九月二十一日

・すんでのところ もう少しのところ。

・畏怖 強い者をおそれること。

・ひとかど 普通よりすぐれていること。

・堂に入る 物事にすっかり慣れて優れている。

・伝家の宝刀 切り札。

・生起 ある事件や減少などが現れ起こること。

・律する ある基準に照らして判断や処理をすること。

・精髄 物事の本質をなす最も重要な部分。

・追認 過去に遡って、事実を認めること。

・いや増す いよいよと増してくること。

・十指に余る 十本の指で数えきれないほど多い。

・ア・プリオリ 経験に先立つ、先天的な認識や概念。

・毀誉褒貶 ほめることと悪く言うこと。

・押し出し 人前に出た時の印象。


―――これはもう短編でもなんでもなければ、唯の雨石穿のモーニングルーチンである。


ああ、泡に溺れている感じを溶けている意識の中で生起させる。

この霞みきった水蒸気か何かが身体を包んでいるような感じがする時、大抵は半覚醒状態である。

低い唸り声をあげつつ、もっこりと頭がはまる隆起が二つ作られている特殊な枕を本能的に右手で殴り、身体を強制的に起こそうとするも中々上手くいかない。

母親の胸元で踠いている赤子を連想すると様子が分かり易いか?


遠回りだよ馬鹿野郎。


それでも精神年齢は少し自立した高校生ぐらいの赤子は、布団から出ずに起きれないかと悪足掻きに何度もトライする。

あ、地面に滑り込むトライじゃなくてその真逆の運動にトライするということだ。

まぁ、なんだ。昏倒する意識下じゃまともな表現も出来なくなってしまっている阿呆だと遠くから俯瞰してくれ。

今はすんでのところで意識をギリギリ保っている。意識が溶ける前に思考を重ねねば。


「我が専心はこの動作にあり」と心の中で一丁前に堕落した言葉を飛ばしていると、目覚ましが忙しなく鳴り響く。

アラームのナンバーは3であり、セット時間午前7:20分。遅すぎだ。


―――アラームの音が身体の覚醒ではなく、「起きなくてはならない」という責任感の覚醒を促す。

今、細胞は全く起きていないが、張り巡らせた神経回路に意志は届くようになっているので身体を律してすんなりと起きれた。


パジャマのままであるが洗面台の前で顔を洗いつつ目脂を落とし、寝癖を冷水で雑に直す。

今日はそこまで酷くなかった。運が良い。


リビングに移動し、母が作り置きしていた朝食をいただきます。

まずは、前菜......といってもなんだ、これは???


10指に余るスプラウトと少し潰れたトマト、キュウリのシーザーサラダだが一つ異端な果物が。

・・・ん?グレープフルーツ?????

吐き気がいや増す。作ってくれたのは助かるが母親は味覚の精髄を理解していないのだろうか?シーザーサラダだぞ?ドレッシングと合う訳があるのか?


母親が仕事で忙しい合間に何かしらの食べ物を作ってくれるのは助かるし、長年作ってきたことから腕前も堂に入っており、これまでの品もひとかどであった。


それから追認するとこの品は美味い判定を受けるが・・・

ふと、これって実は美味いのではないか?と妙な確信が頭に轟く。

さっきまでは否定ばかりしていたのに、ア・プリオリってやつだろうか?


意を決してグレープフルーツとキュウリを口の中に放り込むと、そこそこ美味い。

馬鹿舌なのかもしれないが、シーザーサラダの独特の食べ物と馴染む感じがグレープフルーツの甘みと酸味でキュウリの後味の苦味を中和している間に入り込み、絶妙に噛みあっているように思えた。


シーザーサラダを始め他の品々も平らげ、最後は自分の伝家の宝刀「珈琲」をズズっとすすりまくる。


眠気は覚めるが、飲み過ぎているので押し出しが悪くなっている気がする。


他人の目なんてやっぱどうでもいいけど、少しは気にする。

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