梅林止渇【七】
*
恒興と庄九郎による、2人がかりの説教をどうにか終え、ふらふらと部屋に戻る。膝を立てることさえ許されなかったので、正座による痺れはじりじりと於泉を苦しめることとなった。
あの後、恒興からはどうにか逃げることができた。しかし、年子であり、於泉が池田家に引き取られた時から付き合いがある庄九郎は、於泉より2枚も3枚も
「もう……姫様ったら」
初瀬が呆れたような顔で、於泉の
「今日はあれほど、お爺様達がいらっしゃるから出掛けてはなりませぬ、と申し上げたではありませんか」
「だってぇ……」
「だって、じゃありません」
初瀬がぴしりと
「せっかく荒尾の大殿がお持ち下さったご縁でしたのに。お相手の方は、大層がっかりされておりましたよ」
「でも、父上も義母上も乗り気じゃなかったんだから、いいじゃない。お爺様だけが勝手に盛り上がっていただけでしょう」
「私はよいと思いましたよ」
初瀬は於泉の踵に
「姫様ももう13歳になられました。
「うー……」
痛む脚と戦いながら、温石を当てたまま板の間に座り直す。脚を組むと、びりびりと小さな稲妻が走り抜けるようだった。
初瀬は、後でお爺様に謝りなさいませ、とだけ言うと、思ったよりも説教は短く畳んでくれた。
初瀬が薬湯の入った湯呑を渡してくれたところで、文箱を包みに柚乃が部屋へ入って来た。
「姫様。岐阜のお城より、お届け物が届いております」
「岐阜のお城? 若から?」
「いいえ。三七様の家臣の方だそうで――新八郎様と名乗っておりました」
「新八郎……様?」
初瀬が目を見開き、固まった。
於泉は特に深い意味も考えず、柚乃の手元に目をやった。
柚乃は手に、
所々糸が解れ、色褪せてはいる。しかし、手入れはされていたのだろう。記憶にある鞠と、ほとんど遜色なかった。
(探してくださったんだ……)
新八郎との優しい目を思い出す。まるで、奇妙丸と初めて会った時のような高揚感を於泉は思い出していた。
(今度、お礼を言わなきゃ……)
新八郎は、三七と一緒にいるのだろうか。だったら、あまり岐阜には来られないかもしれない。
その代わり、次に会った時は必ず礼を言いに行こう、と於泉は決めていた。初瀬の顔色が変わっていたことにも気が付くことなく。
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