第76話 最終聖戦(2)

(1)

 アレスの予想以上に兵士達は冷静だった。皆がかの島での最終聖戦を伝え聞いて知っていたからだろう。

 海上のステーションから西北西の方向にあるエルサザール島の様子に、兵士達は全神経を集中させていた。彼等の本心は様々だろうが、表面的には単純明瞭。


 光の民は“勇者”の勝利を祈り、闇の民は“魔王”の勝利を信じている。


 サンタウルス正規軍からは偵察隊が、魔王勅命軍からは第二部隊の特殊班が、それぞれ聖戦の情報を探っている。

「世界中の魔法分子があの島に流れているようですね」

第二部隊隊長のヤカから報告を受けたアレスは、もどかしい気持ちを押し殺していた。なるべくなら、もっと近くでこの最終聖戦を見守りたかったからだ。

「世界が変わる、ということでしょう」

神はどちらを選ぶのだろう――アレスは引き続き情報を集めるよう指示したところである。


 再び西北西へ向け、飛空騎を走らせた養女・ヤカの様子を一通り見守っていたディストは、安堵の溜息をついた。呼び止めないのは、父としての思いやりである。ヤカが軍事境界線を越え、謀反でもしようものなら、このステーションに待機している全ての術者(ユーザー)により抹殺され、そこから停戦が破棄される可能性だってある。


 「ヤカちゃん、上手くやっているようね」

察したソニアがディストの傍らに控えた。彼女はレジスタンスになる直前に、フィアルからディストとヤカの関係を聞き知っていた。「親権者の過保護」だと、苦笑交じりでディストは答えた。

「上手く皆とやっていけているようだったので、安心したところです」

魔王軍という大組織内でさえ「独立不羈」と評されるほどの個人主義・放任主義で通していたディストの、また違った一面を見られたことが、ソニアとしては会心だった。

「おっきい子供がいたって大丈夫! そのギャップが良いのよ!」

「え? ええ、はい……ギャップ?」

――ちなみに、ソニアは若干の空想癖と、周りの人間が到底追従できないほど強弱の激しいテンションを持っているという。

「でも、」

辛うじて、ディストが本題に戻す。

「島の様子は気になりますね」

特にディストとしては、姉であるマオがあの双子達を心配して、かなり神経質になっていた事を慮ると、かなり近くにいるのにじっとしていなければならない現状も辛い。

「できるものなら、加勢してあげたいケド、」

ソニアも大きな溜息をついた。

「そんなことしたら、流石に戦争沙汰ね」

此処にいる皆が皆、戦争当事者である。

 きっと誰もが最終聖戦に加わりたいと思っているだろう。

「(無力だな、オレ達は……)」

ディストの結論も、アレスと同じところに行き着いた。

「どうしたの? 何だか深刻な顔してるわね」

まあこんな時だから仕方がないわね、とソニアは笑っている。

「杞憂に終わってくれれば良いのですが」

この穏やかさを維持できているのは、きっと、民の人柱となって戦ってくれている『勇者』と『魔王』のおかげであろう――そう思い至れたディストは、やっと微笑みを返すことができた。


 魔法分子が希薄になってきている。このことは、魔法を攻撃と防御の要とする魔王勅命軍に相当不利に働く。サンタウルス正規軍が停戦協定を破って挙兵すれば勝機はある状況である。

 サンタウルス正規軍元帥の耳にもそういう提案が何度となくあったが、サンタバルト3世はそれらを全て拒み続けていた。

「分からぬか?! 我々は『勇者』と共にあるのだ。彼等の意に背く戦いは、神にも背く戦い。天は我々を見放し勝てる戦も勝てなくなるのは必定!」

――というような元帥の怒号を、サラン皇子とカルナ騎士団長は背中越しに聞いていた。

「……本当ですか?!」

実は、サランはこの時初めてリナの戦死を知った。

「ああ。フィアル君から聞いた。だから、元帥も殺気立っているんだ」

淡々と澄ましてそんなことを言うカルナの、この冷静さもサランには意外なものだった。素直にそう言った彼に、カルナは苦笑を寄越した。

「今更驚きやしないさ。リナが、リョウ君やセイ君の旅にくっ付いて行ったっていうのは、そういう意味合いだったってことなんだよ」

まるで自分に言い聞かせているようにも聞こえたのだが。

「僕達以上に、」

サランは気付いた。

「リョウさんやセイさんの方が、もっとずっと辛いのでしょうね」

殆ど歳も変わらないあの双子の勇者は、誰よりも人の痛みに敏感であった。それを慮ったのか、カルナも言葉を失ってしまったようだ。

 いや、今、カルナが「リナ、」と呟いて空を見上げた。

「勇者を見守ってやってくれな」

西の空には分厚い雲がかかり始めていた。彼女の祈りは、届くだろうか――

(2)

 エルサザールという島は長い間民に見捨てられた場所である。他のどの区域より魔法分子の絶対量が多い。この点でも、この場所は最終聖戦にふさわしい場所だったと言える。


 何の痛みだろうか――リノロイドは、空に伸びる己の両腕だけを見つめていた。召喚した魔法分子が結晶化した巨大な魔法球が、更なる推進力を得んとして彼女の四肢からありったけの魔力を吸い尽くしていく。

 彼女に勝算はある。

 彼女は、大きなチカラを扱うことを『神』に許されている為、そうではないあの双子の少年達を、単にチカラで圧倒するのは簡単なことだった。

 この戦いが終わり次第、すぐに魔王勅命軍の前線に合流してでも光の民を一掃し、闇の民の理想とする国家を作りたい。光の民からも『神』からも、その存在を脅かされる事のない絶対的な平穏を勝ち取りたい。

 だからこそ、闇の民には今まで耐えてもらったのだ。

 戦いに勝利する為にやむなく後手に回した、福祉政策や魔法技術の大衆化。そして重税や、自分の強いた古典的な恐怖政治に――

「(でも、私は、)」

何の痛みだろうか――胸の奥の奥に何かがつかえていて、呼吸すらままならなくなる時があるのだ。

 故郷を捨て、家族を捨て、友を捨て、ついには自分をも捨てたそこには、光の民からも、闇の民からさえも、畏れられている孤独な女王だけが取り残されていた。

「(全てが終わったら、)」

リノロイドは一度、上空を旋回する大きな赤い鳥を見上げた。

「(その時に私を処してくれ、ヴァルザード)」

ゆっくり息を吸い込んだ魔王は、更に闇魔法分子を召喚した。勇者に牙を向く負のチカラはより一層鋭さを増した。


 「痛っ!」

リョウの手首の皮膚が逆流するチカラに耐え切れずに赤く裂け始めた。

 『勇者』側のチカラの抵抗は正面からだけではなく、絶対元素同士が反発する為にできる抵抗が横から襲いかかっており、それが大きくこの戦いの不利に影響していた。リョウのすぐ傍では激しい絶対元素同士のぶつかり合いで竜巻のような風まで巻き起こっており、依然として、目を開けることすらままならない状況が続いている。

 そして、

「う……っ!」

もう一つの負の要素が確実に進行していた。

 「(ダメなのか?)」

痛みより、疲労より、瞼が重い――先程よりも闇属性の魔法分子を集め易くなったのは、きっと、セイの体中に本来持っている光属性の魔法分子が完全に枯渇してしまったからだろう。それはそれは楽だった。そう言えば、母・レジェスも眠るような死に顔だったと、ずっと昔に、セイはマオから聞いたことがある。

「(クソ……眠ィな……)」

腕を上げ続けられず、セイが何とか支えている神剣・アミュディラスヴェーゼアの切っ先が、幾度となく下を向いていた。

「セイちゃん!」

上空から見守っていたフィアルが、いち早く魔法分子の変化に気が付いた。セイに帰属していた闇魔法分子がどんどん拡散していく――萎んでいくのだ!

「セイ?」

水平方向の抵抗が急に緩んだので、リョウも不安になった。

 立ち上る砂塵や暴風や閃光の隙間を縫って、弟を確認しようとしたが、リノロイドが召喚した巨大な魔法球がすぐ目の前まで来たので、リョウは慌てて光魔法分子を召喚する詠唱を唱えた。

 「ぐ……うっ!」

リョウが魔力を上げた分生じた抵抗が、セイの召喚した闇魔法分子を押し戻し、それらが纏っていた負のチカラが、セイの腕を貫いて大きく皮膚を切り裂いた。いや、意識が朦朧としてきていたセイにとっては、適度な刺激にはなった。

 だからといって、現状の不利が変わるわけでもなく、覚醒も一時的なものに過ぎなかったが。


 すぐ目の前にリノロイドの放った殺人的魔法球。

 真横から聞こえる暴風の轟音と自分の身を案じてくれる兄の声。

 唯一の頼みは、感覚を失い、もう何も支えきれなくなってしまった出来損ないの腕と足――絶望が、セイのすぐそこに見えた。

「リョウ、」

聞こえるか聞こえないかはさておき、セイは確かに声にしたのだった。


「……ゴメンな」


(3)


 “オイ! 今ワザと魔法球ぶつけてきただろ!?”


レニングランドの山奥の修業場に響くリョウの声が苛立っている。


 “当たる方が悪い”


セイはというと、激昂しているリョウと目も合わさずに、魔法球を放った手と空を睨みつけていた。


 ――何ということは無い、ほんの少し前までの日常だ。

 セイにとって、あの時のリョウはまだ、どこか呑気な平和主義者で癇に障る存在でしかなく、一方、リョウにとっては、セイは無表情・無関心・無干渉の超冷徹人間で、そら恐ろしい存在でしかなかった。


 「セイ、……セイ、しっかりしろって!」

幾度となく身体を揺さぶられて、セイはふと我に返った。

 暴風に巻き上げられる砂礫の攻撃や、身体を食い尽くさんばかりの負のチカラは相変わらず強烈である――目前の絶望に、流石のセイでも、つい怯みそうになるのだが、是非はともかく、先程よりもだいぶ近くに見飽きた兄の顔があった。

「リョウ……」

どうも自分は気を失っていたのだろう――状況を理解したセイは顔を上げた。差し迫っていた筈の強大な魔法球は、リョウが何とか左手一本で寸止めしてくれている。流石にバツが悪く、何とか起き上がろうと腕に力を入れようとしたセイだったが、リョウは首を振って声を荒げた。

「もう動くんじゃねぇ!」

どうしたのだろう、リョウは泣き出しそうな顔をしている。目を合わせてしまったセイは、思わず動揺してしまった。

 きちんと理由を説明しようとするリョウの声が、今度は震え始める。

「だって、何か……」

話の腰を折るように、辺りに焦げ臭い匂いが漂い始めた。リノロイドの放つ巨大な魔法球がリョウの掌の皮膚を焦がしているのだ。リョウは更に詠唱を重ねて光魔法分子を召喚する。脂汗なのか冷や汗なのか涙なのか、頬を伝うものには一切構わず、何とかリョウは話を続けた。

「何だか、お前、このまま死んじまいそうで……」

――錯覚だろうか。熱い「何か」が全身を隈なく満たしていくような感覚が、セイの中で確かにあった。その動揺を落ち着けようとして、セイは一つだけ大きく息をついた。

「(そっか)」

幾らか冷静になった分、セイは理解した。

「(お前には、『シナリオ』なんてものが見えているんだな)」

セイは口元を緩め、リノロイドの魔法球に集中する兄の横顔を見つめた。


 そうしてやっと口から出たのは、

「ケッ、甘チャンめ」

という、お約束の毒である。どこが痛いのか判別がつかないほど軋む体の悲鳴を全て無視して、セイは無理に自分の腕で起き上がり、自分の足で立ち上がった。

「セイ、……」

まだ不安そうな兄に、セイは冷笑を返して“いつも通り”を強調した。

「せいぜい余計な世話を焼いてろ」

「余計な世話ってお前……」

ムッとした表情を向けたリョウをあえて見ないよう、セイはリノロイドに向けて腕を伸ばして続けた。

「お前が言い出したんじゃねえかよ」


――“絶対生きて、レニングランドに帰ろうな”、って。


 「覚えてりゃ、良いんだよ」

照れ臭そうにリョウが笑った。

「ま、低能に言われたかねえケドな」

心身ともつかぬ痛みに歪む顔を隠す為、セイはリョウから再度間合いを取り、神剣の召喚呪文の詠唱を唱え直す。

 「毒しか出てきやしねえ!」などとまたムッとしたリョウの横で、セイはアミュディラスヴェーゼアを構えた。対峙すれば、嫌でもリノロイドの魔力が漸進的に上がり続けているのが分かる。

 それとは対照的に、光魔法分子が枯渇してしまったセイに残されたチカラと時間には限界が見える。本当に“次”で最後になりそうだ――ならば、やるべきことは決まっている。

『闇よ、その黒き殲滅のチカラを経て今一度此処に降臨せよ!』



「(リョウ、お前は生きろ!)」 



――祈りを込めたセイの詠唱と同時に、あの竜巻のような風と閃光が再来した。

 しかし、

「ん?」

先刻よりはだいぶ楽になったような気がして、リョウは諭されるように目を閉じた。

「(リョウ、お前は、)」

リョウに合わせたわけではないのだが、セイも目を閉じた。

「(お前は生きて、ちゃんとその目で見るんだ)」

――オレ達が創り上げた世界を確かめてくれ。

「きっと、オレの分まで」

すべき事が手に取るように解るのは、お迎えが近いからだろうか。何だか笑えてきたセイは、神剣・アミュディラスヴェーゼアに全てを委ねた。

(4)

 どうも声をかけられたような錯覚があり、リョウは一度目を開け、セイを見た。


“『勇者』?――ったく。面倒臭ェな”


旅立つ前のセイは全てが煩わしそうだったが、今のこのボロ雑巾のようなザマは何だろう。何につけても、興味無さそうに素っ気無くしていたクセに、「もう動くな」と言うのに聞き入れやしない。


“オレは先に行く――それだけだ”


でも、そんなことを言って彼が先頭を走ってくれたから、リョウは気付けたのだ。光と闇は、溝こそ深いが、相容れないものではない。尊いものだということに。

 

“オレ達は、本っ当に終わらせたいんだ”


そう謳うリョウの声が、セイの耳にも聞こえてきそうである。何時だったか、リョウが敵将のソニアに誓ったこの言葉は、当時はいかにも“甘チャン”らしい甘ったるい理想のように聞こえもした。しかし、どうだろう。この甘ったるい理想が、今や希望として、もうすぐそこまでのところに転がっているのだ。ただ、


“愛されないのは、オレの所為なんかなァ?”


甘ったるい理想を掲げている所為で、彼は何度となく傷付いただろう――それをも知っているセイは、最後の防衛の為、然と目を開けた。



 “オレより先に、死ぬんじゃないぞ”


リョウの聞き間違いでなければ、セイは確かにそう言ったのだ。そう、セイはいつもそうなのだ。ジェフズ海の基地から自分とリナを脱出させてくれたり、リョウが悩んで全く剣を取れなかった時期はずっと彼が魔物と戦い続けてくれたり、つい先日だって、不意を打たれた自分の為に、回復呪文まで習得してきてくれて……

「(ひょっとして、今日も?)」

リョウはセイよりも一歩前に歩み出た。セイも気付いてリョウに並んだ。


“今、苦しんでる皆がいるこの世界を救えねえと、ひとっつも意味が無えんだよ!”


傷付いて、傷付いて、きっとリョウは強くなったのだろう。稚拙といえば稚拙だが、何処までも素直な兄の言葉は、この戦乱の世ではすっかり忘れ去られてしまったポジティヴな説得力を持っていた。

「(クソムカつくな)」

セイは思い知らされていた。どう考えても、リョウと歩き続けてきたこの旅で、セイの価値観は大きく揺らぎ、少なからず現在に影響されているのだ。そして、


“つまんねェ顔してるより、笑ってた方がずっと楽だ。……そういう意味じゃあ、ひねくれているのは、オレの方かもな”


つくづく、腹立たしいほど、セイはそれも嫌いじゃなかった。

「(ホント、分かったような奴だ。が、認めてやる)」


――誰よりも、お前は強い。



 セイの詠唱で集まってきた闇魔法分子が、何だか温かみを感じるくらい優しい――リョウはもう一度目を閉じた。

「(でも、これは……)」

そう、別段今に始まったことではないのだ。


“お前の甘ったるい理想に、命も未来も懸けてるバカが何人も居るんだよ”


勇者じゃなければ巷の問題児、もとい、セイは、散々他人様をバカ無能呼ばわりする大概な輩である。が、彼が今更躍起になって隠そうとしたところで、もう無駄なのだ――リョウはゆっくり目を開けた。


“兄貴のココロをぶち壊したテメェを、許しちゃおけねぇからここに来たんだよ!”


――分かってんだよ、お前が人一倍優しいコトなんて。


(5)

 上空から戦いを見守っていたフィアルは、『勇者』と『魔王』の召喚する魔法分子結晶の負のチカラが織り成すベクトルを分析することで、戦いの不利有利を見極めていた。

 今、再び長さの均しくなったベクトルを探るに、リノロイドの方には特段の変化があったようには見受けられなかったので、変わったとするならば、双子達の方の要因だと見ている。


 事実、あれだけ双子達の間に竜巻のように吹き荒れていた風が、今は嘘みたいに静まり返っているのだ。神剣を持つ手も、身体を支える足も――双子の『勇者』は全身を以て悟ったようにチカラの抵抗を受容できているに違いない。それを証拠に、

「絶対元素が、結合してる!」

フィアルの眼が歴史的瞬間を捉え始めていた。退け合っていた絶対元素同士が魔法分子間力を超えた新たな超自然的なチカラで結合し、どんどん結晶化していくのだ!

 

 勿論、その現象に気付いていたのはフィアルだけではない。

「目覚めたな、『勇者』よ」

今こそ、己のうちに眠る全てのチカラを解放する時――リノロイドは決心した。

「正しい者が生き残る!」

彼女は更に詠唱を重ねた。

『魔なる王の名の下に、闇よ、集え!』

闇魔法分子が一斉に『魔王』の元に帰属し始めた。

 


 「リョウ、」

そろそろ終わらせようか、とセイが言った。

「ああ」

そろそろ終わらせような、とリョウが同意した。

「……アリガトウな」

色々な思いを込めた挙句、故意に小さく声を落としたセイのその言葉は、リョウに届く前に、リノロイドの波動の爆音によって、かき消されてしまった。

「何だって?」

何と無く、大切な言葉を言われた気がしたので、リョウは聞き返した。

「しくじるなよ、って言ったんだよ!」

セイはニヤリと笑った。

「お前、ホンっトに嫌味な奴だな!」

引きつるリョウの顔中の筋肉は、やがて苦笑に変わった。そこへ、

「頼んだぞ、クソ兄貴」

などと爆弾が放り込まれたのだ。

 “兄貴”と呼びかけられたことなんて、これまで皆無という残念な兄・リョウは、

「……おうよ」

と、いつになく所在無さそうである――無論、セイとしては会心の一撃であった。

 

 双子達に、不思議と怖れ(おそれ)はなかった。

 眼前には絶望的な破壊力を持った“四大元素”のバケモノが牙を向いているというのに、双子達はこのように、根拠もなく落ち着き払っていたのだ。

『闇よ、』

『光よ、』

この数度目の詠唱もまた、図ったように一致した。


 『我が祈りに応えよ!』

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