※
ーー長い夢から、目が醒めるような感覚にとらわれる。
目の前には見慣れた廊下が広がってた。
ーーそして両手にはプリントの山。
な、なに? また時間が戻ったの‥‥!?
確か私は、宗方くんを庇って轢かれたはず‥‥。
「きゃっ‥‥」
風が吹き、プリントが落ちそうになる。
落とさないように堪えようとしたけど、プリントはあたりに散乱してしまった。
「大丈夫!? 僕も拾うよ!」
落とした瞬間、さっきまで一緒に帰っていた筈の男の子が駆け寄ってきた。
「あ‥‥! 宗方くん‥‥!? ありがとう助かる‥‥」
今度こそ死んだと思ったのに、また時間が戻った。
恐怖なのか、戸惑いなのか、嬉しさなのか分からない感情が、胸の奥から湧いて来る。
ーー溢れそうな涙を私は堪えた。
そうして宗方くんは、ほとんどのプリントを拾ってくれた。
「はい二階堂さん! もう次は落とさないようにね」
「うん。次‥‥?」
「ああ、いや! 深い意味はないよ! じゃあね!」
‥‥私はおっちょこちょいとでも思われているのだろうか。
前と経験したのと同じ展開、日付と時間を確認すると、確かに時が戻っていた。
ーーこれは‥‥なんなの‥‥?
前回は生き返ったと言う喜びの方が強かったのに、今回はフツフツと恐怖が湧き上がってくる。
意味が分からない‥‥。
授業の内容も全く同じ、そうなるとこれは、三回目の授業になる。
なんで時間が戻るのか。私が死ぬと戻るの‥‥?
私はもう既に二回死んでいる。それは確実に事実で、感触だって身体で覚えている。
結局そんなことをずっと考え続けていて、他の事には全く集中できずに、放課後を迎えた。
この後はどうなるんだっけ‥‥。
私はすぐに、コンビニで強盗に巻き込まれることを思い出した。
行きたくない‥‥。行く必要なんてないよね。
ーー頭が現実の出来事に全く追いつかない。
そもそも本当に現実? これは夢?
初めに轢かれた後から、私はずっと病院のベッドで寝たままで、これは現実ではないのでは?
色んな考えで、頭の中が埋め尽くされる。
疲れた‥‥。もう帰って寝よ‥‥。
時間が戻るたび身体は、轢かれた事なんて嘘のように元通りになる。身体的な疲れのようなものも、当然無かったことになる。
しかし精神的な疲労は、どんどんと蓄積されている気がする
ーーだって二回も死んでるんだ。
私は、コンビニの前の道を通ることを避け、自宅を目指す。
自然と身体が自動車を警戒してしまう。この時、私は全身が震えている事に気付いた。
ーーもう、怖い。怖い。怖い。なんなのよこれは‥‥。
その時に私は、コンビニに宗方くんが居たのを思い出した。あの時にあそこに居たのは、私だけじゃなかったんだった‥‥。
‥‥もしかして、宗方くんが危ない!?
私が行かないことで未来が変わり、彼に危険が及ぶかもしれない。
行きたくなかったけど、そんなことを言ってられなかった。
私は方向を急いで変え、コンビニに向かう事にした。
ーーお願い。間に合って。
そして遠くにコンビニが見えてきて、中から宗方くんが出てくるのが見えた。
「宗方くん!!」
彼はキョロキョロと周りを見ている。私に気付いてないようだった
「宗方くん!!」
そして私に気づいた彼は、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「はぁ、はぁ、宗方くん‥‥大丈夫? なんともない?」
「ん? 僕? 大丈夫だけど‥‥? なんかあったの?」
宗方くんは、何事もなかったようにケロッとしている。
まだ強盗の人は来てないのかな? 時間的に、もう来ててもおかしくない時間ではあるのに‥‥。
「二階堂さん‥‥? どうしたの‥‥? コンビニに何かあるの?」
「ううん。何もないならいいの。宗方くんが無事でよかった」
これも未来が変わったってことなのかな‥‥。
ーー未来‥‥変わりすぎじゃない?
「なんだか分からないけど、僕の事心配してくれたんだよね? ありがとね」
「えっ。ううん。そんな、ありがとうなんて‥‥」
思うと今の私は超がつくくらいに不自然だ‥‥。宗方くん戸惑ってるように見えるし‥‥。
それなのに宗方くんは、優しい対応をしてくれてる。
そして宗方くんのお腹の虫が鳴った。私は彼をファミレスに誘ってみた。
一人で居ると怖くて、誰かと一緒に居たかった。
それに、時間が戻るたびに彼と話しやすくなってる自分がいる。
ただこれは私が、一方的に彼と多く話しているからなんだ。
でも時間が戻るたびに宗方くんも、心なしか私への対応が、慣れているような気がしてならない。
前の時はもっと二人きりの時は、慌てふためいていたようなイメージがあるのに‥‥。
時が戻ることで、過去が変わったりするのかな?
この時間の宗方くんは、私との昔を覚えてるとか‥‥?
「二階堂さん。何か‥‥あった?」
彼が不思議に思うくらい、難しい顔をしてたのかな私‥‥?
「まぁ、ない訳じゃないんだけど‥‥。宗方くん、話変わるんだけど一ついいかな?」
「大丈夫だよ」
ーー私は思い切って彼に聞いてみることにした。
「宗方くんと私って、学校で全く話した事無かったよね‥‥?」
宗方くんは、少しだけ間を空けて答えた。
「無かったと思う‥‥」
「宗方くん、昔から私の事知ってるみたいに話してない‥‥急に」
この質問の答えにも、少しの間があった。
「いや、ごめん‥‥。僕は昔の二階堂さんは知らないよ」
だよね‥‥。やっぱり知らなかったか‥‥。
「そっか。やっぱりそうなんだよね」
「あの、昔僕たちは知り合いだったの? 二階堂さんと僕は‥‥?」
「本当に覚えてないんだね。まぁ小さかったからね、お互いに」
宗方くんは何故かポケットに手を伸ばした。
そして私の持っているのと同じペンダントを取り出した。何故か血の様な物がついている‥‥。
そのペンダントは、昔私が彼にあげたものだった。
「いつも持っててくれたの‥‥?」
私のことは覚えてないのに持っててくれたんだ!!
「この血はちょっと色々あって‥‥」
「ううん。今、持っててくれてただけで嬉しいの」
私も首から下げているペンダントを、彼に見せた。
実を言うと私のペンダントにも、血がついている。
今回時間が戻った時に何故かついていた。何でだろう?
私が思うに、轢かれた時に私の血がつき、そのまま私と一緒に時間を戻ったと。
そうなるとこの不思議な現象はこのペンダントが関係あるのかな‥‥? なんて今日の授業中に考えたりしていた。
「え? なんで‥‥?」
宗方くんは私のペンダントを見て、驚いているように見える。血に驚いてるのかな‥‥?
「私のペンダントにも血がついちゃったの‥‥。でもお揃いだね」
私の仮説が正しければこの血は私が轢かれたという動かぬ証拠‥‥。そう。確かに私は二回死んでいる。
「昔近所にあきちゃんって女の子いたの覚えてない‥‥?」
「あき‥‥ちゃん‥‥?」
「そうだよ。たーくん」
私は全部彼に話してみることにした。この話もなかったことになるのかも知れない。
ーーだからこそ話そうと思った。
‥‥本当は宗方くんが自分から、思い出してくれたら嬉しかったけど。
「それが、二階堂さん‥‥?」
「そうだよたーくん。思い出してくれた?」
「あき‥‥ちゃん、なの‥‥?」
この感じ‥‥思い出してくれた!?
ここまで言わないと、逆に思い出してくれないなんて‥‥。とも思ったけどまぁ、それはそれ。
「久しぶりだね宗方くん。また会えて嬉しいな」
「二階堂さんはずっと気づいてたの‥‥?」
「うん。初めて見た時からずっと」
ーー小さい頃、私と宗方くんとは仲が良かった。
よく遊んでいた。でもある日、お父さんの仕事の都合で引越しが決まった。
でも私は当日まで、宗方くんには伝えなかった。
宗方くんは泣き虫だったし、絶対に涙を流す。そんなお別れは悲しいと思ったから。
だから前日にこのペンダントを渡した。また会えることを信じて。
またこうして会えたと気づいた時、私は嬉し過ぎたのを今でも覚えている。
「たーくんに本当にまた会えた。このペンダントのおかげなのかな‥‥?」
「なんで、すぐに言ってくれなかったの?」
「‥‥気づいてくれてるって、期待をしてたの。私はこんなにも覚えてたんだから、きっと‥‥って‥‥」
「そっか。‥‥覚えてなくてごめん‥‥」
申し訳なさそうな宗方くんを見て、私の方が申し訳なくなってきた。居なくなったのは私の方なのに‥‥。
「ううん。あの時、当然たーくんの前から居なくなってごめんね」
「それなんだけど、あの約束はいなくなることがわかってたからなの‥‥?」
「そうだよ‥‥。ごめんね。」
宗方くんからしたら、あんな約束をしておいて次の日に居なくなった。
裏切られた。なんて思ったりしたのかな‥‥。
「それでも‥‥言ってくれた方が良かったかも‥‥。」
「ごめん。でも出来るなら泣いてお別れなんて私はしたくなかったから」
ちょっとだけ怖い顔だった宗方くんは、いつもの優しい顔に戻った。
「昔の面影が全くないから、全然わかんなかったなあ僕は」
‥‥まぁ、それは猫を被ってるからなんて言えない‥‥。ここは女の子らしくだよね‥‥。
多分基本的に外にいる時以外の、つまり人に見られてる時以外の私は、昔と然程変わらないと思う。
「‥‥私も成長したんだよって、もう‥‥女の子なんだよって分かって欲しくて‥‥。覚えてなくても意識してもらいたくて‥‥」
私の持てる全てを出し、女の子らしく振舞って見た。クネクネとしたのは少しやりすぎたかもしれないけど‥‥。
でも宗方くんは優しい笑顔を向けてくれたから、これは成功なのでは? と私は思った
「改めて二階堂さん。これからもよろしくお願いします」
「うん! よろしくね。あと、あの約束はこれからも継続でいいよね?」
もはや彼に気持ちを隠そうとは私は思わない。もし、明後日を生きて迎えられたら、私はその時に告白をしたいと思ってる。
「え? うん!」
宗方くんも私の事を、結構良く思ってくれている気がする。
自惚れてるわけじゃないけど、私は結構可愛い方だと思うし‥‥。
冷めきったミートソーススパゲティを平らげ、しばらく何のたわいもない話をした後、そろそろ遅いので家に帰る事になった。
「宗方くん! 今日はありがとね。また明日!」
「僕の方こそ楽しかった。じゃあね!」
宗方くんは大きく手を振り、私の事をずっと見送ってくれていた。
私が死ぬのはおそらく明日だから、今日は何もないとは思いつつも私は周りを警戒する。その中でも特に自動車に警戒しながら、家に帰った。
ーーそうして何も起こることもなく、無事に家に着くことができた。
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