第46話 死闘の始まり

胸の高鳴り。

紅潮する頬。

ドミーさまから【強化】を受けたばかりのミズアの肢体は、今まで体験したことないような感覚に包まれていました。


これが、【ファブニール】の言っていた恋なのでしょうか…?


レムーハ大陸の【女性】が今まで体験したことがないであろう、不思議な感情。

ドミーさまは、ミズアに命と【竜槍】だけでなく、幸せな気持ちも与えてくれました。


だからこそ。


脚に力を入れ、【メルツェル】機械人形の所に向かいます。

この【竜槍】で敵を倒し、ドミーさまや【廃兵院】の方々の命を救う。


それが、ミズアが今からやるべきこと。



==========



「…お待たせしました」

やがて、ミズアは浮遊している【メルツェル】機械人形を発見します。

森の上空を浮遊し、ミズアたちを探していたようです。

一つ目の顔と二つの腕から構成される、禍々しい戦闘兵器。


「あなたが、ドミーさまや【廃兵院】の方々を…」

【ビクスキ】による情報共有で、ある程度の事情は把握しています。

怒りが、ミズアの感情を包み込みました。


「…メクレンベルク・フォン・ミズア、参ります」

ですが、それを表に出すことはありません。

一度深呼吸してから、ゆっくり【竜槍】を構えます。


常に鋭く、冷静沈着に敵を打ち倒す。

それが、【竜槍】の後継者が理想とする戦い方だからです。


それから数秒後、死闘の幕が上がりました。



==========



目標、発見。


【メルツェル】機械人形の顔に当たる部位の深部。

あらゆる動作を司る思考回路は、目標としていた【竜槍】の使い手を視界にとらえた。

視界といっても、その範囲は幅広い。

浮遊する球体状の顔には、上下左右前後6つの眼球が取り付けられているからだ。

真正面から見ると1つ目だが、本当は6つ目なのである。


独自の判断にて目標を達成する。


【メルツェル】機械人形は、そう判断した。

実は、【メルツェル】機械人形の自己判断能力は高い。

だが、あえて単純な命令のみで動作するよう、思考を抑制する設計が施されていたのだ。

ふがいない動きにいらだっていたのは、メルツェル本人だったのである。


だが、100年の歳月が、で埋め込まれた設計の老朽化をもたらした。

【メルツェル】機械人形は抑制装置に自ら働きかけ、自由の身となった。

あとは、目的を達成するのみ。


攻撃。

事前の命令通り、【竜槍】の使い手を抹殺するための行動を開始する。

両腕の指の穴が緑色に輝き、光弾を発射する体制を整えた。

この間、およそ1秒。

だがー、


…消失?

青い瞳をした【竜槍】の使い手が消失する。


破損。

間髪おかず、自らの身ー正確には左腕に起こった異常が報告されてきた。

【スキル】に対する耐性を持つ【ラグタイト】で覆われた堅固な左腕が、【竜槍】によって貫かれたのだ。

先ほどからあらゆる攻撃を防いできたにも関わらず、あっさり爆発して脱落する。


ー竜槍は、あらゆる【スキル】や装甲に対する防御を無効化する。


古びたデータベースが、【メルツェル】機械人形の身に起こった事態を報告する。


危険、危険、危険。

回避を最優先。

上空に飛翔し、残った右上で光弾を連射。

森のいたるところに、光弾が着弾し、炎上する。


とりあえずの危機を回避し、索敵を再開しようとするもー


消失。


気配が完全に消えた。

森のどこにも、気配がない。

どこへー、

再びの衝撃。

今度は顔だ。

6つ存在する目の死角、左斜め下部に【竜槍】が食い込む。

なんとか身をよじり、最深部まで食い込むのを阻止した。

6つの眼球のうちの1つが、すさまじいスピードで過ぎ去っていく青い閃光を確認する。


エネルギー効率低下。姿勢制御に支障。


ーまた、【竜槍】の使い手は、高度な索敵機能であっても補足するのが困難な高速状態となる。


損害状況やデータベースからの報告を受け、これまでの戦術方針を放棄。


リミッター解除。

稼働時間を犠牲にし、出力を限界まで解放。

あらんかぎりの力をもって、【竜槍】の使い手を抹殺する。

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