第164話 草原の王者、ドミーを少しざまぁする
新第3話も公開中です!
かなりパワーアップしてます!
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「…それが、カクレンを見た最後です」
「…そうか。ありがとう」
ルティアの口から、カクレンの過去を聞き終えた。
長い長い過去。
カクレンはムドーソ王国、ひいては人間にとって憎き仇敵であり、捕虜の殺害にも手を染めた。
だが、それでも愛する人や守りたい誇りがあり、最期まで信念を持って戦争に臨んだに違いない。
俺自身も、愛する人や名誉を守らんがため、多数のオーク兵を殺傷した。
俺とカクレンの違いは、勝敗だけ。
勝敗なぞ、戦場の神の気分次第でいくらでも変わる。
「ありがとうルティアさん。私の前で話すのは、辛かったでしょうに…」
「ルティアさま。ドミーさまは必ず、カクレンさまの遺志を継いだ政策を実行します。最後まで責任を持って…」
ライナとミズアも、礼を述べた。
2人にとって辛い場面もあったろうが、泣いたり取り乱すことなく、最後まで聴き続けた。
そのようなことをしても、ルティアにとってなんの慰めにもならないと分かっているからである。
いずれにせよ、ルティアの語りは終わった。
あとは、俺がこの2人を【支配】してこの旅は終わり。
【永遠の平和】の第一歩。
歪んだ平和。
女性はスキルによる直接支配、男性は命と力を得た女性による間接支配をもくろむ。
200年間意識に影響を及ぼす呪いの代わりに、民族に平和と繁栄による祝福をもたらすのが目的だ。
今はまだ男女30000人しか影響下にないが、生涯をかけて、オーク民族総勢500000人まで対象を広げなければならない。
(男性と女性両方が無条件で従う権威を持ち、なおかつ俺に好意的な指導者が続けばより盤石なのだが…)
暫定的な【女王】としてコウトを選出したが、その寿命はおそらく短い。
コウトには女性の子供がいなかったため、新たな女王はまた別のところから連れて来なければならないだろう。
適任者は、未だ思いつかなかった。
「…どうされましたか?」
ルティアが怪訝な表情を浮かべる。
「いや、なんでもない」
未来のことを今考えても仕方ない。
とりあえず、今やるべきことに集中しよう。
「あなたの読み通り、俺はとある働きがけをしに来ました」
2人に、手を伸ばす。
「お手をお借りしたい」
ためらうつもりはなかった。
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「カクレン…」
当然の話だが、ルティアはまず自分の身を差し出した。
カクレンの遺児、キリルはその後である。
【支配】される寸前、ルティアは愛する人間の名を呟いた。
(オーク人女性1人の【支配】を完了。ステータスを表示します)
子を守る母親 ルティア(【強化】後)
種族:オーク
クラス:未亡人
ランク:C
近接:4
魔法:0
統治:63
智謀:72
スキル:なし
個性:【純愛】【内助】【別離】
一口コメント:秘めていた素質はすでに失われている
服従条件:キリルの身の安全を保証する
大きく目を引くような点はなかった。
素質というのが引っかかるが、失われているならいいだろう。
「キリルの身の安全は俺が確実に保証する。迫害することもしない。将来を束縛することもしない」
「ありがとう、ございます」
「だから…頼む」
「…はい」
ルティアはキリルを差し出した。
キリルは、すやすやと眠っている。
赤子を【絶頂】させるという背徳的行為も、いつしか慣れたものとなってしまった。
俺は受け取ったキリルを慎重に抱き、その頬を触った。
しばらくすると、突風が吹いた。
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「おわあああああ!?」
「ドミー!?」
「ドミーさま!」
何が起こったか分からない。
異常なほどの突風だ。
【ユルタ】が瞬時にして吹き飛び、俺たち3人もそれに巻き込まれる。
(まずい!)
キリルを放してしまった。
ぐるぐると視界が回り、どこへ行ったか見当もつかない。
気がつくとー、
天高く飛んでいた。
「ドミーさま!!!手を!!!」
いち早く跳躍したライナが、俺に手を伸ばす。
「俺はいい!早くキリルを助けるんだ!!!」
「待って!!!あの子…」
「どうしたライナ…ってあれは!?」
地上に、キリルとルティアがいるのが見えた。
ルティアは我が子に駆け寄ろうとしているが、近づけないでいる。
キリルが、宙に浮いているからだ。
よく見ると周囲に空気の流れが発生している。
どうやら風がキリルの体を浮かせているらしい。
そのままぷかぷかと移動したかと思うと、徐々に降下してルティアの手の中に収まった。
(あれはまさか。しかし、そんなことが…?)
「失礼します!!!」
身の安全に目が向いてなかった俺に業を煮やしたミズアに、手を強引に握られた。
ライナも強引に握られ、ミズアは全力を持って制御に当たる。
速度を急速に低下させながら、なんとか草原に着陸した。
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「…ライナ、ミズア。大丈夫か?」
「ミズアは大丈夫です!」
「私も大丈夫…ってドミー!血が…」
「いや、大丈夫だ。少し目を切っただけだ。お前たちに怪我がなければいい」
傷そのものは浅かったが、俺にとっては感慨深いものがあった。
この戦争が始まって、はじめての負傷だったからである。
「ははははは!!!カクレンの娘もよくやる!!!成長していれば、俺なぞあっという間に討っていただろうな」
「ドミーさま、いったい何が起きたのでしょうか?」
ミズアは専門から遠いためか、分かりかねているようだった。
「ライナは分かってるんじゃないか?」
「ええ。多分ー」
ライナは半信半疑といった表情で答えた。
「キリルはスキルを発現した」
「そうだ!」
俺は嬉しくてたまらなかった。
「つまり!次世代の草原の王者となる!カクレンの遺志を継いだ草原の王者がな!!!」
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