第57話 拒絶と強硬
「そんなことを言われて、俺たちが素直に吐くと思うか?」
十分な広さのあるロベルト邸の一階に走る通路。
そこへ現れたグリードの放った挑発的な発言に、黒服側も自分たちがマフィアという組織に属する人間であるというプライドを見せつつ、決して引くことなく応じた。
だが、グリードはそれを一蹴するように、深いため息を漏らす。
「だから、そういうやり取りが嫌だから、用は無いって言ってるんだ。次はねぇ、素直に聞かれたことを吐け。そうすれば命までは取らねぇ」
「ほぅ、随分と舐めたことを言ってくれるな。だが、こちらも聞かれたからと答えては、威信に関わってくるのでな、無理な相談だ。帰ってもらおうか」
後輩とは打って変わった、黒服の冷静な返答に、グリードは大きく舌打ちをすると、冷たい眼差しで対峙する男二人を見据える。
そして、こらえきれない苛立ちが漏れ出ているかのような声で、宣戦を布告する。
「今日の俺は、余計な仕事の連続で、相当に気が立ってるんだよ。言わせてもらえば、お前らのボスも、敬愛するアニキとやらも、俺が始末したんだ。あぁ、アニキの方はまぁ生きてるか。まぁいい、もう話をするのも面倒だ。どっちにしろ、アンタら二人が揃ったところで結果は見えてることだし、せいぜい死なないように頑張ってくれ」
「まさか、お前……一人でダンのアニキやボスを⁉」
「さぁな、もう忘れたよ」
驚き声を上げる後輩の黒服に対し、興味なさげにそう言い放ったかと思えば、グリードはそのままスタスタと足を進め、黒服たちの方へと向かってくる。
別段駆け出すでも、飛び掛かるでもないその動きに、一瞬身構えた黒服も、警戒は解かないものの、わずかに構えを緩め、様子をうかがい始める。
しかし、グリードからは一向に攻撃をしてこようという気配は感じられず、ただ近づいてくるばかりだった。
それでも、決して戦意がないというわけではなく、その身体からは弱者では近づくことすら躊躇し、逃げ出してしまいそうなほどの、いわゆるオーラとでも言うのだろう強烈な気迫を放っていたのだった。
無論、黒服たちも戦闘の素人ではない。
むしろ、多くの現場に赴き、それなりの修羅場を経験してきた猛者と呼んでもいい立場の男たちだ。
ただ、それ故にグリードの隙の無い歩行に、先制の機会を見出せずにいた。
「くそっ、これじゃあ埒が明かねぇ。どうせアイツを潰すつもりだったんだ、ここで引いたら死んだボスに合わせる顔がねぇよ!」
追い詰められたネズミがネコに噛みつく心境とでも言うのだろう、極限まで追い詰められた精神から、後輩黒服の起こした行動は、一か八かの先んじた攻撃であった。
それも、単純に殴り掛かるなどというものではなく、よりリーチの長い脚を用いた跳び蹴りである。
グリードとの距離が着々と縮まっていく中、短い助走距離で限界まで加速し、自らの心に生じた恐れや不安といった感情をすべてを置き去りにするように、後輩黒服はすべての意識をこれから起こる戦闘へと集中させる。
「食らいやがれっ!」
心からの言葉をグリードへとぶつけながら、相手の側頭部目がけて脚を振り抜くべく、後輩の黒服は宙へと飛び上がったのであった。
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