第15話 火気取扱責任者 高見健蔵
ドロッドロッドロッドロッ。
腹の底を揺らす健蔵さんのハッピー号が走る。
後ろのシートに座ったボクは清春のランドセルを胸にだいて、並走の清春に言った。
「ゆうべ、ここ通った時、見たんだ」
ちょうど二本柳の吊り橋の前を通過していた。
「…何を?」
「…ひとだま」
「え!?」
「ヨメがぁ、かあいそうだぁぁ」
清春が立ちどまる。
健蔵さんも、「どうした」と言ってナナハンを止めた。
清春は吊り橋を見たまま棒立ちになっていた。
今までボクは清春の怪談話を信じなかったけど、ゆうべ見たヒトダマで絶対信じてしまった。
だって見てしまったんだもの。
これは信じるしかないっしょ。
清春はといえば、「ホントだったんだな」って顔でぼーっとしていた。
ボクたちは放課後、鉱山の事務所に行った。
事務所の前でコヤジと遊んでいると、坑道からトロッコが上がってきた。
トロッコの中では鉱夫のおじさんたちが笑っていた。
健蔵さんもいた。ボクたちに気づいて手を上げた。
健蔵さんが風呂で汗を流して、ボクらのところに来た。
「お待たせ」
所長さんが健蔵さんに声をかけた。
「健蔵……最近、発破の量多くないかい」
発破というのは、山を爆破するダイナマイトのことだ。
坑道の中でドカンと発破をかけてヤマを崩しさらに奥へ掘りすすめる。
または、岩壁にドカンと発破をかけて石を取り出す。
所長さんも風呂上がりで、濡れたバーコードヘアをクシで撫で付けながら言った。
「在庫火薬の減りがナ、ちょっと気になったんだヮ」
健蔵さんは、のんびりと所長を見ている。
所長さんは真っ直ぐに健蔵さんを見ている。
「火気取扱責任者、おまえだから」
するとそばにいた鉱夫のおじさんたちが笑って言う。
「所長、そんなことないヮ」
「同じ同じ、いつもと同じだヮ」
「発破増やしたって鉱夫の数が知れてんだから、増やす意味ないっしょ」
所長さんは、「まあそうだな」とうなずきながらクシを胸ポケットにしまった。
「あらま、所長、めかしこんで」
「今晩あたりデカイ発破かけんの? 奥さんの坑道に、ドカンって」
「所長こそ量減らした方がいんでないかい?」
おじさんたちはみんな笑っている。
ボクと清春はなんとなく意味がわかったけど笑わなかった。
笑ってはいけないと思ったからだ。
健蔵さんが笑っていなかったから。
「なにはんかくさいこと言ってんだお前ら。……健蔵」
と所長さんに言われて、
「はい」
健蔵さんの声がかすれた。
「清春の走り、見てやってんだって? おまえがコーチなら鬼に金棒だ」
と言って、「な」と清春の肩を叩いた。
清春は直立不動で「はい」と答えた。
清春のとうさんも鉱夫なので所長さんは「偉い人」なのだ。
清春の緊張の仕方がなんかおかしかったので、ボクはみんなに見られないように体の向きを変えてこっそり笑った。
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