第20話 格闘

 物陰より飛び出てきた人影は、いずれも若くもガラの悪い男どもであり、統一感のない色合いのシャツを身に着けながらも、皆がグリード目がけて距離を詰めてきていた。


「――くたばりやがれっ!」


 そして、コニールの上げた悲鳴に臆することなく、先陣を切った人物――赤色のシャツを着たパーマ頭の男が、手にした裸のナイフを迷うことなくグリードへと突き出す。


 しかしながら、グリードは最初からそれを察していたかのように、一切動じることなく、まるで背中に目が付いているのではないかと思えるような、鮮やかな身のこなしで瞬時に振り返り、突き出した男の右腕に組み付く。


「下がれっ、コニール!」


 必死に抵抗を試みる男の腕を、何とかひねり上げながら、グリードはコニールに距離を取るよう促すと、コニールは多少たじろいだ様子を見せながらも、素直にその場を離れ、先ほどまで滞在していた酒場の中へと飛び込んだ。


「女が逃げたぞ!」


「構うなっ、狙うのは男の方だけだ!」


「面倒事になったらどうする⁉」


「その前に終わらせりゃ済む話だろうがっ!」


 赤シャツの対応でグリードの動きが制限されている最中、男の仲間たちの声が銃撃のように飛び交う。


 その人数は赤シャツを除き4人。


 それは柄物のシャツであったり、緑色や青色のものを身に着けている者もいれば、橙色のシャツを着ている者と、様々であった。


 その間、コニールの行動によって彼ら4人の注意がグリードから外れてから、再び捕捉するまでの数秒であったが、グリードにとっては十分な猶予であった。


「ぐあぁっ!」


 痛みに耐えかね、赤シャツは悲痛な声を上げながらナイフを手からこぼし、そのままグリードに放られる形で平坦な大地の上へと転がった。


 そしてすぐさま、グリードはその場に屈み、足元に落ちたナイフを拾い上げる。


 瞬間、柄シャツの男が大きく拳を振り上げながら、グリードの元へととびかかってくる。


 それをグリードは、伸びてくる腕の下に腕を差し込み、そのまま上へと軌道をそらしながら、カウンター気味にナイフの柄でがら空きになっているボディへと叩きつける。


「うぐっ!」


 腹部への容赦ない一撃に、柄シャツの男は身体をくの字に折り曲げると、その場に膝をつき、うずくまる。


 いきなり現れた大人数の人間たちに、馬もパニックを起こしたようにいななき、逃げようと暴れ始めるが、馬具で繋ぎ留められていたこともあり、巻き込みを回避することができていた。


 次いで、休む暇を与えまいとするかのように青シャツと緑シャツの二人が、グリードの前後から挟み込むように、ほぼ同時に襲い掛かるも、グリードは素早くしゃがみ伸びてくる両者の拳を寸前の所で回避する。


 眼前で消えたグリードの頭の代わりとして突如として現れた、同僚の顔に、男どもは互いに驚きつつも、お互い勢いを殺すことはできず、結果として前方から襲い掛かった青シャツの拳が、緑シャツの顔面へとクリーンヒットした。


「わ、わりぃ……ぐへっ」


 予想外に攻撃を食らわせてしまったことに、思わず謝罪の言葉を漏らした青シャツであったが、グリードはそこへ容赦なく、低い位置から天へと突き上げるように、重く鋭い一撃を加えるべく、脚を振り上げ、青シャツの意識を蹴り飛ばした。


 どさりと音を立てて倒れる青シャツと緑のシャツ。


 その傍らに佇みながら、グリードは褐色のジャケットの崩れを着直す。


「勝負するときは、最後まで集中するんだな」


「くそっ……させるか」


 倒れる二人を見下ろしながら、グリードが深く息を吐く傍ら、痛めたであろう右腕を押さえながらも、決死ともいえる覚悟を感じさせる顔つきで、恥も省みず、赤シャツの男がグリードの腰へと飛びつく。


「どういう真似だ?」


 すがりつくように抱き着いてきた赤シャツを冷たく見下ろしつつ、グリードは一切動揺を見せずに尋ねた。


「へっ、もう遅いんだよ……」


 不敵に笑う赤シャツの男。


 その意図を察し、グリードは反対側へと急遽視線を向ける。


「最悪でも相打ちくらいは――」


 そこには、刃を光らせながら、隙の多い大振りな動きで手にしたナイフを振り下ろそうとする、橙のシャツを着た残りの一人が迫ってきていた。


 それは、絶体絶命ともいえる状況。


 しかしながら、グリードはそれでも慌てる様子を見せない。


「うぜぇんだよ」


 それは、つぶやくような、小さく、不機嫌そうな声だった。


 刹那、グリードは手に持っていたナイフを手早く放る。


 その軌道に、橙のシャツは一瞬身を固くするが、ナイフが顔のすぐ脇を通り抜けたことで安堵の顔を浮かべ、勝利を確信した笑みを浮かべた。


「残念だったな――」


 これが最後の口上とばかりに、そう言い放った橙のシャツであったが、その言葉は直後に響いた鳴音によって、見事にかき消された。

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