九月十五日

・伯仲 力などが接近していること。 evenly matched

・リアルタイム 同時。 real-time

・変幻自在 思うままに姿を変えて、現れ消えること。 phantasmagoric

・からくも やっとのことで。 barely

・爪に火をともす 苦労して倹約すること。 extremely thrifty

・威容 立派で威厳のあるようす。 authoritative look

・行脚 諸国を歩き回ること。 pilgrimage

・寓意 ある意味を直接には表さず、別の物事で表すこと。 allegory

・在野 公職に就かないで民間にいること。 out of office

・原体験 記憶の底にいつまでも残る幼い頃の体験。 formative experience

・一端に触れる ほんの一部分に出合う。 touch one end

・剣が峰 噴火口の周縁。瀬戸際。 desperate state

・身代 財産。資産。 fortune

・鹿を追う者は山を見ず 一つのことに夢中になり、他のことに余裕がなくなること。 You cannot see the wood for the trees.


修学旅行旅行で沖縄に向かう途中、飛行機が海に墜落した妄想だ。


(ああっ!!クッッッソ!!!運転手や教員の寓意の所為でッ!!!!)

何が「もう沖縄の近くですし、万が一でも大丈夫ですから」だ。

踵が海水ですっぽり埋まる程の浸水が機内で起こり、前方の俺からでは状況の視認が出来ないが後部座席の方の明るい女子達がリアルタイムで泣き叫んでいるらしい。

在野だから当然のことなのかは知らないが、沖縄への案内役の人も相当慌てふためいている様子。

時々刻々と浸水が進み、冷静な判断が出来ない集団心理に憑りつかれていない俺にはまだ希望があるかもしれない。

心拍数は上昇しており、足は冷たいが頬には熱が。

もう少し血管を収縮して欲しいところだ。

自分の知の身代である原体験にDive deep.

危機回避の知識の一端に触れ、その時に行った行動パターンを再起させる。

たしか、父親と全国を行脚していた時にフェリーが沈没した事故を目の当たりにした。

その時、フェリーから脱出していた人はハンマーかバールのような鈍器で窓を破壊し、そこから抜け出していたはずである。

生憎、現在の自分に鈍器のようなものはなく、あるのは、否、履いている非常に硬い革靴のみ。

俺は変幻自在。ぬっと席を立ち上がりすぐ左にある小窓の右斜め上の隅を、思い切り革靴で叩きつける。

後方の絶叫は鎮まるどころか、更に勢いを増す。

3回程叩きつけると、窓に雷のようなひびが入ると同時に指先が熱くなる。

切創であるが、燃えるように熱い。

爪に火を点すという直訳が合致するような状況だが、ことわざを自分に合わせるなら欲を倹約しているという点のみ。

ただそれは快楽欲求のみであり、生存欲求はしっかりあるのだ。

痛みが伴うことにも構わず窓の四隅にひびを入れ、最後に窓の中心を右手で叩こうとすると、腕に外部からの力がかかった。

力の元に振り向くと、クラスの権力者であるAが。

普段の威容が潰され、臆病な反面が露わになっているようだ。

ただ、目では「やめろ」とそれだけを伝えてくる。

この剣が峰で伯仲など馬鹿馬鹿しくてやっていられないので、鹿を追う者は山を見ず、再度右手に力を籠めて窓を打ち砕いた。


腹部をガラス片で浅く切り裂きながら、からくも脱出に成功した。


亜熱帯でも、今の海水温と塩気が傷口に沁みる。


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