第67話 アンドローズにて

(1)

 開戦まで後二日――タイムリミットが迫っている。

 今日明日中に魔王・リノロイドと接触せねば、光と闇の戦線上に不要な犠牲者の骸を並べることになるだろう。

「皆、覚悟は良い?」

リナの表情がこれまでに無いくらい険しいものになった。彼女ほど、悲痛な覚悟でこの“交渉”に臨んでいるものはいないだろう。それを垣間見ているフィアルも、一層表情を引き締めた。

「リノロイドと接触する前に、オレ達に仕掛けられただろうフィルターを突破しなきゃならない」

それがアレスやファリスを指していることを、皆理解していた。

「オレとリナ姉は、そのフィルターを取り除く」

フィアルの言葉に、リナも同意した。

「アンタ達二人には、とにかくリノロイドとの交渉を最重要事項に動いてもらう」

リナは心配もしていた。

 双子達には、“絶対元素”の二素のキャパシティーを最大限に引き出し、且つそれらを相殺し合うことなく、一つに束ねる為に必要な修練をする暇が殆ど無かった。

「彼女とは戦わないで済むことを祈る」

彼女はそう結んで後を託した。

「とにかく、行こう」

魔族専住地(サテナスヴァリエ)首都・アンドローズへ――

(2)

 四人は再び歩き出した。

 数刻も歩けば首都アンドローズの市門に辿り付くだろう。

 その間、リョウはセイに、彼が不在だった時のアンドローズ攻略の作戦について説明を加えていた。リョウ自身、あまり細かな点については理解していなかったので、かなり抽象的なものだったが、セイの方は聞いているのかいないのか、頷くことが何度かあったくらいで、いつものように無表情で黙々と歩いている。

 リナとフィアルは双子達から少し距離を置いて歩いていた。

「ヴェラ?」

リナからふと出たその女性の名を、フィアルは思わず聞き返してしまった。

「知っているのなら、教えてくれないか?」

とリナは傍らの長身の男を見上げた。


“本当はお前を連れ戻したかったのだよ、ヴェラ”


確かに、魔王はリナを指し「ヴェラ」と呼びかけたのだ。もしかすると、彼女の息子であるフィアルも“ヴェラ”という者について、何か知っているのかもしれないと思ったリナは、世間話のついでに訊いてみたのだ。案の定、彼は“ヴェラ”氏をご存知であるようだ。

「多分、姉さんの想像してる通り」

そう言ったきり、フィアルは回答を拒んでしまった。「“ヴェラ”など知らない」などと嘘でもつけば良いものを――と思ったリナは口元を緩めた。

「ファリスに訊けということか」

リナは正面に見え始めたアンドローズの市門に視線を移した。魔王側近筆頭であるファリスの居場所は、間違いなくあの市門の内側である。

「彼女は、何も知らないだろうよ」

フィアルも同じく市門を見つめていた。「ファリスなら何か知っているかもしれない」などと嘘でもつけば良いものを――と思ったリナは、口を切った。

「だからアンタに訊いたんだよ」

失笑したリナはもう一度傍らの長身の男を見上げた。2尺弱ある身長の差がもどかしい。

「魔王に訊くわけにはいかないだろうからな」

……このリナの言葉の本当の意味をフィアルが知るのは、まだ後のことであるが。

「姉さんには、ホント、参っちゃうな」

そもそもが純粋で、隠し事の出来ない気質である魔族の皇子・フィアルは一つだけ溜息をついた。

「じゃあ、正解か否かの二択に答えてくれれば良い」

とリナが切り出して、曰く。

「人工傭兵計画の首謀者・ダイノ博士には、二人の娘が居た。長女の名はファリス。次女の名はヴェラ?」

問題の最中だが、フィアルが仰け反った。「そんなこと知らない」などと嘘でもつけば良いものを――と思ったリナは、口を噤んだ。

「訊いたところで、誰も救われないと思うよ、それ」

フィアルの方が動揺してしまうくらいリナは落ち着いていた。彼女は彼に、一つ肯定の頷きを返して、曰く。

「アンタが何処まで私の事を知っているか、興味があっただけさ」

全く、嘘でもつけばいいものを――と彼女は思う。


森の木々が疎らになり始める。

 何がきっかけなのかは一切分からないが、目の前の双子の勇者達がまた口論を始めたので、リナが「両成敗」の文言を振りかざす。

「……ヴェラは、もう亡い。」

先の二択の問題の答えのつもりで、せめてフィアルはそう言って目を伏せた。

「そうか」

リナは、ほんの少し処世術の向上を見せた長身の皇子を見上げ、微笑んだ。

「ファリスにも、教えてやらないとな」

(3)

 やがて、大きな鉄の門が4人の目の前に現れた。アンドローズの市門である。

 青みがかった黒い鉄の扉は、アンドローズ創立以来光の民を退けてきた、「拒絶の表情」をしているが、同時に、大いなる歴史の中で、闇と光の争いに身を投じた戦士達を黙々と送り出してきたという誇り高き一面をも持っている。


 今、その扉は、アンドローズの住民をサンタウルス正規軍の攻撃から守る為に、固く閉ざされている。

 

 フィアルが歪な空を仰いだところである。

「この上空の何処かが、飛兵部隊と本部との連絡路なんだ。だから、バリアーが敷かれていない所が必ずある筈だ」

記述の通り、フィアルのテレポートによる侵入を防ぐ為のバリアーが、アンドローズ市をぐるりと囲んでいるのだった。ここからアンドローズ城まで、如何にそのバリアーを回避できるかが最初の難関だった。

「セイ、お前此処に最近までいたんだろ? 何とかなんねえの?」

門の前で立ち尽くすのも何なので、リョウは弟に訊いてみた。

「何とかなるんなら、とっくの昔に手は打っている」

“ラディオン”の時の記憶は、あたかも2日前に見た夢の如く定かでは無い。

「チッ。使えねえ奴」

「低知能に使われてやるもんか」

「コノ野郎……!」

いかなる状況下でも、この兄弟は相変わらずで、それがかえってリナとフィアルを冷静にさせていた。

「低速飛行をすれば、仮にバリアーにぶち当たっても、怪我することは無いだろう」

幸い、このパーティの各員が持つ飛空騎は“神獣”と呼ばれている、高度な魔法分子によって作られた抽象的な生き物だ。バリアーにぶつかっても、傷を受けて死ぬということは無いだろう。

「よし、行ってみるか!」

フィアルが先頭に立った。いざという時の為に、双子達は守らなければならない。

 

 各々が神獣を召喚し、リナはいつものようにリョウの肩に留まる。フィアルは炎鳥(フレアフェニックス)で。リョウは光明獣(ラハドールフォンシーシア)で。セイは暗黒獣(アミュディラスヴェーゼア)で。リョウとセイの飛空騎は、フィアルの後ろを並行して飛ぶ。

 

 アンドローズの輪郭がどんどん明らかになる。

 かつて闇の民の土地に足を踏み入れた光の民達の手によって、この、海に浮かぶ不自然な正方形の街は出来たのだと言う。

 闇の民と光の民の悲しい関係が此処にもあった。リョウは少しだけ虚しさを感じてしまう。目の前のフィアルや傍らのリナのような闇の民がいる事を、多くの光の民はとうとう理解しないままに、この最終決戦を迎えてしまった。

「オレ達には、もっと、伝えられることがあったんじゃないのかな」

そう呟いたリョウに、

「ソレハモット先ノ時代ニ生キル者ノ使命」

鳥の姿であったが、リナはそう言ってくれた。この戦いさえ終われば、この勇者達のやってきたことを見つめ直す時代は間違いなく訪れるだろう、と。

「今ハ最善ヲ尽クセバ良イ」

今となってはリナの言葉に甘えるしかなかった。


 遠くに、アンドローズ城が見える。それは正方形の形をした人工島の、丁度中心点に悠然と位置していた。光の民には馴染みの無い魔法分子を利用した建築様式で、伝統的な歴史的建築物とは一線を隔した超近代的な容貌だ。

 きっとそれは、アンドローズ城が直接魔王軍本部と並立している為であると考えられる。

 

 永き時に渡り、光の民達の侵略に対抗する目的で、「統治と防衛」は闇の民の為政者達の最重要課題だった。統治の象徴たる魔王――即ち“サタン”の本拠地が防衛の中枢と並立するのは、サテナスヴァリエでは常識だったのだと考えられる。


 城に近付くにつれ、城が魔王軍本部と何本もの階段で繋がっているのが分かる。階段と言っても、いわゆる階段では無い。何百本ものクリアボードが地上から魔法分子の柱により支えられているというもので、一見すると街中に巨大なクリスタルの原石が聳え立っているような神秘的なものだった。


 それに比べると、アンドローズの城下町に立ち並ぶ家々は地味というほか無い。首都だというのに、この静けさは何なのだろう。サンタバーレ遠征へ赴く戦士達を送り出した直後とは到底思えないような静けさだった。

 商店が小さな規模で展開しているが、人通りは疎ら。城下町に住む人々は比較的所得も高水準にある人々だと考えられるが、それでも家々は小ぢんまりとしていて、閑散としている。大きく、美しく、威厳ある城と比較すると、この街の様子はあまりにもミスマッチだった。

「(だから、焦っているのかもな)」

リョウは思った。


 目の前を飛ぶフィアルと、城の中にいるであろうリノロイド――光の民を殲滅し、戦争を終結させんと死力を尽くして戦う魔王と、それが為に民が貧窮に喘ぐのを看過できずに反旗を翻した皇子――彼等もまた、闇の民の人柱となり、苦しみを引き受けた戦士には違いない。

「(オレ達と、全く同じだったんだな)」

半年前までは、このリョウだって、魔王を倒せば戦争が終わり、平和が訪れるのだと思っていた。

「リナ、」

リョウがふと口を開いた。

「今更こんな事を言うのも何だけどさ、」

こう前置きを入れて、彼は言ったのだった。


「オレ、ホントは光の民と闇の民は共存できると思うんだ」


これまでの戦争がそれを事実上困難にしてしまっただけ。両種の溝は、既に埋めることが出来ないほど深い隔たりを持ってしまったのだ。

 だから“魔王”は片方を殲滅しようとしているのだ。だから“勇者”は、両種を完全に切り離そうとしているのだ。


誰も傷付かないように。

誰も傷付けないように。


「今ノ言葉、」

リナも口を開いた――魔王にも、そう言ってやってくれ、と。

(4)

 数分も飛ばないうちに、フィアルは前方からグリフォンがこちらに向かってくるのを確認した。

「(グリフォン……ヤカちゃんか?)」

何故こんな所で彼女と折り合ってしまったのかをすぐに飲み込めず、フィアルは一応、フレアフェニックスに停止命令を出した。

「フィア?」

突然、前を行くフィアルが停止したのだ。リョウとセイもそれに追従するしかない。

「(子供?)」

目視でその飛兵を確認したセイは、ヤカの見た目の幼さに、思わず目を疑ってしまった。成熟しているという印象があった魔王軍に、自分よりも年下の子供が混じっていようとは思わなかったのだ。

「戦うのか?」

リョウはフィアルに確認した。勿論、リョウには戦う意思などは無い。

「いやいや。大丈夫だ」

フィアルのその返事に、リョウとセイは安心した。

「彼女は、」

フィアルはヤカがこちらに到着する前に、彼女をリョウ達に紹介した。

「彼女は、第二部隊隊長ヤカ・シェイド・テューマ」

フィアルは、彼女がディストの被後見人であったこと、彼女から情報をリークしてもらっていた事を打ち明けた。

 「戦う態勢は整っていますか?」

挨拶もそこそこに、ヤカは一同に問い掛けた。

「今回は、アレス元帥の特命を受け、皆さんを安全にアンドローズ城へ案内する任務を負っています」

つまり、安全に罠へと誘導する役割である。

「要は、黙ってついて行けば良いんだろ」

セイは舌打ちした。罠と知っていて掛かりに行くのもつまらないが、少なくとも、打開の道はそこにしか開かれていなかった。


 再び3つの飛空騎はアンドローズ城を目指して飛ぶ。案内人がいるおかげで、飛行速度も上がった。もうあと数分で城壁へとたどり着けよう。

「あとは城壁の周りにバリアーが張ってあるだけです。」

ヤカがグリフォンを停止させた。礼を述べたフィアルに何とか応えたヤカは、不安げに勇者達を見つめた。

「私は、これからアレス元帥に首尾を報告し、前線へ赴きます。」

この幼い兵士にも、戦う使命が課されている。解放してあげられるか否かは、これからの戦いに大きく関わってくる。

「フィアルさん、」

別れ際に、ヤカは微笑をくれた。

「――信じています。」

彼等がすぐに終戦を告げにやってくることを……

「任しとけ。何も心配は要らないよ」

フィアルも精一杯の言葉で彼女を安心させた。

 

グリフォンが南へと往くのを見送って、3つの神獣達も大地へと舞い降りた。

(5)

 “報告します”

雑音と風を切る音と少女の声が通信機器から聞こえてきた。

“ターゲット、最終ゲートを通過。城内に入ります。どうぞ”

アレスは心を落ち着かせる為に、一つ深呼吸をしてから、

「了解」

と返した。

 二階のバルコニーから、一階の踊り場がよく見えた。かつてはそこに大地神ガイアの像が煌いていた。しかし、今となっては、がらんとした殺風景な様相を呈している。

 

“心苦しいものだな”

主君・リノロイドはそういうと、溜息を一つついたのだった。

“またすぐに此処に戻れる様、我々も最善を尽くします”

アレスは十分に主君の心情を察していたつもりだった。

“そうではないのだ、アレスよ”

しかし、主君は笑って首を横に振ったのだ。

“お前の方から、ヴァルザードに引導を渡すと言うものだから”

“畏れながら”

それが最も有効な策だった。魔王軍の為にも、この主君の為にも……

“しかし、覚悟なら出来ております”

私情を戦いには挟むまい。それは、魔王軍に配属された時から肝に銘じ、主君に誓ってきた言葉だった。ただ、平和の確立のために。

“お前は、よく私に似ているな”

主君・リノロイドは最後にこの言葉をくれたのだった。

“あの子にも、そう言われたのでは無いか?”

 

 エントランスに、4つの魔法分子が近付いて来る。

 アレスはいつの間にかうつむいてしまっていた顔を上げた。

 このフロアには、“漆黒の皇子”と呼ばれ、中枢から畏れられてきたヴァルザード皇子の迎撃に必要なものが全て用意されている。一切の抜かりは無いが、その代わりに、引き返すことは最早不可能である。アレスは腰に掛けていたサーベルの鞘をベルトから外した。


“お前さ、”

彼の残したあの笑顔が、まだほんのつい最近のアレスの思い出の中に焦げ付いている。


――オレの妹に、よく似てるんだよな。


(6)

 黒く艶やかに光る石の城門は簡単に突破することができた。肉桂色の石垣に、鮮やかな緑色をした蔦が、まるで鬼灯(ホオズキ)のような赤い実を付けて、重たそうに弛んでいた。

「此処が、アンドローズ城か」

リョウもセイも、そのあまりの美しさに圧倒されていた。

 何せ、“魔王城”だ。少し前までは伏魔殿(パンデモニアム)のようなおどろおどろしい雰囲気が漂う城を想像していた。


 ステンドグラスと金に縁取られているエントランスへと続く一本の道は、まるで鼈甲(ベッコウ)を思わせるような美しい石で敷き詰められ、それは生き生きとした芝によって輪郭が縁取られていた。

 その芝の無い所は、白い石の水槽となっている。城壁を内側からぐるりと水が囲むのだ。片方のコーナーにだけぽつりと在る蓮の葉が控えめで良い。

 硝子のようなすべすべと滑らかな青白い城の壁は、既に魔法分子によってプロテクトが施されていた。4人の頭上にフワフワと幾つも浮かぶ白くて丸い光は、戦いによって城が破損した場合の補修を担う魔法分子結晶なのだという。

「リノロイドは、この最上階にいるだろう」

静かに、フィアルは言った。城自体が魔法分子で厚くコーティングされている為、正直外からでは魔王の凶気を実感することはかなわなかった。

「ま、リノロイドが戦うつもりだということだけは明白だな」

セイは小さな溜息をついて、傍らの兄を見た。

「これからさ」

リョウはセイと目を合わせ、ニッと笑って見せた。

「そう、これからさ――」

フィアルはゆっくり扉に手を掛けた。

「覚悟は良いかい?」

フィアルの問いに、全員が頷いた。

「よし、行くぞ!」

勢いよく、扉は開けられた。

(7)

「すげぇ……!」

リョウは思わず感嘆の声を上げた。


 金の刺繍がしてある赤い絨毯は、エントランス正面から左右二手に分かれる螺旋状の階段へと続いている。

 天井は7,8階ぐらいの高さまで吹き抜けになっていて、天井にはエントランスと同じ模様のステンドグラスが貼りめぐらされていた。

 壁だと思っていた濃紺の石は、どうやら間接照明のようだ。上の階に行くに従って濃紺は白み、淡い光を中央に集めている。奢侈的なものは何一つ無いが、この城自体が宝石のように気高く、壮美であった。

「この階段を最上階まで昇ったところに、大きな扉がある」

フィアルがやや声をひそめた。

「その扉の向こうに、魔王がいる」

そこにできた重厚な沈黙に、まるでぽんと肩を叩かれたような錯覚があり、リョウとセイはそれぞれ頷いた。言葉こそないが、魔王の息子である彼が双子の勇者に託した思いは、然と受け止める――それを伝えたかったのだ。

「二人はとにかく、交渉を成立させることだけを考えてくれ」

重苦しさを嫌ったわけではなかろうが、フィアルは笑った――というか、唇に笑みを引っ張って見せた。

「フィア?」

彼のそのつくりものの微笑みの意味が分からないリョウは戸惑う。いや、答えだけなら、彼はすぐにくれた。

「オレは、此処でやらなきゃいけないことがあるから」

そんなことを言って、フィアルは二階方向に顔を上げた。まだ不安を残したまま、リョウがフィアルの視線の先を追った、その時だった。

 「おしゃべりはお済みになりましたか?」

リョウを始め、セイやリナも、今まで何の気配も無かった頭上に人がいたという事に先ず驚いてしまったのだが、そこにいた人物自体にも驚いた。まさか、此処で彼女と戦うことになろうとは、誰も想像しなかったからである。

「アレス!」

開戦間近、魔王勅命軍元帥たる彼女がこんなところにいてはいけない筈である――リナは寒気さえ感じた。世界が戦く知将が本気で勝ちに来たのである。誰も無事で済む訳がない。そこへ来ての、フィアルのこの申し出である。

「でも、それじゃあお前……」

フィアルの気持ちを知っているだけに、尚更リョウは動揺を隠せない。

「……。」

ふと、アレスを見上げていたセイが小さく何事か呟いたのだが、リョウは逸してしまった。

「オレは此処で、アレスを食い止める。皆は先に進んでくれ」

フィアルは気丈にもそんなことを言ってニッと微笑んだ。

「――頼んだぞ」

だから、リョウもそう後を託すしかなくなったのだ。

「じゃあ、行こう」

フィアル一人をアレスに向かわせる無理に困惑したままのセイとリナを連れ、ここはリョウが先頭となって階段へと駆けた。


「私を食い止める?」

アレスはひらりと一階に飛び降りた。手にはサーベル。今、その白い刃が鞘から滑り出て、顕になった。

「貴方にそれが出来るかしら?」

アレスの呼び寄せた水魔法分子が呼び寄せた負のチカラがサーベルに纏わり付いている。禍々しくも狂気じみた凶器の切っ先は真っすぐにフィアルに伸びていた。

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