第12話 赤髪生徒会長と怪物たち
――そしてついに迎えた美化運動当日。
「なぁ潤、サボってもいいか?」
「やめてくれ、どれだけ集めたか最後に確認されるんだ。僕一人じゃ成果をあげられない」
そう、僕たちは休日にもかかわらず学校の校庭に集合していた。時刻は間もなく十時というところだが、休みの日はこの時間でも寝ている僕たち帰宅部にとっては九時五十分の集合だってとても辛いのだ。
とても眠い……
玄さんじゃないが、正直サボりたい気持ちでいっぱいだ。
校庭の中央では先生が、ごみ袋・トング・地図の三つを配っていた。
「こっちで道具を渡していまーす。美化運動に参加する人は来てくださーい」
知らない先生だ、他の学年の先生だろうか。
「玄さん、あっちで道具を配っているみたいだよ。取りに行こう。あっそれと軍手はちゃんと持ってきているよね?」
「おう、言われた通り持ってきたぞ」
そういって玄さんはポケットの中からちょっと汚れた軍手を取り出してきた。普段から軍手を使っているのだろうか? 僕なんて新品を買ってきたのに。
そうして僕たちは先生から道具を借り、みんなが集まっている中央付近にそれとなく並んでみる。あっ水柿さんだ、こっち見てる。玄さんは……まぁ、そうだよね。
開始時刻になると壇上に一人の女性が上がってきた。その姿は堂々としていて、見る者の視線を惹きつけていく。多分あれが生徒会長なのだろう。……というかなんだあの赤毛は、あれが生徒会長か? 師匠め、あんなにわかりやすい特徴なんで言わないんだよ。玄さんとの会話で危うくボロを出すところだったじゃないか。しかもなんだあの眼光、キリッとし過ぎだろ。確かに格好いいけど少し怖い。
でも、頭の天辺から足元まで見てみるとすごくスタイルがいい事がわかる。師匠がモデル体形って言っていたのも無理はないだろう……胸が控えめなのが残念だが。
「皆さん、本日は集まっていただきありがとうございます。私は生徒会長をしている
そう言って会長は少し間を置き、全体を見渡す。
「……いらっしゃらないようですね。それでは次の説明をします。手元にある地図を見てください。AからFまでのアルファベットで区画が分かれていて、その中の一つが赤く囲われていると思います。それが皆さんがゴミ拾いをする場所になります。自分のブロックは確認できましたか? 私達生徒会と美化委員会で全体を巡回するので、何かわからないことがあれば、緑色の腕章を付けている人、もしくは教師に聞いてください。私からは以上となります。何か質問のある方はいらっしゃいますか?」
そして会長は最後にもう一度全体を見渡し、質問がない事を確認する。
「それでは質問もないようなので、早速始めたいと思います。皆さん怪我にだけは気をつけて最後まで頑張りましょう」
そう最後に言い一礼した後、壇上から降りていった。その後、校庭に集まっていた僕たちは自分たちのブロックへと足を進める。僕はふと隣にいた玄さんが気になり声をかけた。
「どうだ玄さん、なかなか綺麗だっただろ?」
僕も初めてみるけどね。
「まぁ、確かに綺麗だったが、ああいうキツそうな女はちょっと苦手なんだよな」
「おい、少し声を抑えろ。発言には気をつけないとファンクラブの人間に消されちまうぜ?」
僕はささやくようにして玄さんをたしなめる。
「んな馬鹿な話あるか、本当にそうなら物騒すぎるだろそのファンクラブの連中」
「行き過ぎた愛情は、時に人を狂気へと導いてしまうんだ。玄さんも気を付けろよ? でだ玄さん。僕たちがごみ拾いするのはDブロック、つまりは近くにある大きな公園とその周辺になるわけだが、しくじるなよ? ここから先は戦争だ、より大きな功績を挙げたものが生徒会長からの恩寵を受けることができる」
「大袈裟だろ、ごみ拾いだぞ」
「周りを見てもまだ同じことが言えるのか?」
そこには野獣のような目をした人たちで溢れかえっていた。そして、およそ人間とは思えないその眼光で他の人間を牽制している。
ちょっと待って、よだれを垂らしながら唸り声をあげている人までいるんだけど……僕もちょっと怖くなってきた。ってかあのおしゃれ坊主の生徒って柳君じゃね? 彼クラスの外だとあんな感じなの? 普段の陽気な姿はどこにも見受けられない。
「ごみ拾い、だよな? あいつらなんか目がいっちまってないか?」
うん、僕もだんだん怖くなってきたところだよ。でも、ここで臆するわけにはいかない。
「いいや、あれが正常なんだよ玄さん。この空間ではそうなっていない玄さんの方がむしろ異常なんだ。さぁ、早いところ支度をしよう。出し抜かれるわけにはいかない」
「おう」
っとそうだ、Ⅾブロックになった事を水柿さんに伝えないと。僕は水柿さんにメッセージを送りながら、清掃場所まで玄さんと一緒に向かう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そうして今、僕たちは清掃場所である公園にたどり着いた、わけなのだが何かがヤバい。
そこには
「ねぇ、玄さん。僕さ、生徒会長を狙うのは諦めるよ。普通に清掃しよう」
「ああ、賢明な判断だと思う」
玄さんはドン引きしながら僕に同意した。
正直、作戦の一つが潰れてしまうことになるのだが、この際しょうがないと諦めるほかない。あんな奴らと戦っていく勇気がどうしても湧いてこない。
そうやって現実逃避をしているとスマホが振動し、メッセージが来たことを僕に伝える。流石は水柿さん、ちょうど心を癒してほしかったんだ。
『ありがとう。多分十一時頃にはそっちに行けると思う』
その文章の最後には、見たこともない豚のような動物が、ファイティングポーズをしているスタンプが貼られていた。そんなところまで癒される。……それにしても十一時か。スマホの時計を見るとまだ十時十分、まだまだ時間があるし、それとなく玄さんに水柿さんの話を振ってみるか。
だが危険が伴う。余計に二人の関係をこじらせてしまう可能性は大いにある。でもここで何もしないまま二人を合わせても結局すれ違っちゃうんじゃないか? なら行動するしかない。もし失敗したらゴメン水柿さん。
頭の中で色々と考えつつ、玄さんとごみ拾いを始めていく。といってもほとんど拾うごみは見つからないのだけれど。あっごみだ……
シュパァァァァン!!!
あ……ありのまま今起こったことを話すぜ! 僕はごみを発見したと思ったら、そのごみはいつの間にか消えていた。な……何を言っているのかわからねぇと思うが……ってなんでだよ! つか何だ今の音、音速? 音速の音ですか? 隣の玄さんも目を見開いているじゃんか!
いやもういいか、適当にやろう。適当にやっても大丈夫でしょ。というより適当にやらないとヤられそうで怖い。何だか今の衝撃でなんだか落ち着いてきたわ。よし、玄さんに話を振ってみよう。
「なあ玄さん、この間話した好きな女性についてだけどさ……水柿さんと今は話さないの?」
ピクリと玄さんが揺れる。
「その話、なかったことにしてくれって言わなかったか?」
「うん言われた。でもその上で聞きたいんだ。君たち二人には仲良くしてほしいと思っている。少しでもお互いの気持ちを話してほしいと思っている…………だって僕は、二人の友達だから」
そういって玄さんを見ると、今までで一番怖い顔をしてこっちを見ていた。怒っている……ね、それと悩んでいる。多分玄さんが少し悩んでいるのは、僕が友達って言葉を使ったからだ。本当、僕の中で友達って言葉は口にすればするだけ価値が薄くなっていくガムみたいだ。最初は美味しいけど、噛めば噛むほど味が無くなっていく。でも、それでもさ……お互いに思い合っている二人が仲良くなる為なら、足の裏にだって引っ付いてやるよ。
僕は面倒くさい男なんだぜ?
「ダチでも簡単に話せる事じゃあねぇよ」
だから僕は、自己満足のために君の心を傷つける。
「ねぇ、もしかしてだけどさ……水柿さんを泣かせたの?」
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