Ch. 5 - At World's End
26. 襲撃
結局、ディルの傷の痛みが落ち着くまで、さらに数日カラヴィスに滞在することになった。あれからアルヴィードとは、何となく気まずいような思いもしたが、相手が全く気にしていないようなので——それはそれで何だか腹が立つような気もしたのだが——いつの間にか、それまで通りに戻っていた。
「明日には発てそうだな」
イングリッドの屋敷で、朝食後にディルの傷を確認していたロイがそう言った。灰色狼の傷痕はまだ生々しい色をしていたが、それでも痛みは随分と引いていたし、動かすのに支障はなくなっていたから、ディルも素直にその言葉に頷いた。
「ここから、その北の……」
「イェネスハイムか?」
「うん、そこまでどれくらいかかるんだっけ?」
「ゆっくり歩いて一月半くらいだな。あんたの様子を見ながらだから、そう急いで旅をするつもりはないしな」
「もう大丈夫だよ」
「患者は薬師の言うことをおとなしく聞くもんだ」
その青紫の瞳に浮かぶ光は変わらず優しい。先日の告白が気にならないわけではなかったが、ロイ自身の態度もあまり変わらなかったので、一旦考えることを先送りすることにする。
「厄介事は避けて通れるなら可能な限り避けるべし、悩み事は可能な限り先延ばしすべし」というのはディルがこの三年で学んだことの一つだった。
ともあれ季節は夏に差し掛かろうとしているところだから、着く頃にはちょうど夏の盛りになるのだろうか。そう尋ねると、ロイは少し考え込んでから、首を横に振った。
「北へ行けば行くほど、秋が早い。夏は一月くらいしかないはずだから、着く頃には秋の初めだろうな」
「もしかして、寒い?」
「そうだな。あの辺は秋の初めでも雪が降ることもあるから、ある程度暖かい物を用意しておいた方がいいかもしれんな。とは言えこの先もそれなりに小さな街もいくつかあるから、そう慌てなくてもいいとは思うが」
「そっか。でもせっかくだから、街を見てきていい?」
この数日間、癇癪を起こして森まで無我夢中で走ったあの日以外、ほとんど部屋にこもり切りだったから、魔法都市とよばれるこのカラヴィスも窓からしか見ていない。
「ああ。おい、アルヴィード」
「何だよ?」
テーブルに頬杖をついて外を眺めていた男は、ロイに声をかけられて面倒臭そうにこちらに視線を向ける。
「お前さん、この辺に詳しいか?」
「まあ、何回か来たことはあるな。だいぶ前だが」
「そうなの?」
アルヴィードはてっきり狭間の世界の住人だと思っていた。そう尋ねると、軽く肩を竦める。
「元々はこっちの生まれだ。いろいろあってな」
「いろいろ……ねえ」
含みのあるロイの呟きに、だがアルヴィードはもう一度肩を竦めるだけで、それ以上は説明しようとはしなかった。
「まあ、いいか。ディルが外に出るならお前もついてってやれ」
「一人で行けるよ?」
「あんたは自分を知らなすぎる」
「どういう意味?」
「この街には、おかしな奴が多い。あんたみたいに美人で魔力の匂いをぷんぷんさせている奴は、いつ攫われてもおかしくない」
「魔力の匂い?」
「イングリッドの刻印は派手だからな。見る眼のある奴が見れば一発だ」
「ひどい言われようだけど、まあ一理あるわね」
割って入ったのは、艶やかな声だ。振り返ると、今日は深い緑のドレスに身を包んだイングリッドがにこやかに微笑んでいた。
「この街は、研究熱心な人が多いから、気をつけてね。アルヴィード、あなたもよ」
「どういう意味だよ?」
「希少種を見ると、よだれを垂らさんばかりによってくる人がいるのよ」
意味はよくわからなかったが、厄介事の匂いばかりは嗅ぎ取れたので、ロイの方に向き直る。
「だったら、ロイがついてきてくれればいいのに」
ほんの少しばかり恨みがましく上目遣いにそう言ったが、視線を逸らされた。
「若いもんは若いもん同士、仲良くしてこい」
「あら、優しいのね?」
「うるせえ。いいから早く行ってこい」
「……わかった」
アルヴィードに視線を向けると、面倒臭そうに、それでも先に立って歩き出したので、その後をついて部屋を出た。
夏のはじまりの空はどこまでも高く青く澄み切っている。ここのところ問題ばかりでゆっくりとこうして景色を眺めることもなかったが、改めて見れば初めて訪れる街は珍しいもので溢れている。
道には綺麗に石が敷き詰められ、ところどころ色のついた透き通る石が嵌め込まれている。繊細に見えるが、多くの人が行き来する大通りの真ん中にも見えるから、おそらくは強度には問題がないのだろう。
あちこちにひしめいている高さも様々な建物は、どれもが石造りで古そうだが、その壁には細密な彫り物や、色とりどりのガラスが嵌め込まれていて、それらを眺めているだけでも退屈しない。
イングリッドの屋敷がある一角は街の中心街からは少し離れていたが、アルヴィードは迷いなく歩いていく。
「どこへ行くの?」
「着るものがいるんだろう? なら、あっちの方だな」
そう言って指し示したのは、低い石造りの建物がずらりと立ち並ぶ一角だった。灰色から赤茶けた煉瓦に、不可思議な青みがかった壁の建物もあり、多くの店が軒を連ねていた。
「変わってるね」
「魔法都市っていうくらいだからな。おかしな実験で作り出したものをこれ見よがしに見せびらかしてるんだろ」
「アルヴィードは魔法が好きじゃないの?」
「別に好きでも嫌いでもねえよ」
その横顔はどこか浮かない色をしているように見えた。自分はアルヴィードのことを何も知らないのだ、と改めて思う。どこで生まれたのか、ディルと会う前は何をしていたのか、そもそも彼が何の種族なのかさえも。
「何だ?」
こちらの視線に気づいたのか、アルヴィードが問いかけてくる。その金の双眸は、やはり以前に比べると随分穏やかだ。上背があり、引き締まったその身体と端正なその横顔は、十分に女性を惹きつけるだろう。
なぜ自分なのだろう、と喉元まで出かかった言葉をそれでも飲み込んだ。どんな理由があるにしろ、聞いてしまったら、あとには引けなくなってしまうような気がした。
「何でもない」
「おかしな奴だな」
言いながらも、顔をのぞき込まれる。
「どこか痛いとか辛いとかじゃないんだな?」
一瞬何を言われたのか理解できず、首を傾げる。あのアルヴィードが、こちらの様子を気づかうなんて。
「何か変なものでも食べた?」
「今すぐその口、塞いでやろうか?」
あながち冗談でもなさそうに、久しぶりにこちらの背筋が震えるほどの鋭い眼差しを向けられて、それでも思わずその金の双眸に見惚れる。だが、すぐに我に返った。
——優しいそれよりも、惹きつけられるなんて、絶対に本人には知られてはいけないような気がした。
「何だ?」
「何でもない!」
そう言って、アルヴィードの腕を引いて歩き出した。背けた顔が熱い気がするが、アルヴィードはただ首を傾げるばかりだった。
アルヴィードに案内された街の一角で一通りあちこちを見回ったあと、結局最初に訪れた古着の店で、いくつか暖かそうな衣服と外套を購入する。何かの羽毛が使われているらしい外套は、軽くて薄いのに暖かい。まだ夏の気配のするこの季節には似合わないが、寒くなった時には重宝するだろう。
「これいいね」
「気に入ったのか?」
「うん、寒いの嫌いだし」
「そうなのか?」
「『祈りの家』は、いつも冬になると寒かったから」
建物は頑丈な作りだったが、部屋には暖炉などはなかったから、他の子供たちは、凍えるような日には身を寄せ合って暖をとったりしていた。だが、どうしてだかずっと他の子供たちと馴染めなかったディルは、毛布と自分の体温だけがよりどころだった。
「……辛かったか?」
「え?」
「狭間の世界での生活は、苦しかったか?」
その瞳はいつかのように揺れていた。らしくないその様子に、ぎゅっと心臓が締めつけられるような気がした。
「もう、昔のことだし」
辛かったのは事実だが、蒸し返したところでどうしようもない。そう言ったディルの体を、不意にアルヴィードが抱き寄せた。以前と同じような、強く全身を締め付けるような抱擁は、何だか懐かしい気がする。
「アルヴィード、痛い」
「もっと早くに、俺がお前を——」
アルヴィードが何か言いかけた時、だが、呆れたような声が割って入った。
「お客さん、店の前でイチャイチャするのはよしてくれないかね。美男美女は目の保養だが、冷やかしばかりで、客が寄って来やしねえ」
慌ててその腕から抜け出すと、それこそ
不機嫌そうな気配を放つ男にため息をつきながら、ふと周りに視線を向けると、装飾品を扱っているらしい露店が見えた。近づいてみると、色とりどりの宝石を嵌め込んだ首飾りや、耳飾りが並んでいる。
「綺麗だね」
思わず呟くと、赤毛の人の良さそうな店主がにこやかにいくつかの首飾りを示す。
「随分な美人さんだね。装飾品の方が恥じらっちまいそうだが、ひとつも身につけてないなんて勿体ないやね。気に入ったのがあれば試してみるといいよ」
「いや……私は」
「気になるのがあるのか?」
傍らからこちらを見下ろすように、アルヴィードがそう声をかけてくる。
「おや、お兄さん恋人かい。ならぜひ贈り物にどうだい? これなんか最近の若い恋人たちに人気だよ」
言いながら、一対の指輪を差し出してくる。大小それぞれの金の輪の中心に透明な石が嵌め込まれている。
「ほらほら見てごらん」
勢いに圧されて言われるままに右手を差し出すと、薬指にその指輪を嵌め込んでくる。
「少し大きいけど、何ならあとで調整してあげるよ。いい鍛冶屋を知ってるからね。こいつには、同じ結晶から切り出した月晶石が嵌め込まれていてね——」
店主がそう言った瞬間、アルヴィードが顔色を変えてその指輪をディルの指から抜き取ると、店主に放り投げた。そうして、ディルの腕をとって走り出す。
「ど、どうしたんだい……⁈」
後ろから店主が戸惑う声が聞こえて来たが、アルヴィードは振り向きもせず、街の外へと駆け出していく。先日ディルが駆け込んだ森の入り口までたどり着いた時、急に何かの気配を感じて、ぞわりと背筋が震えた。
「くそっ、あの一瞬で、気づきやがったか……」
「アルヴィード、何が……」
「何があっても、俺から離れるな」
その全身からぴりぴりとした緊張感が溢れている。視線の先には森しかない——と思われた瞬間、いつかも見た闇が、唐突に浮かび上がった。
黒く縁取られた闇から、大きな鎌を持った精霊が姿を現す。淡い金の髪に、紫水晶の瞳。
「ようやく見つけた」
美しく微笑むその顔には確かに見覚えがあった。三年前、ディルがアルヴィードの銃の引き金を引いた時に現れた「狩人」だ。
「もう時効だろ?」
ディルを後ろに庇い、腰の剣を抜いて構えながら、アルヴィードが冷ややかに笑う。その金の眼差しは恐ろしいほどに鋭い。だが、精霊は気にした風もない。
「またそなたか。健気なものよの。だが、盟約を
「放っておけばいつか死ぬんだ、お前らがわざわざ出向く必要もないだろう?」
「左様。これは我らの娯楽じゃ」
「娯楽……だと?」
アルヴィードの気配がさらに一段と尖ったものに変わる。
「大戦が終わり、我らはこの力を振るう機会を失った。故に我らの長が我らにこの役割を与えたのよ」
「まさか……」
「違反者を狩るのは我らの権利。さあ、そこを退け。この鎌は、いかな黒狼とてたやすく切り裂くぞ」
「お前一人なら、俺でも対処できるさ」
言って、そのまま疾風のようにその懐に飛び込むと、右肩から斜めに斬り下ろした。人なら即死であろうその傷に、だが、精霊はただ穏やかに微笑む。その傷からは一滴の血も溢れていない。
「言ったであろう。無駄だと」
「馬鹿な……。お前、精霊じゃないのか?」
精霊と言っても様々だが、明らかに他者を傷つけられるほどに実体があるのに、斬りつけても血さえも出ないというのは、常軌を逸している。
「我らはそのなれの果て」
にぃっとそれまでの美しい笑みをかなぐり捨てて、邪悪としか言いようのない表情を見せた精霊にぞくりと背筋が粟立った。大きな三日月の鎌をアルヴィードへと振り下ろす。アルヴィードは軽々とかわしたが、その顔には焦りの色がある。
「アル……」
こちらへと駆け寄って、もう一度ディルをその背に庇う。精霊は楽しげにその姿を見据え、ディルに鎌を向ける。
「そこを
「嫌に決まってんだろ」
「ならば共に死ね」
振り下ろされた鎌を、アルヴィードは今度は剣で受け止める。長いその鎌がわずかにアルヴィードの頬を切り裂く。
前回と異なり、追手がこれ以上出てこなさそうなのだけが救いだが、それでも斬っても手応えのない相手にどうしろというのか。
その
「ったく、化け物相手にどうしろってんだよ」
「アルヴィード、せめてあなただけでも」
逃げて、という言葉は、苛烈な眼差しで遮られた。
「俺は、何があっても、二度とお前を置いていったりしない」
再び振り下ろされる三日月形の鎌を弾き返し、その胴を払う。確かに切り裂かれているというのに、やはりそこから血は流れない。幻ではないのに、その手応えのなさは、はっきり言って不気味以外の何物でもなかった。
「無駄だと言っておろう。どうする、天の瞳の子よ。そなたが自ら命を差し出すのなら、その男は見逃してやろう」
「ふざけるな」
ディルが迷う暇さえ与えずに、アルヴィードは低い声でそう言い放つ。
「こいつがいない世界なんて、俺には意味がない。こいつの命を狩りたければ、まず俺を殺せ」
無論、そんなことはさせるつもりはないがな、と不敵に笑ったその時、ふわりと風が吹いた。狩人の後ろに人影が唐突に現れる。
そうして、現れたその人物は剣を抜き放ちざまに狩人の左腕を斬り落とした。
「な……っ!」
初めて、精霊が顔色を変える。振り返ってその人物を認め、さらに唖然としたような声を漏らした。
「そなた、
そこに立っていたのはロイだった。その顔にはいつものような笑みはなく、青紫の瞳はかつて見たことがないほどに冷酷な光を浮かべている。
「狩り損ねた獲物をわざわざ狩りに来るなんてのは、盟約にはないはずだが」
「そなた、何を……」
「俺が蒔いた種だ。刈らせてもらうぞ」
言って、斬り落とした腕を剣で刺し貫いた。瞬間、精霊が声にならない悲鳴を上げる。一瞬でその美しかった姿が皺だらけにしなびて小さくなっていき、やがて灰となる。その灰さえも、風に飛ばされて、その場にはただ三日月の鎌とわずかに光る小さな欠片だけが残されていた。
極度の緊張が解けて、くずおれそうになったディルの体をアルヴィードが抱きとめた。力強いその腕に包み込まれ、自分が生きていることを実感する。思わずその胸に縋り付くと、もう一度強く抱きしめられた。
「もう大丈夫だ」
耳元で囁かれる低い声に、安堵を感じながらも、体の震えが止まらない。あの「狩人」の精霊の姿と続く戦いは、ディルにあの時の絶望を思い出させるのに十分だった。
アルヴィードは震え続けるディルの背中を柔らかく撫でながら、その額に口づけ、さらに眦から頬へ、そして首筋へと唇を滑らせる。その度に、あの甘いような辛いような香りが強く香り、恐れと混乱も曖昧に溶けていく。
「落ち着け。俺は絶対にもうお前を置いていかないし、ひとりにしない」
穏やかな低い声にどうしてだか泣きたくなる。いつだって粗野で自己中心的で、ディルを振り回すくせに、本当にディルが必要な時には手を差し伸べてくれる。
「活躍したのは俺なんだが」
不意に投げかけられた、呆れたような声に目を向けると、先ほどまでの気配が嘘のようにいつもの癖のある笑みを浮かべたロイの姿がそこにあった。その姿を認めて、アルヴィードが舌打ちするのが聞こえた。
ディルは何とか口を開こうとしたが、歯の根が合わず、うまく言葉が出ない。
そんなディルの様子を見て、ロイは痛ましいものでも見るように、わずかに顔をしかめた。それでもアルヴィードの腕から抜け出そうとしたディルに、ロイは首を横に振った。
「そのままにしてろ。あんたにとっては安定剤みたいなもんだろ」
首を傾げたディルに、だがアルヴィードはもう一度強くその身体を抱きしめる。確かに安堵する自分を自覚して、そのまま大人しくその腕に包まれていると、次第に震えもおさまってきた。
「おい、あれは何だったんだ?」
アルヴィードが、残された鎌の方を顎で示しながら尋ねると、ロイは一つため息をついた。
「あいつらは、精霊のなれの果てだ。大戦の最中、多くの精霊が戦に明け暮れ、正気を失っていった。破壊の衝動に駆られて暴走し始めた精霊たちを、他の精霊たちは見過ごせなかったが、滅ぼすのも躊躇われた。そして、奴らに選択を迫ったんだ」
——滅ぼされるか、月晶石を埋め込まれて、使役される幽鬼となるか。
「ほとんどの精霊たちが死を望んだが、何人かは幽鬼となることに同意した。基本的な自由を奪われる代わりに、精霊の長たちの手足となって働く。『狩人』もその役目のひとつだ。その身はほとんど死者に近い。だから斬っても血も出ないし、容易には殺せない。だが、その身に宿している核となる月晶石を破壊すれば、消滅する」
「そんなこと知らなかったぜ……」
「最高機密だからな。それに普通の奴には、月晶石がどこに埋め込まれているかわからんからな」
「何でお前は……?」
「イングリッドが言っていただろう。俺は盟約の作成とその呪いの構成に関わった。それに、俺の眼は割と特殊でな」
そう答えたロイに、アルヴィードが驚いたように目を見開いた。
「お前がアストリッドが言っていた
初めて聞く名前に、二人を交互に見上げたが、二人ともにどうしてだか視線を逸らされた。
「アルヴィード?」
ようやくまともに動くようになった舌で問いかけると、アルヴィードは少し迷うようにロイに視線を向けた。ロイは肩を竦めて、口の端を上げて笑う。
「そろそろ頃合いだろ?」
「……お前、どこまで知ってるんだ?」
「大体全部、だと思うが」
まあとにかく、と剣を収めながら、二人を促した。
「これ以上追ってはこないとは思うが、こんなところに長居は無用だ。長話をするなら、いったん
「……わかった」
「ロイ、あれは……?」
残された鎌と、光る欠片を示すと、ロイはただ首を振った。
「必要になれば誰かが回収にくるだろうさ。あんたは絶対に触れるな。月晶石は触れる者の魔力に反応して、共鳴する。そうして
詳しいことは後でな、と言いおいて、歩き出してしまう。
「歩けるか?」
「大丈夫、だと思う」
まだわずかに震える足で歩き出そうとすると、不意に抱き上げられた。黒い髪と金の双眸が間近に迫る。
「一人で歩けるって」
「黙って大人しくしてろ」
そう言った強いその眼差しに、どうしてか、やはり思わず見惚れてしまう。その視線に気づいたのか、ふっとその眼差しが緩んで甘くなる。
「なるほど」
「な、何……?」
「そっちが好みか」
何となく嫌な予感がして、その腕から抜け出そうとしたが、結局イングリッドの館に着くまで、アルヴィードは決してディルを下ろそうとはしなかった。
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