第19話 ときの空間。

「……………」


「……………」


「あれ?」

寝ぼけマナコで腕を動かす。

…いない。

いつも私の隣で寝ている世炅セギョンの身体を手探りで探す。

…いない。

もう、起きたのかな?

いつもは、私が起きるのを寝ながら待っているのに…

上半身をお越し、辺りを見回す。

あれ?

安奈アンナさんの姿もない。

もう1度、辺りを見回す。

…………!

私は、ベッドから飛び起き居間に向かう。

地下の牢獄部屋から階段を上がり、朱色の渡り廊下に出る。

渡り廊下を走り住居区に向かう。

台所の扉が見えてきた。


台所の扉を開ける。

「お母さん!」

お母さんを呼びながら中に入る。

「お母さん!」


あれ?

誰もいない?


今度は、お父さんを呼んでみる。

「お父さん!」

返答がない。


なんで2人ともいないの…


台所のIHコンロの上にある鍋の中を確認する。

蓋をあげると湯気が上がる。

わぁー豚汁だ。

こっちの鍋は?

じゃがいもが蒸かしてある。


台所にあるお母さんのメモ帳にコメントを書く。

"お母さん、いつもありがとう。"

馴れた手付きで置いてあるタッパーに豚汁とじゃがいもを詰め込む。

あとは…


台所にあるテーブルの上にあるモノに目が止まる。

なんだろう?

近づき確認する。

風邪薬とバンドエイドと液バンと板チョコ。

叔父サンチョン

呼んでみる。

叔父サンチョン!」

返答なし…


ん?

風邪薬の箱とバンドエイドの箱の間にメモが挟まってる。

取って見てみる。

メモには、"波木ハキ、風邪ひくなよ。"と書かれている。

メモがボヤけて見える。

メモに、大粒の涙が落ちる。

この字は…

お父さんの字だ。


ありがとう。お父さん…

メモを握りしめ、しばらくの間、泣いた。


私は、夢の中でたまに、令和に戻っていた。

でも、いつも私が帰った時は、お父さんとお母さんは、いない。

何時からだろう?

私が、台所に行くとさっきまで誰かが料理をしていた気配を感じた。

そして、鍋の蓋を開けると湯気が立ち上がる。

私が来るのが解っていたかのように料理が完成している。

そして、鍋のそばにエコバッグに空のタッパーが入れて置かれている。

まるで、これに入れて持って行けと言わんばかりだ。


今回は、お父さんまで私のために必需品を用意してくれていた。


でも、令和に戻っている時間は、いつも短く突然に大正時代に戻されてしまう。


確か、子供の頃、よく、お父さんやお母さんの若い時の写真を見ていたが、あのアルバムは、どこにあったけ?

あのアルバムの中で安奈アンナさんと世炅セギョンと私で撮った写真を見たのかな?

それとも蔵だったかな?

あれ?

でも…お母さんと2人で蔵で何かした事あったけ?

頭の中で1年間の行事で蔵に行くことがあるものを考える。


あ!


波木ハキ、そこの棚の上を雑巾で綺麗に拭いてね。」


「なんで、皆で掃除するの?」


「1年間の垢を落として新しい年を迎える準備なのよ。」


「ふーん。」


「そして、お正月の神様を迎えるためなのよ。」


「神様が来るの?」


「そうよ。」

「昔は、大掃除を物忌み、煤払いと言ってたのよ。」

煤払い、厄払い…私が世炅セギョンの世界で使っていた呪文…


「私も神様に逢いたいな。」


「綺麗に掃除できたら遇えるかもよ。」


「本当?」

「ねぇ、ママ、神様ておじいちゃんなのかな?」


「どうして、お爺さんなの?」


「テレビで白い長い髪を生やしたおじいちゃんの神様がいたよ。」


「それは、テレビの世界だけの神様ね。」


「じゃ、特別に波木ハキに神様の写真を見せてあげる。」

私は、蔵に向かって走り出していた。

子供の頃のお母さんとの会話…


あの時、お母さんが見せてくれた写真は、セピア色の世界に綺麗なお姉さんが3人写っていた写真だ。

最初は、アイドルの写真かと思った。

でも、お母さんは、写真に写っているのが神様だと言った。


それで私は、セピア色の世界が神様の世界の色だと思った。


蔵の入り口に着いた。

蔵の扉に手をかける。


視界が一瞬、黒くなった。


…瞼を開ける。

視界がボヤける。


「おはようございます。波木ハキ様。」

聞き慣れた声が耳元で言う。


「おはよう。世炅セギョン。」

目の前に世炅セギョンの顔がある。

2人ともまだベッドに横になってる状態だ。


波木ハキ様、また、私の知らないうちに何処かに行ってらしたのですね。」

世炅セギョンの言葉にきょとんとしていると世炅セギョンの視線が私の胸元に動いた。

世炅セギョンの視線を追う。

あ…

私は、大事そうにエコバッグを抱えて寝ていた。

起き上がりエコバッグの中を見る。


やっぱりそうだ。

豚汁とじゃがいもだ。


そうだ!思い出した。

私は、令和に帰っていたのだ。


安奈アンナさんの姿を探す。

部屋には、いない。

台所?


ヤバい!

私は、安奈アンナさんに大声で話ながら台所に向かった。

安奈アンナさん!朝ごはん作らなくていいですよ。朝ごはん、ここにあります。」


台所で安奈アンナさんを見付けた。

まだ、朝ごはんは、作っていなかった。

世炅セギョンは、相変わらず私の後をついてくる。


安奈アンナさんと世炅セギョンは、エコバッグの中を見ている。

私は、エコバッグの中からタッパーを取り出す。

まだ、タッパーが温かい。

タッパーの蓋を開けてみる。

湯気が立ち上がる。

「わぁー!」

世炅セギョンが豚汁を見て声をあげた。


目をまん丸にして豚汁を見ている。

じゃがいものタッパーも開けてみた。

こちらも湯気が上がる。

すぐに両方とも食べれる。

本当についさっき出来上がりをタッパーに入れたようだ。

世炅セギョンがまだ、エコバッグの中を見ている。

もうなにも入っていないはずだけど。

エコバッグの中を確認する。

ん?

中敷き?

私は、中敷きなど入れなかったよな。

中敷きを取ると小さい保冷バッグが現れた。

保冷バッグを取り出しファスナーを開ける。

中には、保冷剤とバターとヨーグルトが入っていた。


「それも、食べ物か?」

安奈アンナさんが、テーブルの上に出された物を見て言う。

1914年かぁ。

大正3年頃は、確か、まだ乳製品は、悪いイメージがあった?

あ、ヨーグルトができた年だっけ?

じゃー、バターもまだ普及していないよね。

私は、保冷剤よ指差し「これは、食べ物じゃありません。」と言った。

「よし、じゃがバターを食べましょう。」


私は、丸皿にじゃがいもを1つのせ包丁で十字に切り込みを入れてその切り口にバターをのせた。

「じゃがバター完成。」

スプーンを添えて安奈アンナさんの前に置く。

安奈アンナさんは、スプーンを取り一言「いただきます。」と言ってバターたっぷりのじゃがいもをすくい口に運ぶ。

その姿をじーーーっと見つめている世炅セギョン

「美味しい。」

安奈アンナさんが声をあげた。

その言葉に頷く世炅セギョン

そして、世炅セギョンは、キラキラした視線を私に向ける。

でも、その視線は、"早く早く私も"と言っている。

私は、また丸皿の上に1つじゃがいもをのせ包丁で十字に切り込みを入れてその切り口にバターをのせる。

「はい。お待たせ、世炅セギョン。」

世炅セギョンは、満面の笑みで丸皿を受け取った。

あq


「…世炅セギョンは、いつまで、じゃがいもとにらめっこするつもりだ?」

安奈アンナさんの質問に笑顔を返す世炅セギョン


波木ハキ、そっちも食べてみたいな。」

安奈アンナさんが豚汁のタッパーを指差す。


笑顔のまま、スプーンをもってじゃがバターを見つめている世炅セギョンに気を取られていた。

安奈アンナさんは、すでにじゃがバターを食べ終えていた。

「今、お椀に取り分けますね。」


私の言葉に世炅セギョンが反応する。

豚汁をじーーーーっみている。

「大丈夫、世炅セギョンの分もちゃんとあるから、早くじゃがバター食べないと冷めちゃうよ。」

私の言葉にじゃがバターを食べようとしたが私を見て手を止めた。

世炅セギョン、何で、食べないの?」


「まだ、波木ハキ様が、食べられておりません。」

世炅セギョンの言葉に、ムネと世炅セギョンと私で食事したときの事を思い出した。

あの時…

私が、ご飯を食べてから世炅セギョンは、自分もご飯を食べた。

私を待っているの?

「もしかして、世炅セギョンは、私が、食べるのを待っていたの?」


「はい。」


波木ハキ様とまた、ご一緒に食事ができるとは、正直、思ってもいませんでした。ですからご一緒に食事をしたいのです。」

「あの時の感動は、いまでも忘れていません。」


「そっか。」

「よし、一緒に食べよう。」

私は、豚汁のお椀を安奈アンナさんに渡し、丸皿にじゃがいもをのせて包丁で十字に切り込みを入れてその切り口にバターをのせた。

「では、いただきます。」


「いただきます。」

私の言葉に世炅セギョンが続いた。

世炅セギョンの視線を感じる。

私の1口目を待っているようだ。

スプーンでじゃがいもをすくい口に運ぶ。

「美味しい。」

私の言葉を聞いて笑顔になりじゃがバターを食べ出す世炅セギョン

「本当に美味しいです。」

目をうるうるさせながらそう言った世炅セギョン

さっき、世炅セギョンが言った言葉が頭の中にとどまる。

"波木ハキ様とまた、ご一緒に食事ができるとは、正直、思ってもいませんでした。"

この言葉は、やはり、世炅セギョンが太古の昔より私を探し求めて来たと思えた。


世炅セギョン…誰も取らないから、落ち着いて食べろ。」

安奈アンナさんの言葉に世炅セギョンをみる。

世炅セギョンは、じゃがいもを守りながらじゃがいもを食べている。

多分…私を探した長旅では、落ち着いて食事を出来なかったのだろう。

世炅セギョンの隣に椅子を運び、世炅セギョンに話しかける。

「じゃがいも美味しいね。」


「…はい。波木ハキ様。」

隣に移った私に驚いたようだ。

少しは、落ち着いたようだ。

「この部屋には、私と世炅セギョン安奈アンナさんしかいないから。」

「誰も世炅セギョンのじゃがいも取らないからね。」


「はい。」

嬉しそうにじゃがいもを食べている世炅セギョンは、無邪気で可愛い。


「なんか、波木ハキは、世炅セギョンのお母さん役だな。」

安奈アンナさんの言葉にきょとんとしている世炅セギョン


「ところで、このじゃがいもと豚汁は、何処で手に入れたんだ?」

安奈アンナさんから鋭い質問が飛んで来た。

私は、正直に夢の中で令和に帰った事や、叔父サンチョンと蔵で見付けた古文書や蔵から大正時代に来た事を話した。

「やはり、波木ハキ様は、時空間を移動出来るのですね。」

意外にも世炅セギョンが私達の話を聴いていて言葉を発した。

「時空間?」

必殺鸚鵡返し発動。


トキの空間です。」

トキの流れを自由に移動されてると思います。」


トキの流れを自由には、動けていないような。」


「それは、時間軸が現在必要な位置に縛られているからでしょう。」


「ふむふむ」

世炅セギョンの話は、解るような解らないような。

「で、波木ハキは、何者だ?」

安奈アンナさんが、私と世炅セギョンの話に入って来た。


波木ハキ様は、太陽神から生まれた守護の神です。」


「守護神か。」

安奈アンナさんが、ポツリと言った。

えーと、私は、守護神なの?

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