乱離拡散【参】
*
翌朝、未明。
いつもより気持ち早く登城し、奇妙丸の屋敷の廊下を歩く。吐き出す息はまだまだ、白い。梅の蕾も咲いていない。年が明ければ、雪は随分解けるのだろうか。
すると、庭に人影を見つけた。
奇妙丸が雪の上を、上着1つ羽織ることなく、立っている。庄九郎は衣を取りに別室に立ち寄ってから庭に降りた。
「おお、庄九郎。来たか」
奇妙丸はいっそ恐ろしいほど、静かな目をしていた。――遠い昔、京に心を忘れて来た時のように。それは、昨晩名代として来訪して来た長可と、同じ目であった。
庄九郎は肩から衣を羽織らせた。まだ結っていない髪が衣の中で波打つ。
「庄九郎。朝餉を済ませたら、義父上のご機嫌を伺いに参る。勝蔵も呼んである故、供をせい」
「御屋形様に――でございますか」
「ああ。此度の輿入れ妨害により、織田家の面目は、世間から丸潰れじゃ。きっと、嵐が吹き荒れていることであろう」
奇妙丸は上着を羽織ったまま、屋敷に上がる。庄九郎が付いて行くと、「大紋を用意せい」と、姪を与えた。
「儂はまだ、家督を継いでおらぬ。故に、信長公の家臣の身でもある。同腹やら小袖やらで出向くわけにもいくまいて」
「は……すぐに」
奇妙丸の屋敷の戸を胡椒が開閉したことを確認すると、庄九郎は直ちに衣装を揃えるために、駆け回ることとなった。
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