと罪な事をしてくれたのだ?私はハルカ様を助ける為にお前が元いた世界へと渡り、ハルカ様を連れ・・・ついでにお前に罰を与える為にこの世界へ連れてきたのだ。だから・・・罪を償うまでは決して元の世界へ戻れるとは思うなよ?」


エルヴィラは私に付けられた手錠をグイッと引っ張りながら言った。


「お前の小説はジェシカの姿となったハルカ様がこの世界で弓矢で撃たれた所までしか書かれていない。だが・・この先もう二度と勝手にお前に話を作らせないからな?後は・・・自然の流れに任せるしかない。お前は元々この世界にいてはいけない人間・・・。もしハルカ様がお前の罪を許すなら・・・きっとこの先お前に助けを求める為にここへやって来るはずだ。それが何年先になるかは分からないが・・・。せいぜいそれまでここでずっと待ち続けるが良い。・・・まあいきなりここで生きて行けと言われても難しいだろうから・・・。お前にある力を分けてやろうじゃ無いか?」



エルヴィラの言ってる話の半分は呆然としている私の頭の中に入ってくる事は無かった。ただ・・・はっきりしている事は、私のせいで川島遥が死にかけている事、そしてこの世界が・・・私が書いた偽物の世界だと言う事だけであった—。



 私が連れて来られた世界は『聖剣士と剣の乙女』の世界ではあったが、実際は私が作り変えてしまった・・・ある意味狂った世界だった。そしてエルヴィラ曰く、ここはヨルギア大陸のリマ王国と言う場所で、あの悪女「ジェシカ・リッジウェイ」の故郷だと言う。


エルヴィラには少しだけ予言能力があるらしく、いずれ川島遥の魂を宿したジェシカがここを訪れるだろうから、それまでは贖罪の意味を込めて、ここで占い師として人々の悩みを解決するようにと命令された。


そしてエルヴィラによって与えられた私の能力が・・・人の心の奥底に眠っている記憶を呼び起こす『過去見』と占い師の能力だったのである。




・・・あれからどれくらいの年月が経過しただろう・・・私はこの狭い路地裏にある怪しげな家に住み続け、占い師としての仕事を黙々とこなしてきた。

私の元を訪れるのは・・・いずれも計り知れないほどの悩みを抱えた者達ばかりで、そんな彼等の悩みを私は1度の占いで見事に解決して来た。

・・・これはきっとあの魔女「エルヴィラ」のお陰だろう。

私の元を訪れた人々は皆感謝し、多額の謝礼金を支払おうとしたが・・・そんなものは別に欲しくは無かった。

私の望みはただ一つ・・・ジェシカ・リッジウェイが自身の悩みを解決する為に私の元にやって来てくれる事・・・・。

しかし、待てど暮らせど、一向にジェシカ私の元を訪れる事は無かった。

・・・そう言えば、エルヴィラは言っていた。私と川島遥との時間軸がずれていると・・・・。それはつまり私と川島遥はエルヴィラによって連れて来られた時代が違うという事・・・。

いつ?一体いつまで待てば・・・ジェシカは私の元に現れてくれる?

もう数えきれないほどの年月を私はこの世界で生きてきた。

皺ひとつなかった私の顔は今では深い皺に刻まれている。だけど・・・その皺の数だけ、私の名前は有名になり・・・今ではこのヨルギア大陸にその名が知れ渡る程にまでになる有名な占い師になっていた。



 そんなある日・・・予感がした。何故かは分からないが、胸騒ぎがする。

間違いない・・・・。もうすぐ・・あれ程待ち望んでいたジェシカ・リッジウェイ。

彼女は・・今日私の元へとやって来るという事を!




時は満ちた—。


今、私の目の前には3人の若者と・・・・そして彼等に守られるように立っている美しい女性が立っている。

栗毛色の長く美しい髪に・・・紫色の大きな瞳の女性・・・。

間違いない。気の遠くなる程に・・・長い時間待ち続けていたジェシカが今私の目の前にいる。


だから私は彼女に言う。


「おや、お嬢さん。ようやく来たね。ずっとあんたが来るのを待っていたよ。」


と―。



 あの日・・・川島遥の魂を宿したジェシカ・リッジウェイの悩みを解決した直後、あのエルヴィラが私の目の間に現れ・・・一瞬で私を元の姿に戻してくれた。

突然若返った私を見て驚くジェシカ。


ごめんなさい・・・。貴女が魂を込めて書き上げた作品を勝手に作り返してしまって・・・・。もし・・・元の世界で運命があって・・・会えれば・・・。



 気付けば、私は見慣れた場所に立っていた。というか、ここは・・・いつも見慣れた夜の住宅街であった。


「え・・?嘘・・・?」


しかも良く見れば、自分の着ている服はあの日、エルヴィラに無理やり連れ去られた時に着ていた服と全く同じものであった。


「そ・・・そんな・・・あれはもしかして・・・私が見ていた長い夢・・・だったの・・?」


しかし、それに答える者は誰もいなかった―。




私がエルヴィラに連れさられ、元の世界に戻ってから2年の歳月が流れた。


 今、私はよく当たる占い師として全国的に有名人となっていた。

やはり・・・今までの出来事は夢では無かったのだ。何故ならあの世界でエルヴィラに与えられた『過去見』の能力が失われることなく私の中に残っていたのだから―。



今では立派なビルを持てるほどに収入を得られるようになった私は今日もオフィスの一角で占いを続けている。



「次の方どうぞ。」


私の秘書兼、弟子が次の客を部屋の中に招き入れた。そこに現れたのは美男美女の若いカップルだった。


男性が口を開く。


「あの・・・俺達、今度結婚をしようと思っているんですが・・・絶対に幸せになれますよね?」


「ちょ、ちょっと・・・司さん・・・・!」


女性の方は頬を染めて男性の袖を引っ張っている。

私はこの2人をじっと見つめた。・・・何故だろう?この2人の背後にはそれぞれ違う魂が宿っているのが私には見える。


「まあ、お待ちなさい。この水晶で良く見てみるから・・。」


そして私は水晶に念を送ると・・・彼等のもう一つの魂が見え始め・・・私は息を飲んだ。



そこに映し映しだされたのは・・・・ジェシカ・リッジウェイと・・・アベニューグリーンの髪にアッシュグレイの瞳の青年の姿が映し出されていた。


その映像に驚き、私は顔を上げた。


そう・・・女性の顔は彼女の小説が出版された時にブログで見た事がある。


「川島・・・遥さん・・・。」


突然、名前を呼ばれた彼女は驚いた様に顔を上げて私を見た。


「は、はい!」


「大丈夫。あなたたちは・・・・前世から深い絆で結ばれた恋人同士・・・。一生幸せに・・暮らしていけますよ?」


そう言って私は戸惑う表情の2人に笑みを浮かべるのだった—。




<終>

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