三回目。

××××××××




 2人の家はとても近く、よく2人でその間にある公園で遊んでいた。



 この日もいつも通り2人で砂場で遊んだり、滑り台を滑ったりしていたと思う。



 そしてこのペンダントをあきちゃんから渡された。



「これが私とたーくんを繋いでくれるんだよ!! これからもずーっと一緒にいようね!!」



 確かこんな事をあきちゃんが言った後、指切りげんまんをしたんだ。



 その次の日、あきちゃんは母親と僕の家に来て引越しの挨拶をしに来た。



 この時に僕はいなくなることを初めて知った。



 そして小さいながらに、裏切られた。と思った気がする。



 前日の約束は何だったんだ。って。



 それ以来、深く人と関わること無く暮らして来た。



 あきちゃんへの裏切られた気持ちからか、いつのまにか記憶に蓋をしていたんだ僕は。



「たーくんに本当にまた会えた。このペンダントのおかげなのかな‥‥?」



 そこで二階堂さんはようやくスパゲティを一口、口に運んだ。



 僕は今、二階堂さんが好きだ。昔、あきちゃんのことが好きだったかと聞かれると、それは分からないけど。



 でも、好きって気持ちがまだわからない頃、だからきっと大切な存在って表現の方が近かったんじゃないだろうか。



「なんで、すぐに言ってくれなかったの?」



 何か事情があって突然いなくなったのだと思う。そこまでは幼かったから、仕方がない。



 しかし、今は知っていたのなら、もっと早く知りたかった。や



「‥‥気づいてくれてる期待をしてたの。私はこんなにも覚えてたんだから、きっと‥‥って‥‥」



「そっか。‥‥覚えてなくてごめん‥‥」



「ううん。あの時、突然たーくんの前から居なくなってごめんね。」



「それなんだけど、あの約束はいなくなることが分かってたからなの‥‥?」



「そうだよ‥‥。ごめんね。」



 二階堂さんは悪くない。それは僕にはちゃんと分かってるはずだった。



「それでも‥‥言ってくれた方が良かったかも‥‥」



 男らしくないかな。こんなにとっくの昔に終わった話をぐちぐちと言っている僕は。



「ごめん。でも出来るなら泣いてお別れなんて私はしたくなかったから」



 そっか。その通りだ。きっと僕は泣いていた。でも裏切られたと思ってしまったから、悲しさよりも怒りの方が湧いて来たんだ。



 僕の記憶のあきちゃんは、好奇心旺盛で男の子みたいに元気で、いつも僕の前を走っていくような子だった。



 今の二階堂さんとは正反対のようで、それこそ今の二階堂さんはとても綺麗で、その辺の女の子より女の子のようで、とても静かな印象。



「昔の面影が全くないから、全然わかんなかったなあ僕は」



 ドリンクバーから持ってきたメロンソーダを、一気に僕は飲み干した。



「‥‥私も成長したんだよって、もう‥‥女の子なんだよって分かって欲しくて‥‥。覚えてなくても意識してもらいたくて‥‥」



 モジモジと恥ずかしそうに動く彼女を、僕はとても愛おしく感じてしまった。



 はぁ、なんて僕は単純な奴なんだ‥‥。



 今は表情にも、そして態度にも僕は出していないが本当はすごくすごく嬉しい。飛び跳ねるくらいに嬉しい。



 今好きな子が、昔仲の良くて、しかも、僕の前に現れてくれたんだから。



 裏切られた気持ちなんて今はどうでもよくさえ思う。



 様々な昔話に容赦なく翻弄された僕だが、二階堂さんを助けなくてはいけない。



 忘れかけていたが彼女は明日死ぬのだ。



「改めて二階堂さん。これからもよろしくお願いします。」



 なんて言ったらいいのかわからなかったけど、改めて挨拶をすることにした。



「うん! よろしくね。あと、あの約束はこれからも継続でいいよね?」



「え? うん!」



 これからもずっと一緒って事だよね? 今回の二階堂さんはいつになく積極的な気がする。これまでとは全く違うのはなんでなのだろうか‥‥。



 そして、そろそろ遅くなってきたので帰ることになった。



「宗方くん! 今日はありがとね。また明日!」



「僕の方こそ楽しかった。じゃあね!」



 小さく手を振り彼女は暗闇に消えていく。



 僕は大きく手を振ったあと、その後ろ姿が見えなくなりまでずっと見送っていた。



 あきちゃんか‥‥。



 今まで彼女と話していた時に、度々感じていた違和感の正体はこれだったのか。



 完全に記憶では忘れていたけど、どこかで覚えていたのかもしれない。



 ‥‥もし、また彼女が明日死ぬとしたら、今日の事は無かったことになるのか。



 街灯が暗い路地を照らす。僕はその灯りを避けるように家に帰った。



「ただいま」



「あらお帰りなさい。珍しく遅かったわね」



 お母さんはゲラゲラと、テレビのお笑い番組を見ながら笑っている。



「ごはん、出来てるわよ」



バリバリと何かを咀嚼し、笑いながら僕に言ってくる。



「ご飯食べてきたから大丈夫」



 そのまま階段を上がり部屋に向かおうとすると、再び母親の声が聞こえてくる。



「そういえばさー。あんたあきるちゃんと同じクラスらしいじゃない!! 覚えてる? あきるちゃん?」



 階段の1段目に乗せた右足を下ろし、母親に叫ぶ。



「知ってたの!? 教えてくれれば良かったのに!」



「今日知ったのよ。あきるちゃんとこの奥さんにあってね」



「あー、そうなんだ」



 僕はそう言い階段を駆け上がった。



 綺麗なベッドに寝そべり、天井を見上げる。



 今までとは違い明日は全く予想ができないな‥‥。



 もしかしたら二階堂さんは、死んだりなんかしないんじゃないのか?



 ポケットからペンダントを取り出し、そのまま手を伸ばし上に掲げる。



 タイムワープとでも言おうか。それはこのペンダントのおかげなのかな‥‥。



 そのペンダントを様々な角度で見ても、とても特別な何かがあるようには思えない。



 もはや不思議を通り越して奇妙だよね‥‥。それでもタイムワープには助けられたけど‥‥。



 いつもと違うことに戸惑い、余計に疲れた。それに考えて見たら、暫くゆっくり寝れてない気がする。



 ーーそして僕はいつのまにか眠りについていた。







ジリリリリリリリリ。




ジリリリリリリリリ。




ジリリリリリリリリ。






 次の日の朝、部屋の中にスマホのアラームの音が鳴り響く。



「うっるっさーーい!」



 寝坊しないようにと、昨日の夜に大音量に設定したのが、かえってアダとなったと後悔をした。



 よく寝たはずなのに、体にはどっと疲れがのしかかってくるような感覚。タイムワープをするたびに、精神的にも疲れがたまってきた気がする‥‥。



 僕は下に用意されている朝ごはんを食べる。



 もうこの朝食も3度目になる訳だ。当然メニューが変わるなんてことはなかった。



 周りの出来事が変わっていても、朝食のラインナップは全く変わる様子がない。



 それでも不思議と飽きたりはしない。



「いってきまーす」



 僕は小さな声でそう言い玄関を飛び出す。



「おはよう。宗方くん。」



「え?」



 玄関を開けたまさにその目の前に、二階堂さんが立っていた。



「ごめんね。驚いた?」



「いや、そんなことはないけど‥‥」



 とても驚いたが、変なとこでカッコをつけて謎の見栄を張ってしまう自分を殴りたい。



「一緒に行ってもいいよね?」



「当然だよ!」



 今回の二階堂さんは凄い積極的だ‥‥。ここ数日間は二階堂さんとしか話していないせいか、普通に話すことに慣れてきたんじゃないだろうか?



 いつもは1人で歩く道に、今は二階堂さんが隣を歩いている。



 違和感がありすぎて恥ずかしい‥‥。改めて二階堂さんを見ると僕とは全く釣り合ってない気がするよ‥‥。



 あんまり見てると気持ち悪がられるかも‥‥。



 くだらないことを考えていると、彼女は僕に一つ尋ねてきた。



 その質問があまりにもピンポイントで、何故か額から冷や汗が出てきた。



「ねぇ、宗方くんは過去に戻ったりするなんてことあり得ると思う?」



 彼女は確かに過去と言った。僕が過去に戻ってる事がバレてるのか‥‥?



 その唐突で図星すぎる質問に、僕は唇が固まって動かなくなってしまった。



「と、突然どうしたのさ!?」



 口からやっと出た言葉はあまりに不自然で、そしてとてもカッコ悪かった。



「宗方くん。ふふ。焦りすぎだよ。」



 二階堂さんは手で口を押さえながら笑っていた。



 あぁ、可愛すぎるその仕草‥‥。



 僕の頭の中はどうやら煩悩で支配されているようだ‥‥。



「本当にどうしたの‥‥? そんなこと聞いてきて‥‥」



「んー。いや、なんとなくだよ。気にしないで」



 そう言って二階堂さんはピョンピョンと、2、3歩僕よりも前に踏み出して行った。



 やっぱりなんか変に思われてるのかな僕‥‥少し馴れ馴れしすぎたのかな‥‥?



 この際だから未来から来たと言おうとも思った。



 でも、それは二階堂さんは死んだと伝えることになってしまうんだ。



 それは、それは絶対に出来ないよ‥‥。



 僕より少しだけ小さな背中を見つめて、僕は今回こそ絶対に守ると誓った。



「ねぇ、宗方くん! ちょっとコンビニ寄ってかない?」



 僕が答える前には既に彼女は、スキップのように軽い足取りでコンビニに向かって行った。



 なんだか僕はずるい事をしてるような気分になる。



 ここ数日間は本当に色んな二階堂さんを見てきている。それこそ本当に色んな彼女を見た。



 外から見てるだけでは絶対に分からないような表情や話しをしたし、今ではそれがとても愛おしくて胸が痛い。



 そんなコンビニに入っていった彼女を追いかけるように、僕もお店の中に入って行く。



 時間に割と余裕があるせいか、他の生徒やこれから仕事の人達も、チラホラと店内で買い物をしているようだ。



「ふんふーん」



 鼻歌を歌いながらお菓子の売り場を物色している、二階堂さんの後をついていく。



 それにしても本当に可愛い。なんだこの天使。そして彼女のキャラが全然違うのはなんでなんだ‥‥!!



 ーーその時、店内に男の大声が鳴り響いた



「オラァ!! おい、金を出せ!!」



 レジで接客をしていたおじさんに、覆面の男が刃物を突きつけていた。



 その男は昨日に強盗をするはずの男であると、僕はすぐにわかった。



 この何度も聞いた、聞き慣れた声‥‥。



 男は昨日とは違い、今日はしっかりと覆面をつけていた。



 なんて事だよ‥‥。あいつ、結局強盗をするのかよ‥‥。



 この隙にどさくさに紛れて、何人かのお客さんが店の外に走って出て行っている。



「宗方くん‥‥!私たちも‥‥!」



「うわっ‥‥」



 二階堂さんに手を引かれるままに、僕達もそのに出ようとしたその時。



「あれ? お前昨日のやつじゃね? あ、お前は早く金をつめとけよ」



 男に声をかけられ、一瞬でも足を止めてしまった僕は、制服の裾を男に掴まれてしまった。



「あ、安心してくれよ。強盗で殺人とかまでは、しようとは思わねえから」



「そ、そうですか‥‥。昨日やめとくって言ってたからもうやらないものかと‥‥」



 何を僕は強盗犯と、普通に会話をしているんだ‥‥。あり得ないだろ。



「あー。昨日は実は下見よ。覆面つけてなかっただろ? 俺の素顔警察とかにバラしたら、お前の事は殺すかも」



 その言葉を聞き、僕は全身に寒気が走った。



 刃物を持つ相手に殺すぞ。と言われるだけでこうも、全身が震え上がるなんて。



 この間に店員のおじさんがお金を詰め終わったようで、男はすぐにその場を去って行った。



 男が去った後、何やら一枚の写真が落ちてることに気づいた。



 そこには1人の少女が写っていた。



 誰だろうか‥‥。




 店員のおじさんはすぐにスマホを取り出し、どこかへ慌ただしく電話をかけていた。



 恐らくは警察だろう。それにしてもいままでの店員じゃないから、男の強盗は成功したと考えていいのだろうか。



 このお店や警察には悪いが、僕はこの件に関わるつもりはない。



 ーーつまり、早いとこ姿を消す必要があると言うことだ。



 それについては、二階堂さんも同じだったようで、僕達は足早にこのお店から遠ざかって行く。



「ねえ宗方くん。さっき強盗の人と話してた昨日って何の話‥‥?」



 ‥‥どうしようか。伝えていいだろうか? いや、伝えるにしてもどう伝えるんだよ。



 冷静に考えて、どうして強盗をすると分かったのか、二階堂さんに説明できる自信が僕にはない。



「いや、僕にも何の事だかよく分からないんだよ‥‥人違いしてるんじゃないかな‥‥?」



 結果、僕は適当な嘘をついた。



 ‥‥ごめんなさい二階堂さん。



「ふーん。分かった‥‥」



 二階堂さんは納得のいかない表情をしていたが、どうやらそれ以上追及はしてこなかった。



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