★★★ Excellent!!!
終わりがないのが終わり、それが校正作業 和田島 イサキ
バグという名の誤字脱字その他に悩まされる、とある物書きさんのお話。
いわゆる校正作業のキリのなさを、『バグ退治』として表現した現代風の寓話です。潰しても潰しても無限に湧いてくるミス、いくら続けてもまったく終わりが見えないばかりか、完璧だと思ってリリースした直後にとんでもない大ポカが見つかる、というような。
印刷原稿制作における校正作業の特性(というか、いわゆる「あるある」的なもの)。言われてもみれば確かに『バグ(虫)』、システム開発におけるデバッグ作業と似ている部分があって、それがユーモラスかつふんわり幻想的に描かれた独特の世界は、不思議でありながら妙に引きつけるものがありました。突飛と言えば突飛な設定のはずなのに、でも「わかる」という感覚一本でお話の世界に引きずり込んでしまう。
全体的にはバグやそれに悩まされる主人公の物語なのですけれど、でもお話の筋そのものはあくまで『バグ退治』をめぐる物語で、そしてこの『バグ退治』というのはバグをつぶす作業を指す言葉ではなく、作中に登場するとある商品の名称になります。
バグ対策のための便利な道具。パソコンに吹きかける、あるいはコネクタから吹き込むことにより、画面内の誤字脱字をポロポロ死滅させることができるという商品。ものがバグ(虫)だけに殺虫剤のようで、というか作中のバグ自体が実際に虫のような生態をしているらしくて(元気に動いたり鳴き声をあげたりもする)、とにかくその『バグ退治』を注文するところから始まる物語。
そして数日中に届くはずだったそれが、でもどうしてかまったく届かない——というところから物語は動き出します。
好きなのはまさにこの部分、『頼んだはずの商品が届かない』という現象で、実は「物語がここから動き出す」というより実質ここで始まっているというか、この現象が異世界への入り口であるように読めます。問い合わせた配送…
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