ダークカラーエピローグ 〜タイムリープ能力を持った幼馴染コンビが異世界でデスゲームに巻き込まれる話〜

りう

1.僕が死ぬと、私が戻る

 キミたちに与えられた目的はただ一つ。

 ────この世界でたったひとりになるまで、戦い続けることだ。




           ◇



 静かな雨音で目が覚めた。


 辺りを見渡すと、自分が小さな部屋で寝ていることがわかった。ただ、それは見知らぬ場所だった。

 壁は湿気ったみたいな暗い色の木でできていて、灯りは蝋燭の淡い橙色と小窓から差し込む雨雲の鈍色。家具はベッドと地味なサイドテーブルのみだった。


 こんな場所、僕は知らない。

 初めて見る場所だ。

 そんな場所で目覚めた。これは一体どういうことなのか。


「……ん」


 ふと声がした。この部屋にはベッドは二台あって、それは僕の隣のベッドの中から聞こえた。掛け布団がもぞもぞ動き、やがて、ゆっくりと中の人物が起き上がって顔を出した。



 それは、凍えてしまいそうなほど美しい少女だった。



 僕は思わず息を飲んだ。ここに至るまでの記憶が無い僕だったが、その美貌には見覚えがあった。僕は彼女のことを知っている。


「ユヅキ」


 ユヅキ。雪のように白く透き通る肌と澄んだ瞳。

 僕と同じ私立誌季学園に通う、僕の幼馴染。


「……ミナト?」


 ユヅキが僕の顔を見て、眠たそうな顔で僕の名前を呼んだ。

 ただ、ユヅキはそこで黙り込んでしまった。というか、急に遠くを見つめるように、僕越しに何かを見つめるようにぼーっと固まってしまった。


「……お、おはよう」


「…………」


 僕が恐る恐る声をかけても、ユヅキはまだ固まったまま。


「どうかしたか?」


「…………」


「えっと…………聞こえてる?」


「……あ。ごめん」


 ようやく反応を示したユヅキは、パチパチと数回瞬きしてから、再び怪訝な表情になって辺りをキョロキョロ見回した。


「……どうなってんの?」


 それは、僕が目覚めた時と同じような反応だった。

 つまり、


「ユヅキも、ここがどこかわからないのか?」


「……」


 ユヅキが首を捻る。


「わかんない……」


 ユヅキは自分の掌をぼうっと眺めながら、静かに呼吸している。

 ユヅキも僕と同じように、自分がどうしてこんな場所にいるのかわかっていない様子だった。


 だとしたら、この状況は一体──。


 その時だった。


 ──コンコン。


 小さな部屋に、小さなノックの音が谺した。


「誰だ……?」


 僕は立ち上がり、ノックの聞こえた扉に近付いた。

 もしかしたらこの建物の持ち主かもしれない。その人なら、この状況について何か知っているかもしれない。


 僕は歩いて扉に近づいた。


 ──コンコン。


 またしてもノックの音。

 僕は鍵を開け、ドアノブに触れた。


「──あ、待って!」


 その瞬間、ユヅキが小さく呟いた。その呟きが自分に向けられたものだと気づくのに少し遅れた僕は、扉を開いてからユヅキの方へ振り返った。


「ミナト!」


 ────僕を見つめるユヅキの顔は驚愕に染まっていた。



「痛かったら言ってね」


 突如、落ち着いた女性の声が聞こえた。僕は声のした方──つまり扉の先に再び顔を向けようとする。が、身体が言うことを聞かない。それどころか、たちまち立っている事すらままならなくなってしまって、僕はその場に崩れるように倒れた。


「なに、が……」


 僕は賢明に顔だけを上げる。扉を開けたところには女性の影が立っていて、その手には灰色の刃物が握られていた。それで背後から刺されたのだと、僕は直感した。

 外からの光で影がつくられ表情は確認できなかったが、女性は穏やかに笑っているように見えた。


「痛くなかった?」


「ぐッ……!」


 まるで転んだ子供を心配する母親のような、優しい声音。しかし女性は素早い動きで腕を振り下ろし、今度は無抵抗の僕の腹を裂いた。着ていた衣服もろとも切られてしまうくらい、その刃物は鋭かった。


「これはどうかな」


 女性の動きは止まらなかった。


「大丈夫?」


 だんだんと眠りに落ちていくような感覚に襲われた。

 意識が朦朧としていて抵抗できない。


 幸い痛みは感じなかった。


 目の前が暗くなっていく。



 ああこれは夢か。




 嫌な夢だな。





 死ぬ夢。








 夢?
















 あ










           ◇










 静かな雨音で目が覚めた。


 辺りを見渡すと、自分が小さな部屋で寝ていることがわかった。ただ、それは見知らぬ場所だった。

 壁は湿気ったみたいな暗い色の木でできていて、灯りは蝋燭の淡い橙色と小窓から差し込む雨雲の鈍色。家具はベッドと地味なサイドテーブルのみだった。


 こんな場所、僕は知らない。

 初めて見る場所だ。

 そんな場所で目覚めた。これは一体どういうことなのか。


「……ん」


 ふと声がした。この部屋にはベッドは二台あって、それは僕の隣のベッドの中から聞こえた。掛け布団がもぞもぞ動き、やがて、ゆっくりと中の人物が起き上がって顔を出した。



 それは、凍えてしまいそうなほど美しい少女だった。



 僕は思わず息を飲んだ。ここに至るまでの記憶が無い僕だったが、その美貌には見覚えがあった。僕は彼女のことを知っている。


「ユヅキ」


 ユヅキ。雪のように白く透き通る肌と澄んだ瞳。

 僕と同じ私立誌季学園に通う、僕の幼馴染。


「……ミナト?」


 ユヅキが僕の顔を見て、眠たそうな顔で僕の名前を呼んだ。

 ただ、ユヅキはそこで黙り込んでしまった。というか、急に遠くを見つめるように、僕越しに何かを見つめるようにぼーっと固まってしまった。


「……お、おはよう」


「なにこれ」


 僕が恐る恐る声をかけると、ユヅキはぽそりと呟いた。


「やっぱりおかしいよ」


「おかしい?」


「ちょ、ちょっとミナト……あんた大丈夫なの?」


 ユヅキの表情が少し強張る。声色も、明らかに何かに動揺している感じだ。


「大丈夫って、なにが?」


「え……だって……」


 するとユヅキは、僕の身体全体をまじまじと観察しだした。


「だって、今……」


「どうしたんだよ」


 その時だった。


 ──コンコン。


 小さな部屋に、小さなノックの音が谺した。


「誰だ……?」


 僕は立ち上がった。もしかしたらこの建物の持ち主かもしれない。その人なら、この状況について何か知っているかもしれない。

 そして、歩いて扉に近づいた。


 ──コンコン。


 またしてもノックの音。

 僕は鍵を開けようと手を伸ばす。


「待って」


 その瞬間、僕はユヅキに呼び止められた。振り返ると、ドアノブに触れていないもう片方の手がユヅキに強く握られていた。華奢な腕にはかなりの力が込められていた。


「……どうした?」


「待って、待って待って……ちょっと待って、お願いちょっと考えさせてよ」


「待つよ」


 額に浮かぶ汗と小さな震えは、いつもの静かな様子のユヅキのイメージとかけ離れていた。何かに怯えているようにも見えるし、とても困惑しているようにも見える。だから僕はなるべく優しく、ユヅキに声をかけた。


「大丈夫か?」


「──まだ眠っているのかな?」


 僕の声をかき消すように、突然扉の向こう側から女性の声が聞こえた。落ち着いた声色だったのに、僕の声よりも圧倒的な存在感があった。


「…………」


「…………」


 僕とユヅキはお互い沈黙を選んだ。

 そしてユヅキに引っ張られ、二人で後退し、扉から距離を取った。


 ユヅキは扉を睨み続けていた。

 僕の視線は戸惑いながら、扉とユヅキの間を行ったり来たり。未だ状況が掴めずにいる。


「開けるね」


 そして、終わりは突然訪れた。


 ざく、ざく、ざくざくざく。


 あっという間に、扉に小さな穴が空いた。

 それは刃物を同じ箇所に何度も刺してできた、酷く歪な形の穴だった。


「見つけた」


 その穴から覗く真紅の瞳が、僕たちの姿を捉えた。宝石のように綺麗なその瞳は、しかし暗い輝きを放っていて甚だ不気味だった。


「すぐそっちに行くから、もう少し待っていて」


 ざく、ざく、ざくざくざく。

 鋭い刃物で、扉が切り刻まれていく。


「こんなものかな」


 やがて、扉は原型をなくした。

 それをやったのは一人の綺麗な女性だった。綺麗だけど髪はボサボサで、破れた外套を羽織っていて、片腕で松葉杖をついていて、怪我人のように見えた。

 綺麗なのに傷だらけ。まるで朽ちた宝石みたいだった。


「こんにちは」


 真紅の瞳の女性。

 それは僕が瞬きをした瞬間、僕たちの目の前にいた。


「──痛かったら言ってね」


 優しく言う声がした。


「大丈夫?」


 気遣ってくれる声がした。


「痛くないならよかった」


 彼女の言う通り、刺されていたのに、痛みはなかった。


 そして微睡の中に沈むように。


 僕の意識は消え、



 消え、





 。

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