第80話 或る男の話

 『第二世界』の分割、民族移動から幾らかの時が経った。

 サンタウルスから“人間居住区”という言葉が消えつつある今日この頃、海に面したこの街に、栗色の髪の青年が訪れていた。

 6尺はある長身の彼は、鞣革の装身具に、白地の端に紅く刺繍をしてある外套をすっぽりと被り、懐かしそうに海岸線を歩いていた。


 この街には、海の神を祀ってある祠(ほこら)というものがあるらしいが、実際にはそんなものは無く、海の神の崇りを恐れて人々が近付けない岩の洞窟があるということのようだ。

 しかし、青年の足は真っすぐにその岩の洞窟を目指していた。


 「旅の方、そちらは危険ですよ?」

青年を呼び止める者は多かった。

「あの岩の洞窟には、昔から人喰い人魚が住みついていて、地元の人間ですら迂闊には近付けない場所なんです」

親切な住民が口々にそう言って青年を引き止めようとするのだが、青年はその一人一人に笑みを返し、「大丈夫です」と頭を下げて行き過ぎる。


――青年は歩き続ける。海岸沿いを、しかし、どこか遠くの空を眺めながら。


 暫くそのまま歩いていくと、波の音に混じって、か細い琴の音が聞こえてきた。青年は波打ち際へと舗道を出た。ごつごつとした岩場の道だ。其処は、かの洞窟のすぐ近くの場所だった。

 

 琴の音が止んだ。


「久しぶりだね」

青年は岩の洞窟に向かって呼びかけた。

「隠居はやっぱり性に合わなくって、また、こんな風に旅することにしたんだ」

波の音に負けないように声を張り上げた。

「オレ達が作り変えた世界を、この目でちゃんと確かめなきゃいけない――弟にも、そう言われてさ」

 少し待ったが、返事は来なかった。青年は口元を緩め、「また来るよ」と一言告げて、岩の洞窟から離れようとした。


 「待って!」

やっと返事があって、青年は振り返った。目の前に、ブロンドの女性が立っている。

「私も一緒に行くわ」

女性はそう言うと、にっこり微笑んだ。

「え? でも……」

青年は戸惑いを見せた。と言うのも、彼女が陸(おか)には永くは居られない事をよく知っていたからである。

「心配しなくて大丈夫よ。人魚は不老不死。死にやしないわ」

彼女は青年の傍に歩み寄った。

「貴方達が作り変えたこの世界を、私にも見せてちょうだい」


 初夏の風が薫る季節だった。

 細波の音が空に染み入る青の空間。空の向こうの「兄弟」達も同じ景色を眺めているのだろうか。


「――喜んで」

青年は歩き慣れない彼女の為にそっと手を差し伸べた。














1997 December 17th Wed ~ 2000 June 11th Sun (1)~(80)


2005 February 18th Thu REBIRTH VERSION 1


2009 December 3rd Thu REBIRTH VERSION 2


2020 September 2st  Wed Final VERSION 




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AntitheseⅠ Eみほ @EMHxOHIME

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