第56話 格の違い

 ロベルトの邸宅にて、ほぼ壊滅と呼んでも差し支えないほどの惨状を目の当たりにした黒服の男共は、組織のこれからについて頭を悩ませていた。


「くそっ、一体誰がこんなことを……」


「こんなことをしやがる奴なんて、あの男しかいないだろう! きっと俺たちが押し入るってことを知って、先に仕掛けやがったんだ」


「だとしてもよ、一体どうしたらこんなことになるんだよ。ボスは死んじまったみたいだし、ダンのアニキも満足に動けやしねぇ。これからどうしろってんだよ……」


「ボスの片腕っていうんなら、ダンのアニキが復帰してくれれば何とか立て直してくれるだろうが……それまでは、マルクに仕切ってもらうしかねぇか……」


「そうだよなぁ……まぁ、仕方ないことか。この一件で人員もだいぶ削れちまったし、これからしばらくは、忙しくなりそうだし、はぁ……」


「各地から招集かけて、体制を立て直して。事業の方が無傷だったのが不幸中の幸いってところか」


「まったくだ……せめて少しくらいは偲ぶ時間が欲しいところだけどな」


「それは葬儀の時にやるんだよ。今の俺たちにはやらなきゃならねぇことが山ほどある。今はとにかくマルクに連絡を取って、人員を集めてもらってから、この惨状の処理を終わらせて、今後の方針を固めてもらうしか――」


「そうだな、それじゃあ早速連絡を……」


「どうかしたか?」


 話を途中で切り、後方を振り返る、後輩の同僚に、黒服はその理由を尋ねる。


「いや、ちょっと騒がしい物音がして……」


 同僚の発言を受け、黒服も耳を澄ませて意識を集中する。


 すると、後輩の言う通り、決して近くはないが、男たちの騒がしい声や鈍い打撃音が耳へと流れ込んでくる。


「これは……ケンカか? どうやら外でやり合ってるらしいが、何があった?」


「さぁ? 元々血の気が多い輩だからな、仕切る人間がいないと些細なことで殴り合いを始めちまうんだ。今日は暴れられると思ったのに、そのまま引き返しちまったから、暴れたりないんだと思うぜ」


「そんな節操なく暴れるものか?」


 黒服は後輩から告げられた推測に、怪訝そうな顔をする。


 その瞬間、急に物音が消え、黒服はそちらに意識を持っていかれる。


「収まったか?」


「そのようだけど……」


 突然に訪れた静寂に、自然と息をひそめ、耳をそばだてる二人。


 そんな二人の心境を逆なでるように、乱暴に、玄関の扉が開かれる音が屋内へと響き渡る。


 そして、そらから間もなくしてコツコツと足音が聞こえ、黒服たちの方へと近づいてくる。


「この足音は、部外者か!」


「あぁ、違いない。ウチにあんな気取った歩き方をするような輩はいないからな」


 互いに意見を擦り合わせ、迫りくる外敵に備えて表情を切り替え、いつ戦闘になっても構わないよう、気を張り詰める。


 そんな二人の前へ、不意に姿を現したのは、褐色のジャケットにスラックス、くたびれた革靴に、これまた褐色の帽子を携えた、三十代半ばと思われる男性にして、彼らが一時探し求めていた男――宝石狂のグリードに他ならなかった。


「おぉ、よかった。まだ居たのか。それも、マシなのが」


 グリードは男共の顔を見るなりそう口にすると、旧知の友人に数年ぶりに再会したかのように、腕を広げ、静かな喜びとも三文芝居とも取れる微細な笑みを浮かべた。


 だが、そんな反応をされて、素直に喜べるはずもなく、黒服二人はそれまでの会話とは一転、敵意を露わにした、低い声でグリードに対する。


「外で暴れてたのはてめぇか!」


「ウチに手を出したら、どうなるかわかってるんだろうな?」


 平凡な一般人なら、すぐにでも尻尾を巻いて逃げ出してしまいそうな、威圧。


 ところが、当のグリードは涼しい顔でそれを聞き流し、自分の用件を一方的に伝えた。


「別にお前たちに興味はねぇ。俺が知りたいのは、お前らが連れ去った少女と、マルクの居場所だ」

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