歌姫の憂鬱

唇からの声は高らかに

言葉は花弁に旋律は絹糸に

抱く思いを感じる世界を

歌姫は歌い上げる


かけられる賛美の声

流される歓喜の涙

人々の感謝の言葉に

歌姫は一層歌に磨きをかける


けれど次第に歌に慣れ

そこに歌があること

日々より美しい歌が聴けることが

当たり前となってから

歌姫を振り返る者は誰もいない


歌姫はそれでも歌い

より高くより低くより深くより浅く

言葉を旋律を歌い上げる


意識を飛ばして倒れ込む

歌姫の喉から溢れるのは血

それでも誰も振り返らず


歌姫は歌うことをやめた

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