第23話 学園の女性職員は皆疲れているの?
ある日のこと、学園の校長に直談判しに来た生徒がいた。
当学園の生徒会長のオリヴィエである。彼女も某貴族の娘で、学園の生徒会長とは言え第四学年である。
この学園の生徒会長は代々第四学年から選ばれ、任期は二年である。
一年では何もできないであろうということで卒業までの二年間で腕を振るってもらおうという趣旨である。
「校長先生! 一体全体どういうことですか!」
「ん?はて、なんのことやら……」
「歓迎会の話です! この学園の職員全員がユウ先生といいことを…… いえ、何かしら怪しげなことをしているともっぱらの噂です!」
「いや、わしは報告を毎度毎度受けておるが、男女の間違いがあったという話は聞いておらんし、そもそも新任でやってきたユウ先生を、学園の職員が歓迎することにはなんの問題もなかろう」
「いえ、それであれば全校生徒側でもユウ先生を歓迎してもよろしいでしょう?」
「いや、まあその通りだが、じゃが今までそんな前例はないであろう? 新任教師の歓迎会を生徒側全員でやるなど聞いたことがないぞえ?」
「あ、当たり前です、校長先生! ユウ先生は男、いえ本邦始まって以来初めての『男性教師』だからです」
「まあ、そういうことかの……」
「ですから、学園の教員を含めた職員だけにいい思いをさせないで、わたしたちにも…… いえ、わたしたちもユウ先生をぜひとも歓迎させてほしいってことです!」
「まあ、それはわからんでもない…… じゃが全校生徒すべてと何回かに分けて歓迎会をやっていたら、毎日三十人…… アーティファクト、アーティファクト…… うん、およそ三か月はかかる計算じゃな……」
計算用魔道具の登場である。
「それにの、全校生徒が相手じゃ、さすがのユウ先生も壊れてしまいかねん。人数を絞るというなら考えてもよいがの……」
「では、校長先生…… ユウ先生との懇親会兼歓迎会に出席できる人間の選抜大会の開催を許可していただいてよろしいですか?」
「うむ、本人にも確かめてみるが、人数は三十人でよいか?」
「結構です。三十人選抜するための名目はずばり『ミス・カルム学園』でいきます」
「まあ、よかろう、好きにやってみなさい」
「ありがとうございます」
こうしてユウの知らぬところで、ユウの体力を削っていくイベントという名のたくらみが、産声をあげた。
さてそれはまだ先の話である。
職員による歓迎会、いやもう、一対三十の『お見合いコンパ』と言ってよかろう。
第六弾である。
第六回目は、最初は普通に居酒屋もどきでの飲み会となった。
さすがに今回はおとなしい歓迎会になりそうだな、とおれも安心していた。
疲れも溜まってきたし、じっくりと皆と話をするのもいい。
たまにはいちゃいちゃや、水着姿の品評会もどきの、なんかのとってもエロいシチュエーションもなくてもいいかなと…… と思ってました。
事の発端は、おれの隣に座る順番でいくと五番目くらいに割り当てられたこれまた美人さんと話をしていたことに始まる。
「ユウ先生、がんばってますよね。色々大変なのに、講義も生徒相談も、さらにはクラブ活動…… まだまだこれからも大変になると思いますけど、身体壊さないようにお気を付けくださいね」
「ええ、ありがとうございます。あなた方職員の人たちも色々大変でしょう、頭が下がります」
(なんというお優しい方…… 末端の職員にすらあのような言葉を…… みんなもユウ先生のやさしさに触れるともう死んでもいいとか言ってたけど、癒されるわあ)
「こちらこそありがとうございます。でもやっぱり最近肩こりとか背中が凝ってるなあって言う時が多くなってしまいました」
「ああ、肩こりですか、わたしも肩こり持ちでしたけど、今は比較的大丈夫です」
「ユウ先生、何か秘訣でもお有?」
「身体を温めやすい食べ物を多く取って、身体を冷やすものを少なくするだけでも結構違いますよ。それとわたしの場合は自分で『マッサージ』出来ますからね……」
「『マッサージ』ですか? それはどのようなものですか? 初めて聞きました」
「ちょっと背中を向けてもらえますか?」
「はい……」
「肩こりにここを刺激するとよくなるんです。一概に肩こりの原因は語れませんが、あなたのような若い人ならこれでいいかと……」
「あ、うん、とっても気持ちが…… 痛気持ちいいって感じです、はあ~、気持ちがいい……」
「先生、ユウ先生は魔術師ですか? 魔術師は魔道具使って似たようなことをやります。でも先生のように手だけで行う人を知りません」
逆隣の女性が教えてくれる。
「いえ、わたしは魔術師じゃないです、たぶん。道具を使うことはありませんね、ほとんど」
「先生、今度はできたら…… 腰を、わたしの腰を診てもらえませんか?」
肩をもみほぐしてやった女性は陶然として言葉もない。
「ユウ先生…… なんてすばらしい…… 『マッサージ』…… それだけで食べていけますよ、先生……」
詳しく聞くところによれば、マッサージという手技やそれを職業にする人はいないらしい。
女性ばかりの社会ではそれもありかもなとは思う。
だいたい前世でもマッサージは男の役目、マッサージする女性は職業にでもしていない限り身近で聞いたこともない。
宴会中であるにも関わらず、ついにはマッサージ希望の三十人が行列を始める事態となってしまった。
「場所を変えましょう、お店にも迷惑かかりそうですし……」
「ユウ先生、いいんですか? その、これだけの人数マッサージをお願いして……大変ですよ?」
「ええ、構いませんよ。マッサージは慣れてますから」
男の武器として苦節二十年磨いてきたおれのマッサージ力を舐めるなよ!
マッサージ会場は早急に連絡を取ってくれた方がいて、ロり校長の自宅で行うことになった。
最初はなんでうちで? ってことだったらしいが、気をきかせた職員がマッサージなるものを説明したところ一発だったらしい。 あんたも凝ってるんかい、ロり校長……
校長の自宅へと押し寄せた総勢三十人と一人……
校長の家はそんな人数など屁ともしない、豪邸ってやつでした……
大広間にみんなでお邪魔し、順番を待つ間にお茶をのんだり、お酒が入ったり皆雑談が忙しい。
学園での話が多いけれど、やっぱりおれのことがずいぶん話題にはなっていた。
三十人と校長を順番にマッサージしながらご希望の部位をもみほぐしていく……
それぞれが背中、肩、腰、ふくらはぎ、足裏と自分の違和感のある個所を説明してくれると、それに合わせて今のところ可能な限りマッサージしていく。
まれにマッサージで対応できなさそうな人にはその旨伝えて医療機関への通院を勧める。
「いや~ これは極楽じゃの…… 肩のこりがすっかりなくなったわ……」
校長先生、それはよかったな……
「これは気持ちよすぎます…… 麻薬を使わない麻薬とも言えそうです」
「一家に一台、いえ、一人に一人、ユウ先生がほしいです」
「ユウ先生の奥さんになる人は幸せだねえ」
「一人だけじゃなくていいんですからね、ユウさん」
『愛人でいいのでわたしも仲間に入れて……」
「これは癖になります」
さらにおれの不用意な一言が油に火を注ぐ……
「これ、肩こり等だけでなく『不感症』治療もできますよ」
「「「「なに!」」」「「「な、なんですって!」」」
ああ、やっちまった…… 指向性地雷踏んづけた気分だぜ……
「つまりはなにか? ま、マッサージで、マッサージで『感じさせる』こともできるってことなのですか?」
あ、ええ……まあ、そういうことです。
「なんという男性をわたしたちは目の前にしているのでしょうか…… 神様……これは奇跡です。ありがとうございます…… わたしたちは今、奇跡の瞬間に立ち会っているのですわ……」
そんな大げさな……
「是非ともその片鱗だけでも教えて、いえ、体験させていただけませんか?ユウ先生!」
「そうじゃの、わらわからも頼む……(五百年生きてきて、ついに初めての快楽を体験できるやもしれん!)」
それからたっぷりと時間をかけて、三十人の快感のツボを刺激してやったおれは朝まで寝れんかったわ……
だってみんな隣で快感のためにみだらな声を発してるんだもの……寝れるわけねえよ……
今日も間違いは犯しませんでした…… 息子さんかわいそス
数日後、おれは『性感帯の魔術師』というありがたいのかわからん二つ名をいただくことになってしまったよ。
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