九月五日

・脳裏 頭の中。心の中。 mind

・予断 前もって判断すること。 forecast

・邪推 悪い方に疑うこと。 wild guess

・暗礁に乗り上げる 思わぬ障害にぶつかること。 stranded

・不偏不党 いずれの主義や党派にも加わらないこと。 impartiality

・アニバーサリー 記念日。 anniversary

・安請け合い 軽々しく引き受ける。 make rash promise

・喜寿 七十七歳。 seventy-seventh-birthday

・傑出 多くのもののなかでずばぬけてすぐれていること。 prominence

・兵糧攻め 敵の食糧を断ち切って打ち負かす攻め方。 starvation tactics

・情動 急で激しく一時的な感情。 emotion

・ジンテーゼ 二つの矛盾することを、高い次元で統合すること。 synthesis

・桎梏 自由を束縛するもの。 fetters

・内股膏薬 都合しだいで意見や立場を変えること。 opportunist


俺は高校生であり、「彼」とは友人関係にある。

加えて、「少女」はクラスメイトかつ学年問わず相当知名度のある生徒で、「先輩A(名前を覚えていない)」は校内で現在実施中の生徒会役員選挙にでの立候補者で、「先輩B」は先輩Aと同様に選挙に立候補しているが、所望の役職はだ。


今は生徒達の和気藹々とした話し声、否、騒音が飛び交い、体感時間がとてつもなく長く感じる昼休み。


俺が教室の椅子で耳栓をしながら一人質素に弁当を食べていると、彼が机に前屈みに体重をかけてバンバンと机を叩きながら話しかけてきた。

「昨日、生徒会役員の立候補者の演説が放送室とのテレビ中継で流されてたけど、それから教室が異常に騒がしくなったなぁ。

副会長以外の役職への立候補者がそれぞれ一名で、副会長への立候補者が二名。

副会長への立候補者の先輩Bが、生徒会長への立候補者である先輩Aのアンチらしくて、学校内での投票の派閥...正確には先輩Aを会長候補から降ろす先輩Bを支持する人達と、先輩Aを支持して先輩Bを落とし、もう一人の副会長候補を副会長にする人達の二極化で校内が荒れてるもんな」


俺はで味わっていたほんのり甘い卵焼きを急いで飲み込み、口を開く。

「先輩Aと先輩Bとは...名前を知らないからといってよくもそんな滑稽な例えを...

まぁいい。兎にも角にも、こんな情動の集団心理で拡大した、大したことない騒ぎを見て何故俺に声をかけたんだ?」

「この派閥の差異の部分は、先輩Aのマニュフェストである(学力の強化)とそれに異を唱えた先輩Bの(学力を強化するよりも、傑出した我が校の運動部の実績をより良くすべきなのでは)という意見だね。

この意見のみを聞けば、本当にあったまカチカチの二人だと思うけど、両者は双方の意見を全否定する訳ではなく、最悪なことに先輩Aは部活、先輩Bは勉強という自分達の意見の痛い部分をあやふやにして、あたかもバランスが取れているように繕っているようにしか見えない。

それを過信した僕らのような不偏不党の人間以外の生徒が諍いを起こしている。

あまりに邪推し過ぎているかもしれないけど、一応僕の脳裏には予断を許さない状況への展開が浮かんでいる」


彼の話を聞いているうちに弁当を食べ終えてしまった。


「結局は何が言いたい?」

彼を少し睨みつけるながら返す。

「君に生徒会長か副会長に立候補して欲しいんだ。桎梏を破壊したりするのは君の主義と一致しているし、安請け合いだろ?」


深呼吸を行い、大きなため息をついた。

「ああ。分かったよ。まぁ実質的にはやらないと思うから別にいい」

「やり方は浮かんでいるのかい?」

「教えるからエナドリ奢ってくれ」

「分かった。弁当も食べ終わったようだし、外の自販機に向かいながら話そうか」


俺は無言で首肯すると、廊下に向かい、人混みを避けながら彼と一緒に階段を降りながら話す。

「策は兵糧攻めのようなもので、二人を支持する人達を対立させないように誘導し行動力を限界ま減らさせる。誘導の内容として、先輩Aの意見をテーゼ、先輩Bの意見をアンチテーゼとし、意見の曖昧な部分を全て取っ払った完璧なジンテーゼを俺の意見にする。これは無茶苦茶容易で、誰にも分かることだから間抜けな群集を導きやすい。派生として二人のヘイトを買い、誰か適任者(仮)にジンテーゼを丸投げ.........」


しまった。どうやら暗礁に乗り上げたかもしれない。

誘導後は適当な人物に自分の役を売り、何とかその適任者(仮)と俺にヘイトが向かないように治めるつもりが、ヘイトを相当殺せる人物が思いつかないのだ。


ヘイトを殺せる=人から恨まれない人=良い人(条件として知名度が求められる)...


いたな。


「内股膏薬だが俺が上手く操作出来れば、少女を適任者に指定しても良いかもしれない」


「少女とは.........ああ!あの子か!隠語が雑過ぎるね」


階段を降りきった一階の玄関口で彼は苦笑していた。


そういえば、次の立候補者演説の日は祖母の喜寿だ。

アニバーサリーなのでなにか恩恵を授かることに期待。




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