第188話 信頼
「…!」
ジーグルーンは声を上げる間もなく、土砂に飲み込まれていった。
障壁をいくつか展開するだけでは、大量の砂を完璧に防ぎきることはできないだろう。
砂に埋もれて身動きが取れなければ、スキルの発動も容易ではない。
「捕まってください!」
ミズアが私の体を掴み、後方へと退避した。
その直後、頭上から大量の土砂が降り積もる。
当然だが、これは私たちも巻き込む危険な策だった。
元々半分ほどが土砂に埋まっていた空間はどんどん狭くなる。
崩落は制御できない。
やがて、私たち2人分が辛うじて立っていられる空間しかなくなった。
膝まで砂に埋まっていく。
「ミズア!」
「ライナ!」
身を寄せ合い、手を握った。
2人とも抱く思いは同じ。
どうせ死ぬなら、2人で寄り添って死にたい。
==========
だが、運命の女神は私たちに味方したようだ。
天井から降ってきた砂の流れが弱まり、やがて止まる。
半身が砂に埋もれて一歩も動けない状態となったが、命に別条はなかった。
「大丈夫?怪我はない?」
「はい。ライナも怪我はありませんか?」
「あなたのおかげでピンピンしてるわ。全身砂だらけだけどね」
「ふふふ、ミズアもです」
私とミズアは、身を寄せ合った状態で互いの状況を語り合う。
【ルビーの杖】と【竜槍】は半分ほど埋もれた状態で傍に落ちているが、拾えなくはない。
もっとも、拾ったところで現状を打開できそうなスキルは使えなかった。
「あのジーグルーンを知略で破るとは流石ですね、ライナ」
私と密着しながら、ミズアがほほ笑んだ。
「何言ってるの、ミズアの力が無ければ何も出来なかったわ」
私もほほ笑む。
「それより、これからどうしようかしらね…」
「何とか抜け出せれば良いのですが…」
その時ー、
「【ストロングウィンド】!」
誰かの声と共に、強烈な風魔法が発生する。
私たちを飲み込んでいた土砂を、風を操り運んでいるようだ。
みるみる周囲の土砂は少なくなっていき、身動きが取れるようになっていった。
「ライナ補佐官!ミズア補佐官!無事でしたか。位置を特定できず時間がかかりました。申し訳ありません」
「エディト!?みんなは?」
「風魔法で土砂を制御し、安全な空間に退避しております」
声の主はエディトだった。
ドミーの【強化】を繰り返し受けることで、Bランクまで成長を遂げている。
背後には、エディト以外の【ドミー軍】古残たちもいた。
「良かった、2人とも生きてるよお…」
「心配しましたぜ!」
「砂の中で身を寄せ合う美少女2人…素敵!」
思い思いに私たちの無事を喜んだ後ー、
「「「ライナさま。我らに指示を与えてください」」」
私にひざまづいた。
「そんな。私が指示だなんて。さっきは冷静を欠いて皆に酷いことをー」
「大丈夫ですよ、ライナ。落ち着きを取り戻した後は、あのジーグルーンを見事破ったではありませんか」
戸惑う私を、ミズアが励ます。
「ドミーさまはライナにこの場の指揮を委ねました。あなたの命令に、みな従います」
【ドミー軍】のみんなも、私に期待の視線を向けていた。
エディトを始め、私が【魔法系】スキルを指導したものもいる。
「…分かった。未熟だけど、私がみんなの指揮を取る」
「「「さすがです、ライナ補佐官」」」」
問題は、この集団を率いて何をするかだ。
本音を言えばドミーを助けにいきたい。
そうすれば、私が指揮の責任を長時間負うこともないだろう。
ただ、ドミーは恐らく無事に生きている。
だから、やるべきことを果たしに行こう。
その方がドミーもきっと喜んでくれるはずだ。
「命令を告げる!」
「ここを速やかに脱出し、【ゲトアリ】の成体を仕留めに行くわよ!」
==========
「そうだ!立ち向かうんだよ俺たちが!」
俺は【シオドアリ】のオス1匹1匹に呼びかける。
メスより体はひ弱だが、その眼光には鋭い光が宿っていた。
なぜかと言えばー
(どみーさま、はずかしいのですが…)
「我慢しろシオ!オスたちに元気を出させるんだ!」
シオに「オスにとって魅力的なポーズを見せろ!」と命じているからだ。
その命令に従い、シオは体をくねらせ、オスたちを【魅惑】している。
「キュキュキュッ!」
「キュ〜〜〜!」
シオが体をくねらせるたびに、【シオドアリ】のオスは興奮したような叫び声を上げた。
「そうだその意気だ!お前たちもひ弱といえオス!オスなら、この巣の危機に立ち上がるのが筋ってもんだろ!俺の指示に従えば、お前たちもきっとモテモテだっ!!!」
「「キュキュッ!」」
にわか作りだが、数十匹の兵隊を手中に収めた。
問題は何をするかだが、腹は決まっている。
「いいかよく聞け!じきに【ドミー軍】という天下無双の軍団が合流してくる。必ずな」
ライナならきちんとやり遂げてくれるだろう。
だからー、
「それまでに俺とお前たちで橋頭堡を築くぞ!!!」
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