九月十七日

・憤懣 腹が立ってどうにも我慢できない気持ち。 indignation

・オーダーメイド 注文して作ったもの。特に、注文服。 order-made

・伏線 小説などでのちの展開に必要な事柄をほのめかしておくこと。 foreshadowing

・周縁 物のまわり。ふち。 rim

・判然 はっきりとわかるようす。 clearness

・清貧 私欲を捨てて行いが正しいために、貧しく生活が質素であること。 clean and poor

・美辞麗句 うわべだけ美しく飾った言葉。誠意のない言葉。 florid expression

・殊更 わざと。特に。 especially

・下駄を預ける 物事の処理などを相手に任せきるときのたとえ。 leave to

・勘案 諸事情を考えあわせること。 consideration

・口の端 言葉のはしばし。うわさ。 gossip

・閑却 いいかげんにしておくこと。 negligence

・巨星堕つ 大物が死ぬ。 death of a great man

・男子厨房に入らず 男は台所に入って料理を作るべきではない。 Men shouldn't be allowed in the kitchen.


「ああッ!クッソ!!!伏線張りが上手くいかないのじゃあ!!!!!」

憤懣を諫める為に太ももを両手で小刻みに叩くが、どうも思考回路に隔たりが生じているようで卑猥な音にしか聞こえない。

「くふっ」と限界まで耐え忍んだ結果である歪んだ笑みを浮かべるが、それは完全に集中力が切れた合図だということに今は成り下がっている。


清貧に則った和室に置かれ、周りの状態と比較すると判然としている自分のオーダーパソコン《Desire》をシャットダウンさせ、暫し電源ボタンの周縁をゆったりとなぞり、思考に耽る。


これから何をしようか、勉強も今日一日満足できる程やったし......なんか作って食べるか。

そう思い立ったら即座に実行。痺れた下半身に生気を注入し直立する。


寝るという選択肢は無かった。カフェイン中毒者の俺は変な時間帯で睡眠をとると、体内時計がすぐに壊れてしまうからである。


和室の外に出ていくと、簡素な中庭が一望出来るガラス張りの通路を斜光が射る。

案外、飯を食うという衝動は時間に適していたようだ。

右手で顔を覆いつつも通路を抜けてリビングに踏み込む。

甲高い泣き声がテレビから聞こえたので、不思議に思って画面を注視すると、「巨星堕つ」という大きなテロップが確認出来る。


―――大物俳優が自殺したらしい。しかも自分がよく知る方であった。

原因は......口の端の発展と推測されている。


意気消沈しながらも台所に向かうと母が皿洗いをしながらテレビを放心しながら眺めている。

しんしんと蛇口から水が滴る。


「お母さん、水の無駄だよ」

そうぶっきらぼうに聞くと、母は非常に険悪そうな顔をしながら

「男子厨房に入らず」

と返してきた。


「見たいならいいよ。俺が皿洗うし」

「貴方は普段忙しいだあーだこーだ難癖つけて、殊更閑却するでしょうが」

「お母さん、あの人のファンでしょ?俺も飯作りたいし、勘案しようぜ」

「はぁ......悪いわね。下駄を預けるわ」


中々語彙が激しく飛び交う会話であった。

皿洗いなんてやるより、最期の情報を聞き取るべきだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます